ハーバードのSTAP特許出願の一部譲渡(共有化)は、前進している明るい材料・・・?
ハーバードのB&W病院の特許出願に関して、ベンチャー企業に権利譲渡されたのではないか、という件ですが、もう少し調べていくうちに、こういうことではないか、ということが分かってきた
1 ハーバード大B&W病院は、特許出願(特許を受ける権利)は、放棄していない。実際に、現在も、出願人はB&W病院(のみ)と記載されている。2 ベンチャー企業に譲渡したのは、特許を受ける権利の一部(つまり持ち分)だと思われる(=共有化)。
3 日本の特許制度では、特許を受ける権利の持ち分の一部を譲渡した場合(=共有にした場合)、共同出願義務があり、そうしないと拒絶査定や無効となるが、米国や欧州諸国は共同出願義務は課していない(世界的には日本が極めて例外的な制度)。
したがって、日本の制度を前提とすると、ベンチャー企業との共有になったとしたら、B&W病院の単独出願の形を取っているのはおかしいように見えるが、米国制度では、出願人は依然として&W病院単独ということは、特段不思議ではない。
4 この共有化は、別途のバカンティ教授のSTAP幹細胞による脊髄細胞修復の特許出願の研究と同様、STAP細胞の特許出願に関する研究が、産学連携プロジェクトになりつつある明るい材料だと想像させる。
出典:ハーバードのSTAP特許出願の一部譲渡(共有化)は、前進している明るい材料だと思われる ( 生物学 ) - 理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問 - Yahoo!ブログ
STAP特許の進捗について、米国特許庁(USPTO)の次のサイトで見ることができる
“Assignment”の1~8は、バカンティ教授や小保方氏らがB&W病院に、大和氏が東京女子医大に、小保方、若山、笹井氏が理研に、それぞれ権利の移譲をしているものです。これらは、おそらく職務発明の扱いによるものではないかと思われます。他方、出願の権利の移譲を内容とするものは、9~12になります。東京女子医大と理研の放棄による、B&W病院への移譲です。これに伴って、当初は3組織による共同出願でしたが、B&W病院による単独出願に変更となりました。
今回、ご指摘の13の移譲後であっても、特許出願人は依然としてB&W病院ですので、日本の特許制度(共有者は共同出願義務を負う)を前提とすれば、出願の権利の移譲(持ち分の移譲)であれば、持ち分の移譲を受けたベンチャー企業も出願人に名を連ねなければならないはずだと、当初は考えたため、頭をひねったわけです。
ところが、調べてみると、共有者が共同出願義務を負うのは、日本と韓国、中国だけだそうで、欧米諸国は共同出願義務を負わないということがわかりました(特許実務のプロにとっては当たり前なのかもしれませんが)。
特許庁の委託契約書について
「特許を受ける権利が共有に係るとき、出願人にいわゆる共同出願義務を課して、それを遵守しなかった場合に、出願が拒絶、又は特許が無効などとなる制度を設けている国は、日本、中国及び韓国だけであると考えられる。」「(1)日本
特許を受ける権利が共有に係る場合について、共同出願義務の規定を設けている。この規定を遵守できなかった場合、出願は拒絶、権利付与され特許は無効となる。(中略)
(2)米国
発明者が出願しなければならないため、特許を受ける権利が共有に係る場合、特許を受ける権利を所有する者への共同出願義務規定は存在しない。
特許権が共有に係る場合、独占的なライセンスを供与することはできず、提訴も実質的に、他の共有者の同意が必要となるという見解がある。発明の実施、非独占的ライセンス、持分譲渡は、他の共有者の同意を必要としないで単独で行えるという見解がある。」
出典:https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/1906kokusaikyoudou_all.pdf
それであれば、特許を受ける権利の持ち分の一部がベンチャー企業に譲渡されたとしても、そのベンチャー企業が出願人に加わる必要はないわけで、当初の疑問は氷解しました
