【洒落怖】早死一族(名作・長編)

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『早死一族』

601 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 01:53:49

ウチの爺さんのオヤジだか爺さんだか、

つまり俺のひい爺さんだかひいひい爺さんだか、

ちょっとはっきりしないんだけど、そのあたりの人が体験したっていう話。

自分が子供のころ、爺さんから聞いた話。

もう爺さんも死んでて、事実関係とか調べようもないんだけど。


603 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 01:56:11


仮にそのひいひい爺さんをG、さんとしておく。


Gさんはある関西の地方都市の人で、今で言う市役所の戸籍係みたいな、

そういう仕事をずっとしてたらしいのね。

当時は市じゃなくて、町だか村だかかもしれないし、

県庁とかの役所なのかもしれないけど、

俺には詳しいことはわからない。


607 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 01:59:28


ともかく、Gさんは戸籍係みたいな仕事で、

仕事柄、町のいろんな人の名前を目にすることができる立場だったらしい。

で、当時まだ大正時代だかそんくらいで、

昔の身分制度の名残りみたいなのが、名前にけっこう残ってたらしいのね。

士族だったらこういう苗字が多いとか、下の名前もこういうのが多いとか。

平民階級でも、やれこの苗字は農民出身だの、この苗字はたぶん染物屋だの、

この苗字はたぶん金貸しの血筋だのって。

まあ、はずれることもあるんだろうけど、

なんとなく傾向みたいなのはあったみたい。


608 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:01:39


で、まあ予想つくかもしれないけど、

そういう名前の特徴がわりとはっきり出ちゃうのは、

2ちゃん用語で言うとBの人。

いわゆる被差別B落ね。

当時はもう平民扱いではあるんだけど、やっぱいろいろあったみたいで、

苗字もそれとわかる、変なの名乗らされてる場合もあったみたい。

もちろん、自分がそういうのであることを隠すために、

普通に田中とか佐藤とかって場合もあるみたいだけど。


609 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:04:19


Gさんの町では、やっぱり関西だからなのか、

一部それとわかる苗字の人たちってのが、何種類かいたらしいのね。

こう、仕事がそういうアレの人たちのやりそうな仕事で、

その仕事に関係ありそうな苗字だったりしたみたい。

つっても、この話を聞いたとき自分も子供だったから、

詳しくどうっていうのは覚えてないんだけど、

爺さんもそのへんぼかして話してた気がするし。


612 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:08:12


で、話もどすと、

Gさんはあるとき、町に何軒か、

ある珍しい苗字の一族がいることに気づいたのね。

これがさ、苗字からすると、士族とか商人とか農民っぽくない、

強いて言えば、神主とかそういう家系っぽい感じの名前。

これは民俗学とかかじるとよく目にする話題だけど、

昔コジキ坊主とか、お払い屋とか拝み屋とか、

そういうのをやるBの人ってのは多かったらしい。

江戸時代からそういう風習があるみたい。

まあ、土地持ってる農民とは違うから、土地を離れて流浪の、

お祓いの押し売りみたいな感じなのかな。

で、Gさんが見つけた一族ってのも、

いかにもそういう仕事やってそうな名前なわけね。


613 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:11:19


ただもちろん、近代化された後の話だから、

浮浪者ってわけじゃなくて、ちゃんと戸籍があるし住所もある。

ただ、どうも不自然なことがふたつあるの。

ひとつは住所。

どうやら一族はみんな血が繋がってるらしいのに、

(珍しい苗字だし、偶然同じ苗字ってことはなさそう)

