【洒落怖】鏡の中のナナちゃん(名作・長編)

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『鏡の中のナナちゃん』

914 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/01/29 13:22 

私は幼い頃、一人でいる事の多い子供でした。

実家は田舎の古い家で、周りには歳の近い子供は誰もいませんでした。

弟が一人いたのですが、まだ小さくかったので、

一緒に遊ぶという感じではありませんでした。

父も母も祖父も、弟が生まれてから以前ほど私をかまってくれなくなって、

少し寂しかったのだと思います。

とにかくその頃の私は、一人遊びで日々を送っていました。


私の家は古い田舎造りの家で、小さな部屋がたくさんありました。

南西の隅には納戸があり、古い道具や小物が納められていました。

その納戸に入り込んでは、

仕舞ってある品々をオモチャ代わりにして遊ぶのが、

当時の私の楽しみでした。

その鏡を見つけたのが何時のことだったのかはハッキリしません。

もともと手鏡だったようなのですが、

私が見つけたときは枠も柄も無いむき出しの丸い鏡でした。

かなり古そうなものでしたが、サビや曇りが殆ど無く、奇麗に映りました。

そして、これもいつ頃だったのかよく憶えていないのですが、

ある時、その鏡を覗くと、私の背後に見知らぬ女の子が映っていました。

驚いて振り返りましたが、もちろん私の後ろに女の子など居ません。

どうやらその子は、鏡の中だけにいるようです。

不思議に思いましたが、怖くはありませんでした。

色白で髪の長い女の子でした。

その子は鏡に写る私の肩ごしにこっちを見て、ニッコリと笑いました。


「こんにちは」


916 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/01/29 13:23


やがて私たちは、話を交わすようになりました。

私は彼女の事をナナちゃんと呼んでいました。

両親は、納戸に籠り鏡に向かって何ごとか喋っている

私を見て気味悪く思ったようですが、

鏡を取り上げるような事はしませんでした。

それに、大人達にはナナちゃんは見えないようでした。


ある日、私はナナちゃんに「一緒に遊ぶ友達がいなくて寂しい」

というようなことを話しました。

するとナナちゃんは、

「こっちへ来て私と遊べばいい」と言ってくれました。

しかし私が、「どうやってそっちに行ったらいいの?」と聞くと、

ナナちゃんは困ったような顔になって、「わからない」と答えました。

そのうちナナちゃんが、「・・・聞いてみる」と小声で言い足しました。

私は誰に聞くのか知りたかったのですが、

何となく聞いてはいけないような気がして黙っていました。


917 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/01/29 13:23


それから何日か経ったある日、ナナちゃんが嬉しそうに言いました。

「こっちへ来れる方法がわかったの。私と一緒にこっちで遊ぼう」

私は嬉しくなりましたが、

いつも両親に『出かける時は祖父か母へ相談しなさい』

と言い聞かされていたので、

「お母さんに聞いてくる」と答えました。

するとナナちゃんは、また少し困った顔になって、

「このことは誰にも話してはいけない。

 話したら大変なことになる。もう会えなくなるかもしれない」

というような事を言いました。

私は『それはイヤだ』と思いましたが、

言いつけを破るのも怖かったので、黙り込んでしまいました。

するとナナちゃんは、

「じゃあ明日はこっちで遊ぼうね?」と聞いてきました。

私は「うん」と返事をしました。

「約束だよ」

ナナちゃんは微笑んで、小指をこっちに突きだしてきました。

私はその指に合わせるように、小指の先で鏡を触りました。

ほんの少しだけ暖かいような気がしました。


918 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/01/29 13:24


その夜はなかなか眠れませんでした。

両親にはナナちゃんのことは話しませんでした。

しかし、寝床に入って暗闇の中でじっとしていると、

いろんな疑問が湧いてきました。


鏡の中にどうやって入るのだろう?

そこはどんな所なんだろう?

ナナちゃんはどうしてこっちに来ないんだろう?

こっちへ帰ってこれるのだろうか?


