【洒落怖】ヤケドの治療(山・中編)

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『ヤケドの治療』

753 :本当にあった怖い名無し :04/08/19 14:57 ID:QwBfLdAC

昭和の初め頃、夕張のボタ山でのお話。


開拓民として本州から渡って来ていた炭鉱夫Aさんは、

爆発事故に見舞われた。

一命はとりとめたものの、全身ヤケドの重体だった。

昔の事とて、ろくな治療も施されず、全身包帯に包まれて、

女房の待つ飯場の一部屋に担ぎこまれた。

付き添ってきた医者は、

「大怪我だが、今夜を乗切れば命は助かるだろう。

 何かあれば呼びに来なさい」。

自宅の場所を教えて引き上げていってしまった。


その真夜中。ロウソク一本の薄明かりの下、

枕元でひとり看病していた女房がふと気が付くと、

玄関に誰かの気配がする。

女房が出てみると、大勢の人間が立っている。

彼等の云うには、

「自分達はAさんと一緒に働いている仲間である。

 今日は大変な災難に会われて、お気の毒です。

 すぐにでも見舞いに来たかったのだが、

 生憎我々も作業を中断するわけにいかず、

 こんな非常識な時間になってしまった。

 どうか我々にも、Aさんの看病の手伝いをさせて欲しい」との事。


754 :本当にあった怖い名無し :04/08/19 14:58 ID:QwBfLdAC

女房はひとりで心細かった処への、この温かい申し出に感動し、

部屋に入りきれないほどの仲間達を迎え入れた。

それぞれ一人ずつAさんに話し掛け、

励ましては部屋の中に座って、女房にも優しい言葉を掛けてくれる。

女房はすっかり安心してしまった。


その中の一人が、「自分は医術の心得がある、診察してやろう」と申し出た。

見れば、ボタ山で働いているとは思えない立派な紳士だった。

誰かの知人なのだろうか。

彼は、

「これは酷いヤケドだが、私は幸いヤケドの治療法に長じている。

 今夜のうちに術を施せばAさんはすぐ治る」

と言った。

女房に否応が言えるはずもない。


やがて紳士による治療が、薄暗がりの中で始まった。

治療は荒っぽいものだった。

紳士は、

「ヤケドには、焼けこげた皮膚を取り除いてやるのが一番の治療法だ」

と説明し、Aさんの身体を包んでいる包帯を取り除けると、

やがてAさんの皮膚を無造作に剥ぎ取り始めた。


755 :本当にあった怖い名無し :04/08/19 14:59 ID:QwBfLdAC

炭鉱夫仲間でも屈強な身体付きで知られたAさんも、これは堪らない。

Aさんはあまりの苦痛に絶叫し、「いっそ殺してくれ」と泣き叫んだ。

女房はおろおろする以外なにも出来ない。

あまりの凄まじさに、自分も耳を塞いで泣き叫び始めた。

紳士は「ここが辛抱じゃ。すぐ楽にしてやる」と声を掛けながら、

眉ひとつ動かさず作業を続ける。


どれぐらい時間がたったか。

いつしかAさんの絶叫は治まっており、静寂が戻っている。

紳士は女房に、「心配かけたがもう大丈夫。すぐに元気になるよ」

と声を掛け、席を立った。

女房は何度も何度も頭をさげながら、表まで紳士を見送った。

遠い空がうっすら明るくなっている。もうすぐ夜明けだ。


部屋に戻ると、さっきまで狭い部屋から溢れ出る程大勢いた見舞客が、

ひとりも居なくなっている。

女房は不思議に思うより、不快に感じた。

帰るのだったら、一言くらい挨拶してくれても良いじゃ無いか。

疲れきった女房は、Aさんの枕元に腰を下ろし少し休もうと思ったが、

Aさんの顔色をみて驚愕した。

夜明けの日差しの中で見るAさんの顔色。それはまるでロウのようだった。

女房はAさんに取りすがって、再び号泣するしかなかった。


756 :本当にあった怖い名無し :04/08/19 15:00 ID:QwBfLdAC

騒ぎを聞きつけた隣人に連れてこられた医者は、

Aさんを見るなり女房を怒鳴りつけた。

「誰が患者をいじった!」

Aさんを包む包帯の巻き方は、明らかに素人のものだった。

包帯を取り除けた医者は、Aさんの身体から目を背けた。

無惨に生皮を剥ぎ取られた遺体がそこにあった。


あまりの奇怪な事件に警察が呼ばれ、

半狂乱の女房から何とか事情を聞き出した。

だが、その夜現れた男達も、例の紳士も、

ボタ山はおろか近隣の町村にも、該当者はいなかったと云う。


話を聞いたある人が、

「それはキツネの仕業だろう」と言ったそうだ。

キツネにとって、人間の瘡蓋や火傷瘡は霊薬になるとされ、

ある地方では、

『火傷や瘡蓋のある者が山にはいるとキツネにだまされる』

という言い伝えがあると云う。

女房は目の悪い女で、

日頃から泣き腫らしたような瞼の持ち主だったという。

キツネはそれに付け込んだのだろうか。


残念ながら、女房がその後どうなったかまでは、

この伝奇の採集者は伝えていない。

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