おすすめの洒落怖「C菜の夢」

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かなりの名作怖い話だと思います。

投稿者の方はご自身の実体験として、語ってくれています。

これが実話だなんて、怖すぎます…

恐怖度は、けっこう高めなので超絶怖がりの方には向かないかもしれません。

長い話ですが、一読の価値が充分にあると思われます。

ちなみに俺は今27歳。 

昔のことは、ややうろ覚えの部分もある。

細かな描写はある程度、想像の部分もあるけど勘弁。


あと謎が多く残る、誰か分かった人が居たら書いた後に教えて欲しい。


スレタイにも書いたけど、これは俺が小学校4年生から現在まで続いてる話。


当時の俺は、仲の良い男の子と女の子が居て、学校の休み時間も放課後も常に3人で行動していた。仮に名前をA男とC菜としておく。

3人でふざけ合ったり喧嘩したり、まあ良く居る仲良し3人組みみたいな感じだった。


そんなある日、C菜は学校を休んだ。これは、おかしいと俺は咄嗟に思った、C菜は超が付くほどの健康優良児であり、今まで一度も学校を休んだことがなかったのだ。


俺「おい、今日C菜休みみたいだぞ」


A男「どーせ、夕食食い過ぎて腹でも壊したんじゃないのwwww」

俺「wwwwwwwww」


等と、俺達は殆ど気にも留めなかった。


放課後に見舞いに行こうか迷ったが、どうせ明日になればピンピンして学校に来るだろうと思って行かなかった。

しかし、翌日もC菜は学校を休んだ。


俺「んー、まだ調子悪いのかな」


A男「今日は拾い食いでもしたんじゃね?www」


俺「wwwwwwwww」


A男は相変わらず笑い飛ばしていたが、俺は何か嫌な予感がしていた。

その予感は朝のホームルームで的中することになる。


先生「えー、先日から学校を休んでいるN(C菜)だが、実は先日から入院をしている」


俺「え?」

A男「は?」


俺達は二人揃ってポカーンだった。

先生の話を聞くと、どうやらC菜は登校前に自宅で急にぶっ倒れてそのまま救急車だったらしい。


その後、仲の良かった俺達二人が代表して、翌日の放課後に見舞いに行くことになった。


俺「おいおい、、、どうなってんだよ」


A男「うーん、腹痛にしては随分大掛かりだな、、、」


相変わらず軽口を叩いているA男であったが、俺は正直かなり不安で心配だった。

俺もC菜には負けるが、かなり身体は強い方であり、病院=ヤバイのイメージがあったからだ。


A男「まっ、明日からかいに行ってやろうぜ、とっとと学校来いってな」


俺「うん」


そして翌日、俺はA男と共に、C菜が入院している病院を訪れた


A男「うわー!でっけーなあ!あ、あれナースさんだぜ!!」


俺「恥ずかしいから、やめてくれよ、、、」


初の病院に興奮しているA男を尻目に、俺は受付でC菜の面会に来たことを伝える。


俺「すいません、C菜、、、えっとNさんの病室はどこですか」


受付嬢「はい、えーNさんの病室は、、203号室になりますね」


受付嬢から病室を聞き、俺達は病室へ向かった。


病室は4人の大部屋だった。

病室に足を踏み入れ、C菜を探す。


俺「んーーー、あっいたいた!おい!C菜!!」


C菜は病室の窓から外を眺めていた。

俺の声に気付き、こちらへと顔を向ける。


C菜「あっ!!」


A男「よう!!」


C菜は満面の笑みで俺達を迎えてくれた。

顔色は普段と変わり無く、元気そうに見える。


A男「倒れたって何だよ、なっさけねーなあ」


俺「元気そうだな」


C菜「もー大変だったよ!wでもちゃんと来てくれたんだね!」


A男「まあ、ちょっとからかってやろうと思ってなwwww」


俺「二人で拾い食いでもしたんじゃないかって話してたww」


C菜「何よそれーwww」


その後、くだらない話しで俺らは盛り上がり、気付けばあっという間に面会時間を過ぎていた。


俺「あっ、もうこんな時間だ、じゃあC菜、今度また来るね」


A男「おう、またな、いつくらいに退院出来そうなんだ?」


C菜「何か大したことないって、お医者さんが言ってたからすぐだと思うよ」


俺「そうか、早く良くなって学校来いよ」


A男「またなー!」


C菜「うん!来てくれてありがとう!また学校でね!!」


そして病院の帰り道


俺「元気そうで良かったな」


