「ハクソー・リッジ・命の戦場」メル・ギブソンが監督した最も悲惨な沖縄戦・前田高地(嘉数耕地等の闘い)を巡る非武装衛生兵のデズモンド・ドスの実話映画・・・

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「ハクソー・リッジ・命の戦場」メル・ギブソンが監督した最も悲惨な沖縄戦・前田高地(嘉数耕地等の闘い)を巡る非武装衛生兵のデズモンド・ドスの実話映画・・・


本年アカデミー賞にノミネートされている、昨年11月アメリカで公開になったメル・ギブソン監督の新作映画を観たが、非常に興味深い(何かの賞を取る可能性がある。日本では今夏6月24日から公開)。第2次世界大戦の末期1945年4月から日本が降伏する間際、アメリカ・日本双方に最大の犠牲を出した地上戦、激戦区となった沖縄戦(日米双方で約20万人の戦没者)、しかもアメリカが侵攻する最初で最大の難関地、高地である・前田高知・(ハクソーリッジ)争奪に纏わる、アメリカ側戦闘員・衛生兵の実話を描いている。それは、良心的兵役拒否をした衛生兵・デズモンド・ドスが最悪な沖縄戦・戦地で何をしたのかが中心に描かれた映画だ。厳格なキリスト教信者である、2兄弟のうちデズモンドは、子供のころ兄弟げんかで弟を死に至らせるような行為をした(その時に関心を持った絵画がカインとアベル、この絵から「決して殺してはならない」との意味を得た)。その幼年期の記憶がドスの武器を持たず、決して人を傷つけないと、神に誓いを立てた。また家族である父親が第一次世界大戦に参戦し、大恐慌も含め精神的な打撃を受け、飲んだくれで、家庭内暴力者もあった(だが、父は、兵役に行った息子が銃所持を拒む軍法会議にかけられたが救う)。これ等複雑家庭環境からデズモンドは、人を決して傷つけない、殺傷しない敬虔なキリスト教信者から、衛生兵を目指し軍に入隊。そこでキリスト教信者としての信仰心が信念となり、命を奪わないという考え等が血気盛んな他の兵隊たちから・臆病者・として扱い、軍から阻害・侮蔑・暴力、により孤立を招く。しかもライフル銃所持を拒み(殺戮しないという神への誓いから)、軍内での軋轢・問題で軍法会議にかけられる(父の計らいで却下)。

時は日本の敗戦間際、アメリカは沖縄戦に突入していたが、日本軍に最初で最大の抵抗にあっていた。それは、急な断崖絶壁にある高地を乗り越え、その上にある日本軍陣地や地下豪等の攻撃をし、奪取しなければならなかったが、日本軍の凄まじい抵抗に、既にアメリカ兵の若い兵士の多くが犠牲になっていた(第96師団はせん滅、その代わりにデズモンドのいる第77師団が入る)。そこにドスは武器を所持せず乗り込み、負傷した兵士を救助しようとする。

実話がベースである。映画の中でもデズモンドは、数々の夥しい負傷、裂傷、重傷者をほとんど一人で助け出そうと、銃弾、爆弾の飛び交う中をかけずり回り、事実75名の負傷者を断崖から地上へロープで降ろし助けた。その過程では、地下塹壕の中の日本兵も負傷手当をしたという(これは証言としてあるが、負傷した日本兵が捕虜となったとき、既にアメリカの包帯が巻かれていた。敵・味方分け隔てなく助けた。ただし、負傷し日本兵を助けようとした時、周りにいた米兵が「もし助けたら、デズモンドお前を撃つ」と言われ、助けることが出来なかった・ドキュメント証言より)。

 約2時間10分余りの映画ではほぼ前半はドス・デズモンドの生い立ちから戦地に赴くまで、後半約1時間余りは壮絶な戦地、沖縄戦、前田高知の戦闘・救出シーンが繰り返される。この戦闘映像がかなりショッキングで壮絶な映像になっている(子供にはきついだろう)。これでもかと繰り返されるアメリカ負傷兵の多数をデズモンド曰く「もう一人、もう一人助けなければ」「神様、もう一人助けさせて下さい」と次から次へと救助する行為とアメリカ兵、日本兵との戦闘の劣悪さが描きこまれている。ただ単なる日本兵の残酷さやアメリカ兵の勇猛さとかではく、この戦闘の繰り返す映像には、同時に戦場では超変わり者のデズモンドが救出を繰り返す在り姿に、「なぜそこまでできるのか」という疑問・見方を乗り越えた姿を観ることが出来る(デズモンドは絶えず胸のポケットに小さな聖書を持ち、空き時間に必ず朗読していた。この小さな聖書が支えだったとも述べている)。既に多くを救出したデズモンドを・臆病・呼ばわりする兵士はだれひとりとしていない。つまり、軍全体からも賛辞を受けることになる。軍からの賛辞が戦闘の・美化・に繋がるのか・・・?否(「アメリカン・スナイパー」C・イーストウッドのような終盤、あからさまなアメリカ戦闘行為美化にはつながらないと思う。むしろこれホントなの、という素朴な疑問だろう)。