そんな事を考えるうちに、だんだん不安になってきました。

そして、ナナちゃんのことが少し怖くなってきました。


次の日、私はナナちゃんに会いに行きませんでした。

次の日も、その次の日も、私は納戸には近寄りませんでした。

結局、それ以来、私は納戸へ出入りすることを止めたのです。


月日が経ち、私は町の高校へ行くために家を出ました。

卒業しても家に戻ることもなく、近くの町で働き始め、

やがて私は結婚して所帯を持ちました。

その頃になると、ナナちゃんのことはすっかり忘れていました。


920 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/01/29 13:27


結婚後しばらくして妻が妊娠し、しばらく親元に戻ることになりました。

すると、家事をするのも面倒だし、

誰もいない家に一人で居るのも寂しかったので、

私は何かと用事を作って、頻繁に実家に帰る事が多くなりました。


その日も、実家で夕食を食べ、そのまま泊まることにしました。

夜中に目が覚めて、トイレに立ちました。


洗面所で手を洗いながら、何気なく鏡を覗きました。

廊下の途中の仕切が開いていて、その向こうの暗闇に、

あの納戸がうっすらと見えていました。

その時、おやっと思いました。

トイレに来る時には、その仕切を閉めた覚えがあったのです。

振り返ってみると、やっぱり仕切は閉じています。

しかし、もう一度鏡を見ると仕切は開いていて、

納戸の白い扉が闇に浮かび上がるように見えています。

全身が総毛立ちました。

すると、その扉が少し動いたような気がしました。

その瞬間、私はナナちゃんの事を思い出しました。

とっさに『ヤバイッ』と思いましたが、

鏡から目を離すことは出来ませんでした。

やっぱり扉は動いています。

もう一度振り返っても、廊下の仕切は閉じたままです。

鏡の中では、納戸の扉がもう半分以上開いていました。

開いた扉の向こう、納戸の奥の闇に白いモノが浮かんでいました。

これまでにない恐怖を感じながらも、

わたしはその白いモノを凝視しました。

それは懐かしい少女の笑顔でした。


921 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/01/29 13:28


そこで私の記憶は途切れています。

気がつくと、私は布団の中で朝を迎えていました。

気味の悪い夢を見た・・

そう思った私は、実家にいるのが何となく嫌になり、

その日は休みだったのですが、すぐに自宅に帰る事にしました。


私の自宅のマンションには、住民用に半地下になった駐車場があります。

日中でも薄暗いそこに車を乗り入れ、

自分のスペースに停めた後、最後にバックミラーを見ました。

すると、私のすぐ後ろにナナちゃんの顔がありました。

驚いて後ろを振り返りましたが、後部座席には誰もいません。

バックミラーに目を戻すと、ナナちゃんはまだそこに居ました。

鏡の中からじっとこっちを見ています。

色白で長い髪を両側で結んだナナちゃんは、

昔と全く変わっていないように見えました。

恐怖のあまり視線を外すことも出来ず、

震えながらその顔を見返していると、

やがてナナちゃんはニッコリと笑いました。


「こんにちは」


924 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/01/29 13:38


「どうしてあの時、来てくれなかったの?私ずっと待っていたのに」

ナナちゃんは相変わらす微笑んだまま、そう言いました。

私が何と言って良いのかわからずに黙っていると、ナナちゃんは言葉を継ぎました。

「ねえ、私と今からこっちで遊ぼう」

そして、ミラーに映った私の肩越しに、

こっちに向かって手を伸ばしてきました。

「こっちで遊ぼう・・・」

「ダメだ!」

私は思わず大声で叫びました。

「ごめん。ナナちゃん。僕は、もうそっちへは行かない。行けないんだ!」

ナナちゃんは手を差し伸べたまま黙っています。

私はハンドルを力一杯掴んで震えながら、

さっきよりも小さな声で言いました。

「僕には妻もいる。子供だって、もうすぐ生まれる。だから・・・」

そこで私は俯いて絶句してしまいました。

しばらくそのままの姿勢で震えていましたが、

やがて私は恐る恐るミラーの方を見ました。

ナナちゃんはまだそこに居ました。

「そう・・・わかった。○○ちゃんは大人になっちゃったんだね。

 もう私とは遊べないんだ」

ナナちゃんは少し寂しそうにそう言いました。

「しょうがないよね・・・」

ナナちゃんはそこでニッコリと笑いました。

本当に無邪気な笑顔でした。

私はその時、ナナちゃんが許してくれたと思いました。

「ナナちゃん・・・」

「だったら私はその子と遊ぶ」

私がその言葉を理解出来ぬうちに、

ナナちゃんは居なくなってしまいました。

それっきりナナちゃんは、二度と私の前に現れることはありませんでした。


2日後、妻が流産しました。

以来、今に至るまで、私達は子供をつくっていません。


現在。

私はナナちゃんの事を弟に話すべきなのか、本当に迷っています。

『オススメの怖い話(名作・長編)』



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Sharetube