A男「あいつは殺しても死なないだろwww頭に隕石でも落ちない限りwww」


俺「はははははwwww」


A男「早く学校来るといいな」


俺「だな」


そして3日が過ぎた

C菜はまだ退院しなかった


俺「おいー、C菜まだ退院しないのかよー!」


A男「階段で足滑らせて退院が延びてるんじゃね?w」


俺「wwwwwww」


しかし、俺はこの時も漠然とだが、嫌な予感がしていた。


そして、4日、5日、6日、一週間が過ぎた

C菜は相変わらず学校に来なかった。


俺「うーん、C菜すぐって言ってたのに遅いな」


A男「んー、病院の医者に惚れちゃったとか!んーーー」


相変わらず冗談で濁しているA男だったが、流石に心配な様子だった。


俺「今日、学校終わったら会いに行ってみようか」


A男「そうだな、どーせくだらない理由だろ」


放課後、俺達は再びC菜の入院している病院へと向かった。


病室へと、入るとC菜は横になっていた。


俺「おいー!C菜ー!」


C菜「あっ!来てくれたんだね!」


A男「おっすー」


相変わらず満面の笑みを振りまいているC菜だったが、心なしか顔色は悪く

目が濁っているように見えた。


A男「なげー休みだな!w」


俺「まだ退院出来そうにないのか?」


C菜「何か検査をするとか何とか言ってて良く分かんないんだよね」


A男「頭の検査か?w」


C菜「失礼ね!w」


俺「まだ退院は先になりそうなのか?」


C菜「うん、でも検査が終わって大丈夫ならすぐに帰れるって!」


A男「そーかそーか、どうでもいいけど、とっとと学校来いよ」


C菜「うん!勿論!早く皆で遊びたいなー」


その後は前回と同様、くだらない話をしつつ、適当に病院を後にした。


そして病院の帰り道


A男「心配して損したよ!すげー元気そうじゃん!」


俺「うーん、でもちょっと痩せてたな」


A男「病院のメシが不味いんだろ、あいつ普段、お菓子もボリボリ食ってたしなww」


俺「でも、元気は元気そうだったし、そろそろ帰って来そうで良かったな」


A男「ああよ、休みの間アイツと遊べなかった分、色んな所連れ回してやろうぜ」


俺「いいね!そんでまたくっだらない事で喧嘩したりするんだよなww」


A男「あー早く学校に戻ってこねーかなあ」


俺達は、C菜が学校に戻ってきた時の未来予想図を描きながら、帰路へと着いた。


それから翌日は、C菜が学校に戻って来た時の事をA男と考えながら過ごした。やっぱり普段3人で居たせいか、2人だとイマイチパッとしない。


しかし、C菜は二週間経っても学校へと戻っては来なかった。


俺「おい、、、まだなのかな」


A男「、、、やっぱり頭に異常が、アイツすぐ怒り出すもんな」


相変わらずのA男だったが、心配はしているようだった。

面会に行こうか迷ったが、俺もA男もそれを言い出すことはなかった。

きっと、2人とも、もし残酷な現実を付きつけられたらどうしようと、無意識におびえていたんだと思う。


そして、三週間が経った。


俺「おい、、、A男」


A男「ん?」


俺「いや、、、なんでもない」


A男「そうか、、、」


まさかな、、、あのC菜がな、、、

きっとそのうち


いやー!遅くなってごめーん!とか言って学校にやって来るさ、うん、きっとそうさ。


俺もA男も漠然とした不安を抱えながら、日々を過ごしていき

遂には一ヶ月とちょっとが過ぎた


俺「A男さ、、、」


A男「うん」


俺「今日さ、C菜の面会に行こうと思うんだ、一緒に行こうぜ」


A男「俺も今日、誘おうと思ってたんだ」


俺達は、ついに行動に移した。例えようのない不安を抱えながら、C菜の病院へと向かう。


俺「えっと、、、Nさんに面会に来たんですけど」


受付嬢「はい、えっと506号室ですね」


俺「え?あ、はい」


何故だか知らないが病室が変わっており、俺とA男は5階へと向かう。

病室の入り口へと着くと、表札の札にはC菜の名前しか無かった。どうやら一人部屋らしい。


病室に入ると、カーテンが掛かっており、イスには一人のおばさんが座っていた。


俺「あ、あれC菜のお母さんじゃないか?」


A男「あ、ほんとだ」


C菜の母親とは数回しか会ったことはないが、俺達のことは覚えていてくれたらしい。こっちを振り向いて、声を掛けてくれた。


C菜母「ああ、俺君とA男君、C菜に会いに来てくれたのね」


