【洒落怖】いざない(名作・中編)

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『いざない』

237 :工程1:2006/05/13(土) 17:31:18 ID:zGoyC87h0

その頃、私は海岸近くの住宅工事を請け負ってました。

季節は7月初旬で、昼休みには海岸で弁当を食うのが日課でした。

初めは一人で食べに行ってましたが、

途中から、仲良くなった同年代の下請け職人も誘って、

一緒に食べに行くようになりました。


いつものように海岸に行くと、普段は人気の無い海岸ですが、

その日は10~12歳位の子供が4人程、波打ち際で遊んでました。

ちなみにココの海は遊泳禁止となってはいましたが、

私も子供の頃は、ココで仲間と泳いだりした事もあったので、

特に気にもしませんでした。

その日も海岸で弁当を食おうかと思っていたら、

A君が「今日は日差しが強くて暑いから、現場内の日陰で食おうぜ」

と言って来たので、

まぁ確かにその日は特に陽射しが強くて、外で食うには暑すぎると思って、

その場を去りました。


現場内の日陰で弁当を食べていると、何やら外が騒がしい。

パトカーやヘリが飛んでる音も聞こえる。

何だろか?と思って、外を見に行こうとAを誘いました。

「あ~俺は辞めとく」

私は外が気になって仕方が無いので、

Aは置いて、他の職人さん達と一緒に野次馬に行きました。


238 :工程2:2006/05/13(土) 17:34:38 ID:zGoyC87h0

どうやら人だかりが出来ているのは、

いつも私がAと飯を食っていた海岸でした。

既に集まっていた野次馬に話しを聞いてみると、

海で遊んでいた子供が一人、波に飲まれて行方不明だと。

確かに、さっきまで海岸で遊んでいた子供の数が、一人減っていました。

私は後悔しました。

何時も通りこの海岸で弁当を食べていれば、

波に飲まれた子供をいち早く発見できたし、

泳ぎにも自信がありましたので、

もしかしたら助ける事も出来たのではないかと。


少し後ろめたい気分になって、Aの所まで戻り、

Aに海岸での事を話しました。

「今日もあそこで飯食ってたら、俺らが何か出来たかもしれないよな」

と私が言うと、

Aが「ははは、無理だって。

   だから俺は、今日あそこで飯食うの嫌だったんよ」。


239 :工程3:2006/05/13(土) 17:36:04 ID:zGoyC87h0

私は意味が解らなかったので、Aに詳しく話を聞いてみると、

「あそこって遊泳禁止なだけあって、色々とある訳で、

 こんな事言うからって変な目で見ないで欲しいんだけど、色々とある訳よ。

 お前はソッチ系には疎いみたいだから、言わないでおいたんだけど、

 現場の中で弁当喰った方が涼しいのに、

 何でお前は毎日海岸で弁当食べたがったの?」

「そりゃ、海見ながら外で飯喰った方が美味いと思って・・・」

「その割にはお前は、毎日暑い暑い言いながら弁当喰って、

 弁当喰い終わったらスグに事務所戻って涼んでただろ?」


そう言われると確かに、海岸で弁当喰い始めたキッカケは、

海見ながら食べた方が気持ち良いと思ったのですが、

2日目以降は、何であんなに日陰も無いクソ暑い場所で、

弁当を食い続けてたのか、我ながら不思議に思いました。


「”あいつ等”の狙いは初めからお前で、

 ず~っとお前は、”あいつ等”に呼ばれてたんだよ」

「???」


240 :工程4:2006/05/13(土) 17:37:04 ID:zGoyC87h0

Aは初めて現場で私に会った時も、

私が海にいる”あいつ等”から誘われてるのを感じていたらしい。

とは言っても、そんな事を初対面、

しかも元請の監督に真顔で話しても馬鹿にされるし、

下手したら追い出されるだけなので、毎日弁当に付き合って監視してたらしい。

Aは私が”あいつ等”に誘われてるのは分かっていたけど、

中々その”あいつ等”の姿をAも見ることは出来なかった。

どうやら霊?の方は、一方的に私に意識チャンネルみたいな物を合わせ、

もっと波際まで引き寄せたがっているらしかったのですが、

肝心の私が鈍すぎて手こずってたらしい。


「だから”あいつ等”は、お前の目の前で、

 子供を海に引き込もうとした訳だ。

 ”あいつ等”からしたら、

 子供の方が頭が固いお前と違って誘い易いしな。

 そうすれば、お前が子供を助けに、

 海に入ってくる事を知ってたんだなぁ。 ”あいつ等”は。

 まぁ俺が邪魔したから、子供が身代わりになっちゃった訳だけど・・・。

 今日は、”あいつ等”とピッタリ波長が合う子供が遊びに来たせいか、

 今日は俺の目にも、ハッキリ”あいつ等”が見えたよ。

 俺がお前を海岸から連れ戻した時の奴らの雰囲気は、

 俺もちょっと怖かったよ。

 本命のお前を連れ戻されて怒ったのかなw」

と、Aが笑いながら話してくれました。


241 :工程5:2006/05/13(土) 17:38:41 ID:zGoyC87h0

って・・・そこまで分かってて、

何で遊んでた子供を放置したのかとAに問いただすと、

「お前は誘われてるクセに何も感じないから、そんな事言えるんだよ。

 子供等が遊んでた場所は、完全に”あいつ等”の領域入ってたし、

 お前だってアレが見えるなら絶対近づけないし、

 関わり持とうなんて思えないって。

 お前を海岸から現場内に連れ戻しただけでも、

 俺って勇気あるな、エライな~て思ったよ。

 本当凄かったよ、奴らの恨めしいそうな顔」


Aが言うには、見えない感じない人は、

無意識に誘われてる事があると言ってました。

また、誘われてる事にも気が付かないらしい。

だから逆に、見える感じる人は、危ない場所には下手に近づかないらしい。


「お前だって、道路で子供が、刃物持ってる男に追いかけられてたら、

 身を挺して阻止できるか?

 普通出来ないよな。

 それは、関わった後の面倒を知ってるからだ。

 それと一緒で、俺も見えたからって、人助けするほどお人良しじゃ無い。

 相手が人間なら通報する事はできるだろうけど、

 相手がこの世の者じゃなかったら、K察も相手してくれないし。

 まぁ面倒事に巻き込まれるのは御免だよ。

 でも〇〇君(私の名前)とは気が合ったし、

 知らん顔して何かあっても気分悪いからね」


この水難事故は、夕方のニュースでもチラッと流れました。


私は夜中に気になって、海岸まで車で見に行きました。

まだヘリは海岸沿いを飛び回り、

沢山の人が灯りを持って海岸を捜索してました。


自分では「お人良しじゃない」と言っていたAでしたが、

彼は去年の秋に、川で溺れてる子供を助けて、

自分だけ逝ってしまいました。

2度目は見て見ぬフリは出来なかったのかな・・・。

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