「遺体をカレーで煮た?」浅草遺体カレー事件とは
浅草遺体カレー事件とは、帝京高校の元甲子園球児・島岡 丞(旧姓・吉田)とその弟、吉田 慶太と知人の川村 幸司が、東京・浅草の飲食店経営、小林和之さんを殺害し、遺体をハンマーで損壊、バーベキューこんろで焼き、カレーで煮込んだ事件である。
元名門高校球児が人間バーベキュー
東京・台東区の飲食店経営小林和之さん(当時27)が2009年5月から行方不明となっていた事件で、警視庁捜査1課は2012年9月28日、小林さんの遺体を切断、遺棄したとして死体損壊と同遺棄の疑いで、住所不定、無職の島岡丞(たすく)(34)ら3人を逮捕した。島岡は逮捕容疑を否認しているが、ほかの2人が小林さんの殺害を認めている。
島岡は、高校野球の名門で甲子園に出場した華々しい経歴を持つ。4人の間には、多額の金銭トラブルがあったとみられ、同課は殺人の容疑でも捜査を進めている。
元甲子園球児が、残虐な殺人事件に関与していた。島岡ら3人の逮捕容疑は、2011年7月下旬~同8月上旬に新潟県のマンションや長野県白馬村の貸別荘敷地内で、小林さんの遺体をハンマーで損壊し、バーベキューこんろで焼き、長野県の山中に遺棄した疑い。
島岡(元吉田姓)の弟の吉田慶太(30)、仲間の川村幸司(40)も逮捕された。
2009年6月に小林さんの家族が「(息子と)連絡が取れなくなった」と警視庁へ捜索願を提出。
2011年、同庁に第三者から「(小林さんが)殺害された」との情報提供があり、周辺捜査で3人が浮上した。現在も小林さんの遺体は見つかっていないが、犯行に使ったハンマーやこんろの購入時期が供述と合致したことから捜査1課は逮捕に踏み切った。
2012年8月に島岡、吉田両容疑者は、別の詐欺事件で逮捕、起訴され吉田容疑者が任意の調べに「遺体を切断し、焼いて捨てた」と供述。
また、吉田、川村両容疑者の供述によると、小林さんの遺体をバラバラにする前の約1年間は都内の倉庫の冷凍庫内で保管していたという。2人は、小林さん殺害も認める趣旨の供述もしており、捜査1課は殺人容疑でも捜査を進めている。
4人の間には多額の金銭トラブルがあったとみられる。小林さんの知人男性は
「バー経営も順調だったのか金の羽振りもよく、数年前、知人に1000万円ぐらい貸していると聞いたことがあった。今年は(小林さんを)三社祭で見かけなかったから不思議に思った」と振り返った。
島岡、吉田両容疑者は輝かしい野球経歴の持ち主でもある。島岡は、甲子園出場の常連、帝京高校で活躍。同容疑者には20人近くの親衛隊がいたほど人気と実力を兼ね備えていた。卒業後は、社会人硬式野球クラブ(企業チームではない)に所属。また、弟の吉田容疑者もリトルリーグの名門チームに所属。兄弟でエリート野球人生を歩んでいた。
「借金返済を迫られ…」 繰り返された遺体処理
吉田容疑者のほかに逮捕されたのは、同容疑者の実兄の島岡丞(たすく)(34)と川村幸司(40)の両容疑者。捜査関係者によると、島岡容疑者は容疑を否認しているが、吉田容疑者は「(島岡容疑者が)小林さんから借金の返済を迫られていた」と供述し、逮捕容疑だけでなく、小林さん殺害まで認めている。川村容疑者も大筋で認めている。
吉田容疑者の供述などから小林さんが失踪した経緯をたどると、こうなる。
21年5月下旬、吉田容疑者らは「カネを返す」と言って誘い出し、川村容疑者が住んでいた石川県小松市のアパートに小林さんを連れて行った。その後、大量の酒を飲ませて酔わせた上で、暴行を加えたとみられる。アパートの室内には血痕が残されていた。
遺体は約2年間、都内の貸倉庫の冷蔵庫に隠していた。そして、23年7~8月、新潟県内の河川敷やマンションで遺体をハンマーで粉砕し、長野県内の貸別荘でバーベキューコンロで焼いたり、カレーで煮たりした後、新潟、長野両県の山中に捨てたという。
なぜ、ここまで執拗(しつよう)に遺体を処理しなければならなかったのか。小林さんの右肩から胸にかけては蛇の入れ墨が入っていたといい、捜査関係者は「入れ墨から身元が分かってしまうのを恐れたのかもしれない」と指摘する。
捜査1課は吉田容疑者が捨てたという山中などを捜索したが、結局、小林さんの遺体を見つけることはできなかった。それでも、吉田容疑者らの供述通りにハンマーやコンロを購入していたことが確認されたため、死体損壊と同遺棄の容疑で逮捕に踏み切った。
投資話でトラブル?
捜査関係者によると、小林さんの交友関係を調べる中で、株の購入を持ちかけて、カネをだまし取る詐欺グループの存在が浮上した。島岡、吉田両容疑者がそのメンバーだったことから、捜査1課も8月に詐欺容疑で逮捕している。「(島岡は)地元では詐欺師として有名で、架空の投資話を持ちかけるのがいつもの手口。暴力団からカネを預かっていたが、そのまま連絡が取れなくなり、追われていたという話もある」。島岡を知る男性はこう証言する。
小林さんの知人男性によると、小林さんはかつて暴走族のメンバーだったことがあり、島岡も地元の不良グループに所属していたことから、2人には接点があったとみられる。
小林さんは失踪前、ダイニングバーを共同経営する男性からカネを借り、海外に衣料品店を出そうとしていた。ところが、リーマンショックなどの影響で実現せず、「一時的に借金が1億円近くに膨らんでいた」(知人男性)。
小林さんは「カネに困っている」と周囲に打ち明け、知人の葬式に参列した際は「香典に3000円しか出せなかった」と嘆いていた。カネに困った小林さんが島岡らの投資話に乗り、その後、返却を迫ってトラブルになったという見方も浮上している。
小林さんの遺体はどこに消えたのか。「島岡がウソをついていたり、まだ隠したりしていることがあるかもしれない」(捜査関係者)。小林さんの知人男性が祈るように語る。
「せめて遺体だけは見つけ出し、葬式を挙げて供養してやりたい」