住んでるところはえらく離れてる。

離れてるって言うよりか、離してあるって感じに。

町の中心的な大通りと、町の外との境目にあたるような、

住所にちらばってるのよ。


615 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:13:33


なんていうのかな、町の『入り口』みたいな場所があるじゃん。

昔からあるでっかい道路とかが、町を何箇所か貫いていくとして、

その道路と市街地が接点になるような場所っていうか、

円と直径の交点みたいな。

そういう場所が町に何箇所かあるんだけど、そこにそれぞれ住んでる。

ちょうど『門番』って感じに住んでるのよ。


619 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:18:33


それでね、もう一つ不審なことっていうのは、

この一族が、とにかくみんな若いうちに死んでるのよ。

今よりも死亡率がずっと高い時代なんだろうけど、

それでも普通に考えてありえないくらいに、新生児の死亡が多い。

10人とか産んで、全部2~3年で死んでるとかそんな感じ。

単に貧乏で衛生事情が悪いとか、そういうのかもしれないけど、

町のどの部分に住んでるのも、一族みんなとにかく死ぬ。

世帯主30歳くらいで、それも病死とか。

そもそもこの死亡届けの多さで、

「この苗字の人はよく死ぬなあ」

って、Gさんが気づいたのが話の発端らしいんだけど。


621 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:20:27


それでGさんは最初、何か犯罪があるんじゃないかと思ったんだって。

子供殺して食うとか、血を売るとか。

そういうことを疑うこと自体、Bに対する偏見だったってことに、

あとで気づかされるんだけど。


623 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:22:17


たださ、Gさんがいくら怪しいと考えても、

誰に相談するべきかわからないじゃない。

一応他人の戸籍とか住所の話だし、

仕事中に勝手に調べて怪しいと思いましたってのも、

今よりもプライバシーとか気にしない時代とはいえ、

ちょっとどうかと思って、

誰にいうでもなく、何年かはそのまま放置してた。


625 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:24:37


でもね、同じ月に同じ家の家族が、

立て続けに(何日かおきに)3人くらい死んだことがあって、

さすがに怪しいと思ったんだって。

で、じゃあとりあえずこの目で見てこようと。

その住所の家を見てきて、何かおかしなヤツが出入りしてるとか、

そういう感じだったら、警察にいってみようと。

そう考えて、休みの日にその家までいってみることにした。


627 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:27:06


それは夏の初めのすごく暑い日で、自宅を出てすぐのときは、

こんな暑い日にわざわざ行くんじゃなかった。何をやってるんだ俺は。

と思いながらも、歩いていったんだって。

車とかは、金持ちじゃないとなかなか持ってないしね。

地方公務員じゃ、徒歩しかなかったんだろうと思う。

ところがね、その該当する家のすぐ近くまで行くと、

暑さも和らいできて、ああちょうどよかったって。


628 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:29:40


と思ってたら、そんな生易しいもんじゃないのね。

その家のすぐ近くまでいったら、なぜかすっごい寒いの。暑いのに寒いのね。

炎天下で、明らかに日のあたるところを歩いてて、

肌は太陽の光を感じるんだけど、でも寒くてなぜか震えるんだって。

「熱い風呂にいきなり入って、サブイボでるときあるやろ。あれやろうな」

って。

これはGさんじゃなくて、爺さんの解説だから当てにならないけど。


630 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:31:36


それで、どの家がその住所の家なのかも、探すまでもなかったって。

まあ、さっきも言ったように、

大通りに面した町の一番ハズレだから、みりゃわかるんだろうけど、

それ以上に、調べるまでもないくらいに、

『ここに近づいちゃいけない』って感じがするんだって。

ここには何かよくないモノがいる、って感じ。


631 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:36:13


それでも、もう何かに取り付かれたように、

その家の庭が見えるところまでいったんだって。

家自体もオンボロの古い家だったんだけど、庭も雑草で荒れ放題なのね。

ただ、貧乏って感じはするんだけど、何か犯罪が行われてるって感じではない。

別に死臭とかするわけでもないのね。

ただ、何かすごくイヤな感じがするし、寒気がするのよ。


おかしいな?こんなにいい天気なのになんで寒いんだろ?って思って、

何気なく家の屋根の上をみたらね。

小さい黒いサルみたいなのが、視界の隅にいるのね。

で、あっと思って、そっちをみたらもういないの。


633 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:38:46


それでGさんは、なんとなく直感的にまず考えたわけ。

この家は何かに憑かれてて、それであんなに死人が出るんだと。

じゃあ、他の場所にある同じ苗字の一族も、

みんな何かに憑かれてるのか?一族まるごと呪われてるのか?

と思ったわけよ。

それはそれでおかしな話だし、何かフに落ちないわな。

そこで、そこまでの経緯を、

信頼できる上司に相談することに決めたんだって。


634 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:40:44


それで上司に報告して、黒いサルみたいなのを見たことまで、

正直にいったのよ。

そしたら上司が深刻な顔をして、

「おまえ、それ他に誰にもいうなよ」みたいなことを言うんだって。

上司に「何か知っているんですか」って問いただしたんだけど、

最初はシラをきろうとするんだって。


636 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:45:57


でも食い下がって、一体なんなのかってしつこく問いただしたら、

上司は覚悟を決めて教えてくれたらしい。

「それは○○(町の名前)のニエや」って。


つまりその一族は、町に邪悪な何かとか祟り神とかが入ってきたときに、

わざと取り憑かせて、町を守るための生贄だってことらしいのね。

だから、町の入り口みたいなところに住まわせてあるんだって。

室町だか江戸だか知らないけど、

かなり昔からこの町は、そういう役目を被差別Bの人にさせてたらしいのね。

ただ、その一族の人は、それをやらされてるとは知らないみたいなんだって。

何か気づいてるのかもしれないけど、

とにかく建前上は、別の理由でそこに住まわせていて、

場合によっては本人たちも気づいてない。

でも気づいてないけど、死人が出たり事故や病気になったりすることは、

ほかの家よりもずっと多いと。


640 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:50:07


町によっては、Bに押し付けるとは限らなくて、

何か悪いことをした家とか、お家騒動があった名家とか、

町に後から来たよそ者とかに、

そういう役目を押し付けて、ヤバイ場所に住まわせるってことをするんだって。

もちろん本人には教えないで。


641 :◆Tly.nEzXF2:2006/05/17(水) 02:52:29


「今でもそんなんをやっとるところもあるやろから、

 引っ越しするときは気ィつけなあかんで」って、

そういう教訓めいた話として、爺さんはこの話を結んだ。

それで、一人暮らし始めるときとか、知らない街の不動産屋さんに、

なぜか一軒を執拗に勧められるときは、怪しんだほうがイイみたい。

自分がニエを押し付けられてるかもしれないよ。

『オススメの怖い話(名作・長編)』



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Sharetube