「25人が死傷」大阪個室ビデオ店放火事件を起こした小川和弘
大阪個室ビデオ店放火事件
大阪個室ビデオ店放火事件(おおさかこしつビデオてんほうかじけん)は、2008年10月1日に大阪府大阪市浪速区の個室ビデオ店で発生した放火殺人事件である。25人が死傷した。
2008年10月1日午前3時頃、浪速区の難波駅前商店街の一角にある雑居ビル1階の個室ビデオ店から出火し、約1時間40分後に鎮火した。同店には32室の個室があり、出火当時26人の客と3人の店員がいたが、15人が一酸化炭素中毒で死亡し、10人が重軽傷を負った。なお、10月14日朝には意識不明の重体だった男性客が入院先の病院で死亡し、事件の犠牲者は計16人となっている[2]。また、2日夜までに25〜61歳の男性12人の身元が確認されたが、3人については身分証明証の類を所持していなかったこともあって確認が難航し、最後の一人の身元が判明したのは24日になってからだった。当初はタバコによる失火とも見られていたが、同日午後になって火元の個室を使用していた東大阪市在住の当時46歳の男が現住建造物等放火などの容疑で逮捕された。被疑者は、電機業界大手の松下電器産業(現・パナソニック)に入社。その後、松下電器産業でリストラされた後、無職で定職もなく生活保護を受けていた。また、事件の後に消費者金融から多額の借金があることも分かった。
警察の取調べによれば、被疑者は数日前に知り合った人物に連れられて同日午前1時半頃に来店。「生きていくのが嫌になり、ライターで店内のティッシュペーパーに火を付け、持ってきたキャリーバッグの荷物(新聞紙や衣服が入っていた)などに燃え移らせた」と供述していることが明らかにされており、この火がソファーなどに燃え移って延焼したと見られている。
事件同日は偶然にも、個室ビデオ店舗などにも自動火災報知器の設置を義務付ける改正消防法の施行当日であり、この事件を受けて全国で個室ビデオやカラオケボックスなどに対する緊急の立ち入り調査が行われた。その結果、多くの店舗で報知器や消火器の未設置など、消防法違反や防火体制の不備が確認されたことが報じられている。
10月22日、大阪地方検察庁は被疑者を殺人、殺人未遂、現住建造物等放火の罪で起訴した。戦後日本において起訴された事件で一人の人間が一日で犯した殺人による死者16人は過去最悪の人数である。
小川和弘
小川和弘
付記
個室ビデオ店が入っていたビルは地上7階建て、述べ1318平方メートル。面積約220平方メートルの1階にあった個室ビデオ店は、ほとんど窓がないため、消防法上の「避難上または消火活動上有効な開口部を有しない階(無窓階)」に該当していた。無窓階は地下階と同様、防災上の観点から設備面でより厳しい規制がかかるが、同店は非常ベルや自動火災報知機などを規定通りに設置しており、同法上の違反はなかった。しかし、同店は個室が並ぶエリアへの出入り口がひとつしかなく、廊下は約40mに渡る迷路のような状態であった。また改装前の1Fにあった排煙用の2つの窓は、客が料金を支払わずに逃げるのを防止する目的で、ビデオ店の経営者が石膏ボードでふさいでいた。また、ティッシュなどの消耗品や使用済みバスタオルを置くスペースがなかったため、個室エリア中央付近の通路に棚を据え付けて保管。個室から回収したごみ袋もこの場所に一時的に集めていた。市消防局が「避難時の障害物になる」と口頭注意したが、店側は改善していなかった。また出火当時の廊下は真っ暗で、非常用照明設備に不備があった可能性も指摘されている。ただし消防局によると、昨年5月に立ち入り検査した際、消火器や自動火災報知設備など消防法で定める防火設備は設置され、設備の点検・報告のミスや防火戸の不備など軽微な違反しか確認していない。また建築基準法で複数の出入り口の設置が義務付けられるのは、建物の2階より上の部分だけで、1階だった同店は適用外。スプリンクラーも、同店は設置が必要となる店舗面積以下で、窓については設置を義務付ける規定はない。ビルの元所有者で、防火管理者でもあり、ビル6Fに住んでいた男性管理人は、出火後に鳴った火災報知器を、過去にもあったタバコの煙による誤作動と思いこんで切ったことが明らかになっている。このときにはすでに店内全体に火が燃え広がっており、客の死亡との因果関係はなかったという。消防法は設備の維持・管理や訓練の実施を求めているが、出火時の具体的な対応は定めていないため、法違反は問われていない。
総務省消防庁は2003年2月の通知でホテルや旅館のほかに、マッサージやレンタルルームなどのような(1)不特定多数者が継続的に宿泊(2)ベッド、長椅子など宿泊設備の設置(3)深夜営業――など「副次的目的で宿泊サービスを提供している施設」にも厳しい防火管理を求めたのに、大阪市消防局はこの個室ビデオ店に対し、店独自の防火管理者を置くよう指導していなかったことが判明している。市消防局は立ち入り検査の際、継続的に宿泊施設として利用されている実態をつかめず、一般事務所と同じ扱いにしていた。
大阪府警浪速署捜査本部は2009年9月30日、ビデオ店の経営者や入居先のビル所有者について、業務上過失致死傷容疑での立件を断念し、捜査を終結したと発表した。排煙設備の不備など法令違反はあったものの、放火によって火勢は一気に広がっており、経営者らが重大な結果回避義務を怠ったとまでは言えないと判断した。府警によると、(1)窓など排煙設備がない(2)非常用照明の不備(3)壁の決められた部分に燃えにくい壁紙を使っていない-の建築基準法違反が見つかった。しかし、出火から2分程度の短時間で、店の入り口付近まで燃え広がっていたことが判明。3点の不備がなかったとしても被害は防げなかったと判断した。
出典:ogawak"