C菜の母親は、かなりやつれており、目の下にも大きなクマが出来ていた。


俺「はい、C菜いますか?」


C菜母「ええ、C菜、お友達が来てくれたわよ」


そういってC菜の母親は、カーテンをめくった。

そこにC菜は横になっていたのだが、俺達は、あまりの異様さにギョッとした。


C菜は全身が管だらけだった。顔もゲッソリとしており、風が吹けば飛ばされるんじゃないかというくらい、痩せてしまっていた。


C菜「あ、、、来てくれたんだ」


俺「・・・・・・・・」

あまりの異様さに俺は声が出なかった。


A男「お、おう!な、なんかすげー痩せちまったな!」


C菜「うん、好きなものとかも食べられないんだよね」


A男「ま、まあ学校に戻って来たら、また駄菓子たらふく食おうぜ、な、な、、、」


やはりと言うか、流石のA男もあまりの異様さにたじろいでいる様子だ。


その後は、学校でどうだったーとか、最近のテレビだどうだーとか、話をしたが、よく覚えていない。


C菜母「ああ、そうそう」


黙って横で話しを聞いていたC菜の母親が口を開いた。


C菜母「皆の写真を撮って良いかしら」


俺「はい、良いですけど」


A男「ええ」


何故このタイミングで写真?と思ったが素直に従うことにした。


C菜母「じゃあ撮るわね、はい、チーズ!!」


皆で一斉にピースサインをした瞬間、シャッターが切られた。


C菜母「じゃあ、現像出来たらみんなに渡すわね、C菜、お母さん用事があるから、また明日来るわね、二人とも来てくれてありがとう」


かなり急いでいるのか、C菜の母親は慌しく病室を出ていった。残されたのは俺達3人。

しかし、C菜の雰囲気のせいか、これ以上話ても会話が盛り上がらないことは明白だったので

俺達は暇をすることにした。


俺「じゃあ、俺達も行くね」


A男「ああ、またな」


C菜「あ!待って!!」


俺「ん?」


C菜「ずっと、、、一緒に居てくれるよね?」


俺「勿論だろ、俺らは友達だぜ」


A男「だな、退院したら色んなトコ遊びに行こうぜ!!」


C菜「うん、ありがとう!絶対だよ!!」


C奈は顔中で喜びを表していた。


そして、一週間が過ぎたある日、ついにその時がやって来た。

朝のホームルームの時間。


先生「大変、悲しいお知らせがあります、C菜さんが亡くなりました」


俺&A男「!!!」


C菜が死んだ、、、言葉の意味は分かっていても、頭が追いつかない。

あんな姿になっていても、やはり心の中では、また学校に戻って来るという希望があったのだろう。


先生「先生もとても悲しい、悲しくて悲しくて仕方が無い」


嗚咽を漏らしながら、話し続ける先生。

クラスの皆も泣いていた。しかしなぜか、俺は涙は出なかった。


その後のことは、あまり覚えていないが、俺とA男はC菜の葬儀に参列することになった。


俺とA男も抜け殻のように葬儀の日までを過ごし、当日にC菜の葬儀へと向かった。


大人の見様見真似で焼香を済ませ、C菜の母親に挨拶をした。


C菜母「本当に、、、俺君とA男君にはC菜がお世話になったわね」


俺「いえ、、、そんな」


A男「・・・・・・・」


C菜母「そうそう、これ、病院で撮った写真ね」

C菜の母親は喪服の間から、二枚の写真を取り出した。


C菜母「どうか、これを持ってC菜の分まで生きて頂戴」


俺はそれを受け取った瞬間に、涙が溢れ出た


俺「ウェッ・・・ひっくひっく」


A男「・・・・うぅ」


A男も少しだけだが泣いていた。


俺もA男も写真をしまい、葬儀場を後にした。


友人の死は、こどもながらに、かなりショックであり、しばらくは沈んだ日々を送っていた。

それでも徐々に日常を取り戻し、俺もA男も二ヶ月が経つ頃には新しい友人も増えて、普段通りの生活を送れるようになっていた。


そんなある日、俺は恐ろしい夢を見た。


霊的なやつ?怖いはなしならトイレ行けなくなるから見るのやめるは


空気が重く沈んだ空間に俺は居た。しかし、そこがどこなのか分からない、足が地面に着いているのかも分からない。辺り一面、どす黒く、先が見えない。

歩けているのか、歩けて居ないのか分からない状況だったが、俺は先に進んだ。


そこうしているうちに、後ろに気配を感じた。


振り返ると、頭を下げて俯いた少女が、かなり俺の近くに立っていた。


あれ?C菜!!C菜じゃないか!!