■ということであれば、話は俄然、面白くなってきたのではないかと思います。もし、最初受けた印象のように、B&W病院がベンチャー企業に全部権利を移譲したということであれば、あたかも、B&W病院がSTAP細胞に見切りをつけて、それでも望みをつないでいるベンチャー企業に売り払ったのではないか、というネガティブなニュアンスの話になってきます。
しかし、そうではなく、B&W病院が依然として特許出願は維持し、ベンチャー企業にもその権利の持ち分を与えたということであれば、これは、STAP細胞の研究が、産学連携のプロジェクトになりつつある兆候ということだと解釈できるでしょう。
ベクトルは、全く正反対で、STAP細胞にとっては、明るい材料ということになります。
■ここで、想起されるのが、今年の初めに、JISAIさんからのご教示で調べてご紹介した、国防総省のプロジェクトで採択されたバカンティ教授の研究です。B&W病院のバカンティ教授ともう一つ別の研究室の教授、それにベンチャー企業が加わったという軍産学共同研究プロジェクトのことです。
◎バカンティ教授の米国防総省プロジェクトの成果発表の時に、改めてSTAP細胞が注目を集めるはず-軍学産共同プロジェクトとして展開中の模様(2016/1/7記事)
◎【参考資料】米国防総省CDMRPの採択プロジェクト概要とAxoGen社の参画記事
◎バカンティ教授と小島氏の新規特許出願との関係は・・・??(2016/1/16記事)
バカンティ教授のSTAP幹細胞の研究は、同様にCDMRPで採択されたB&W病院の外科医が主導するプロジェクトと一緒になって、AxoGenというリーディング・カンパニーと組んで、末梢神経損傷者の神経修復・再生移植の外科手術による回復を目指す、と2014年6月時点で報じられていました。
このプロジェクトでは、バカンティ教授が2015年3月に米国特許出願しているわけですが、その明細書では、JISAIさんのコメントによると、
「請求項ClaimsにはSTAPは触れられていない("Sphere"とだけ)のですが、明細説明にはSTAP関連でプロトコル改良版と新実験の事が追加されていました。
プロトコル改良は、HBSS平衡生理食塩溶液水+ATPを使用したもの。(2014年9月に発表された追加プロトコルと同じ内容かと)新実験の方は、成体ラットの脊髄損傷治療として、脊髄ニューロン(痛覚過敏応答と熱応答)の喪失後に脊髄ニューロンのSTAP幹細胞移植で機能回復できたらしいです。
要するにこの新規特許は、2014年9月のSTAP追加プロトコルをベースに特許申請されたもののようです。」
とのことで、実際に前に進んでいる模様です。
これと同じような構図で、SATAP細胞、STAP幹細胞の特許出願に関わる研究が、産学共同研究となりつつあるのではないか、と推測させるものが、今回の権利移譲の登録だったというわけです。
上記のバカンティ教授の2015年3月の特許出願の明細書に書かれた実験で使われた改良プロトコルで、実際にSTAP幹細胞で脊髄神経の修復ができたというのであれば、STAP細胞もできているというわけですから、今回のB&W病院によるSTAP特許出願に、ベンチャー企業が加わってきてもおかしくないわけです。
今回話題になっている権利の移譲が、実際になされたのは、2015年12月21日とありますので、バカンティ教授のSTAP幹細胞に拠る脊髄修復の研究の特許出願の公開された2015年9月24日から間もない時期ですから、全体の流れも平仄が合い、ごく自然なものになっているように思えます。
・・・というわけで、最初はどう解釈していいのかピンとこなかった権利の移譲記録ですが、STAP細胞、STAP幹細胞の研究と特許出願にとっては、前進となる明るい材料といえるのではないか? というのが、現時点での解釈です。
とんでもない思い違いをしているようでしたら、ご指摘ください。
※ こういう話の実態は、B&W病院や、譲渡を受けたベンチャー企業に取材すればすぐわかる話だとは思うのですが・・・。
不思議なことに、日本のマスコミは(というか世界のマスコミも含めて)、B&W病院に取材してそのコメントをとったところはないのではないでしょうか? 実際取材してノーコメントならそう報じられると思うので、取材していないということではないかと・・・。
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