 この映像から伝わるのは戦闘、戦場の・不毛・さだ。デズモンドのような強力なキリスト教の信念・信仰心は、同時期公開の遠藤周作・原作、マーチン・スコセッシイの映画「沈黙」があり、これも出島・長崎の日本人キリスト教信仰心の強さと弱さのありよう、それぞれの葛藤・揺らぎ・軋轢が試される姿が映画としても重なり合う。しかし、デズモンドの場合は、まったくの信仰心についてのブレや揺らぎがないという点から、むしろ軍関係・周りから拒否されればされるほどキリスト教信仰が深くなるのだろうと思う(戦中、結婚した妻がデズモンドを精神的に助けたと言われる)。ただ、実話といってもギブソンが監督した映画化したものでありから、実際の・証言とは微妙に異なる。つまり、ドラマとして創っている(ドキュメント「ドス・デズモンド、良心的兵役拒否者」、この映像では、生前のデズモンド本人の発言、周りで助けられた高齢な負傷アメリカ兵の証言、詳細な家庭環境、兵役に就く過程、軍が如何にデズモンドを排除したか、人間デズモンドが理解できる)。

 他方、こんな批判があるかもしれない。例えばクリント・イーストウッドのように第2次大戦をテーマの映画「硫黄島」では、アメリカ側から捉えたものと、日本側から捉えた「硫黄島の手紙」が2本あり、双方の側からの戦闘の不毛さを描いたのだが、この「ハクソー・リッジ」では、後半約1時間で日本側についてはあまり触れられていない。つまり、沖縄戦での熾烈な・前田高地・及び嘉数の闘いなど、この現地沖縄の人々を舞い込んだ日本軍部の壮絶で卑劣な戦闘状況、それぞれの背景もあり、今でも沖縄、一般の人々、ご遺族には日本軍に対して、決して忘却することのできない違和感と感情があり、記憶に残っている(アメリカ兵の証言によると、「ガマ(洞穴)にいた女性等家族と子供、赤子がいたが、投降するようにいったが、女性等が竹槍で向かってきた。だから、やむなく手りゅう弾を投げた。今でもやり切れない」という。火炎放射機も使った)。日本軍の命令だった。また、映画にも出てくるが、白旗を持って投降する日本兵が米兵に近づくと、手榴弾を投げ米兵を殺害することが起きた。後に、白旗を持った日本兵でも殺戮しろ、との命令がでたという)。沖縄戦で初めてアメリカ軍が使用した武器・火炎放射機も出てくる。ガマ(洞窟)や穴のある塹壕にはもってこいの武器だった。

 仮に映画で、沖縄での日本側の軍・市民の戦闘背景を描くには、あと1~2時間は要するだろう。だから、ここは良心的兵役拒否者・非武装のデズモンド・ドスを中心に映像化したことについては悪くはないのが、欲を言えば、もう少し沖縄戦の悲惨な背景も重ね合わせてほしい、とも思った。

 最後に、日本軍が沖縄戦で少年兵を利用したことに触れよう。沖縄戦日本軍戦況悪化による兵隊補充での「鉄血勤皇隊」である。14~16,17歳の少年兵を沖縄戦に強制利用し、567名が戦死している。日本軍列島内戦として守る術は、既に天皇勅令により・少年兵・を使うことだった。こんな証言・エピソードがある。沖縄で戦闘から逃れる際、軍医と少年兵2名。少年兵の一人は足の怪我を負っていた。負傷した少年兵は動きが遅く、軍医は次第に足手まといと思うようになる。軍の記録では負傷から病死と出ていた。戦後、死亡した少年兵が病死との軍の記録に疑問を持つ遺族が、もう一人の生き残った少年兵に問い詰めた。当時14歳の少年兵は、「なぜ死んだのか」。戦後60数年後、遺族に生き残った少年兵が重い口を開けてカミングアウト、詳細を述べた。3人で逃げる最中、軍医は、負傷した少年兵を射殺した。このようなことが、当時はいくらであっただろうし、カミングアウト出来ない元兵士もいるのではないか、と思う。

 ここまで踏み込めとメル・ギブソンの映画「ハクソー・リッジ」には求めない。デズモンド・ドスのような非武装・良心的兵役拒否者がいたことは驚嘆だし、知れば知るほど考えさせられた。彼はこうも言っている。「自由のために闘うのではなく、救うことが私の闘いだった」と・・・(ドキュメントより)。


映画シーン。

映画シーン。

映画シーン。

映画シーン。

映画のシーン。断崖、前田高地。

前田高地の断崖の上、左にデズモンドがいる。

当時の実写。前田高地の断崖に最初、長い梯子を組み合わせ、上に登ろうするところ。

現在の前田高地の尾根。

現在の前田高地周辺。

当時の前田高地集落

デズモンド・ドス。

戦後、帰国後のデズモンド家族。

晩年のデズモンド、左は負傷した当時のデズモンド。
約1時間40分のドキュメントだが、デズモンド・ドスが2006年に他界する前に前田高地らの戦闘で何をしたか、何を考えたかの本人証言の数々がある。また、彼に戦闘中助けられた多数の高齢従軍兵士たちの証言もあり、言葉に言い表せないデズモンド対する自分たちが犯した行為の誤りとリスペクト、映画「ハックソー・リッジ」について描かれたことのほとんどが事実であったことが分かる。
	
2015年琉球放送・・・ご遺族の無念と記憶は、決して忘却できない。
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