特徴のあるくせっ毛に、いつも履いていた靴。

間違いない、C菜だ。


声を掛けようと思ったが、なぜか声が出なかったので、身振り手振りでこちらへと気を引くと

C菜と思われる少女がゆっくりと顔を上げた。


俺「!!!!!!!!」


俺は一瞬にして鳥肌が立った。


そこに居た少女は間違いなくC菜だった、しかし


本来あるはずのもの、目がなかったのだ。


眼球があるはずの部分は空洞となっており、闇が覗いていた。

更には、口も歯と舌が無く、ぽっかりとした空間が広がっているだけだった。


俺「あ、、、あ、、、」


あまりの異様さに身体が全く動かない、逃げ出したいのに、金縛りにあっているのか身体が全く言うことを聞かないのだ。


C菜「・・・・・・・・・・」


C菜が口を開き、何かを言っているが、全く聞き取れない。


俺「何を・・・言ってるんだ」

ひとしきり、C菜が何かを言い終えた後、おもむろに俺の腕を掴んできた。

びっくりするほど冷たかった、夢なのにその冷たさが分かった。


俺「な、何をするんだ!離せ!!!」


C菜「・・・・・・・・・・」


C菜は無言で俺をどこかへ連れて行こうとする、俺は必死に抵抗した。


俺「やめろ!!!」


必死の抵抗のせいか、C菜は諦めたのか、俺の腕を離した。


俺「はあ、、、はあ、、、はあ」


C菜「・・・・・・・・・」


俺「!!!!!!!」


C菜は笑っていた、眼球と口の無い顔で、ニヤリと。


その瞬間、目が覚めた。


起きたのは夜中の3時だったが、急いで母親をたたき起こし、泣き付いた。


母親は優しくなだめてくれた、きっと友人が死んだショックがまだ抜けてないと思ったんだろう。


その後は一睡もすることが出来ず、学校へと行った。


俺「おう、A男おはよう、、、」


A男「ああ、、、」


勿論俺に元気などあるはずもないが、なんだかA男も元気が無いように見えた。


俺「何か元気ないな、どうした?」


A男「・・・・・・」


普段から元気ハツラツのA男、これは明らかに様子がおかしい。


A男「夢を・・・見たんだ・・・C菜の夢を」


俺「え、、、?」


詳しく話しを聞いてみて分かったが、あろうことか、A男が見た夢は、俺が見た夢と全く同じの内容だったのだ。

その事実をA男に告げると、A男はみるみる青ざめていった。


A男「どういうことだよ!これ!」


俺「お、俺に聞かれても分からないよ!!」


意味が分からず、パニックになる二人。しかし、かと言ってどうすることも出来ない。


俺もA男も無理やりに偶然と決めつけ、この問題を頭から消し去ろうとした。

二人で同じ夢を見るなんて偶然、あり得るはずがないのに。


そして、その日も夢を見た。全く同じ内容の夢だ。


全身が汗だくになって、飛び起き、また母親に泣き付いた。

やはり母親は優しくなだめてくれたが、俺の気持ちが治まるはずがない。


俺「何なんだよ・・・何なんだよ!!一体!!!」


翌日も満身創痍の状態で学校へ行ったが、A男は学校に居なかった。

何を言ってるのか分からない授業を聞き、急いで家へと帰宅。


家へ帰ってからは、何をするでもなくぼーっと過ごした


俺「寝るのが・・・怖い」


二日連続で同じ夢を見たのだ、三日連続も考えられる。


俺「どうしよう・・・どうすれば良いんだろう・・・・・・・そうだ!!!」


ふっと、俺の中で何かが閃いた。


俺「お母さんと一緒に寝れば良いんだ!」


当時の俺は、かなりのマザコンであり、何かあったらすぐに母親に泣き付いていた。

また恐ろしい夢を見ても、きっと母親が何とかしてくれる!そう信じて疑わなかった。


俺「おかあさん」


母「ん?」


俺「今日一緒に寝よう」


母「いいわよ」


心の中で俺はガッツポーズを取った。


そして、その日の夜、俺は母親と一緒の布団へと入り、心地良い安堵感の中眠りに付いた。

これなら大丈夫だろうと、俺は何一つ心配していなかった。


しかし、その晩、俺は再び夢を見た。

全く同じ内容、全く同じ悪夢。


唯一違ったのは、起きた部屋が一緒に母親と寝た部屋ではなく自分の部屋だったのだ。


俺「な・・・何で・・・」


俺は全速力で母親の部屋へと向かった。


母親は寝ていた、何事も無かったかのように。

再び叩き起こして、詳細を尋ねる。


俺「おかーさん!!なんで寝ている間に僕の部屋に帰したの」


母「はあ?」

寝ぼけ眼で母親が答える。


俺「僕が寝ている間に、僕の部屋まで連れていったでしょ!ひどいよ!!」


母「何を言ってるの?いきなり夜中に起きて、自分で部屋に戻ったんじゃない」


俺「え・・・」


母「声を掛けても何も答えないし、寝ぼけてたんじゃないの?」


俺「・・・・・・」


茫然自失の状態で自室へ戻る、時計を見ると夜中の三時だった。


俺「なんで・・・なんで」


こんな状況で再び眠れるはずもなく、俺はその後は一睡もせずに学校へ向かった。

授業なんて適当に聞き、放課後、A男の傍へ行った。


A男「よう・・・」


俺「ああ・・・」


A男「昨日、体調悪くて休んだんだけどさ・・・」


俺「うん」


A男「あれから二日続けて見るんだ・・・C菜の夢を」


俺「え?A男もか・・・?」


A男「え、じゃあお前も?」


俺「ああ」


A男「・・・・・・」


どうすれば良いのか、俺達は頭を抱えた。


俺「C菜・・・俺達に何かを伝えたいのか」


A男「え?」


俺「夢の中で、C菜は何か言ってるだろ?」


A男「ああ、でも何を言ってるか分からないんだ」


俺「口の動きからして・・・」

俺は必死に夢の中のC菜が、どう口を動かしていたかを思い出す。


さ む さ  い  さ  し  い  きて


さ い  む  い  みし  きて


俺「・・・・・・」


A男「何か分かったか?」


俺「寒い・・・寂しい・・・来て」


A男「・・・・・・」


俺「俺達を連れて行こうと・・・?」


死者であるC菜が俺達を連れて行こうとしている・・・

考えるだけで、鳥肌が立った。


俺は現状を打破するべく、新しい手がかりを探すことにした。


俺「そういえば写真」


A男「え?」


俺「俺とA男とC菜で撮った写真だよ」


A男「ああ、それがどうしたんだ?」

俺「ちょっと見てみよう」


A男「手がかりを探すってことか?」


俺「うん、もしかしたら何か分かるかもしれない」

俺は常日頃から、その写真を持ち歩いていた。

リュックから取り出し、覗きこむ。


俺「んー・・・・・・・!!!!!!!!!!」


A男「どうしたんだ?・・・・・・!!!!!!!!!」


絶句する俺、その様子を見て写真を見たA男も絶句する。


C菜の母親に向けてピースサインをする俺とA男、そして真ん中のC菜


しかしC菜には、眼球がなかったのだ。そう、夢と全く同じ。


A男「うわああああああああああああ!!!!」

A男が俺から写真をひったくって、ビリビリに破いた


俺「お、おい!!何をするんだ!!!」


A男「はぁはぁはぁ・・・・」


A男「なんなんだよこれ!!わけわかんねえよ!!」


俺「あああ・・・」

次々と起こる怪奇な現象、俺達は完全に発狂寸前だった。


???「ちょっと・・・」


俺&A男「うわっ!」


突然背後から話しかけられて、俺は面食らった。

振り向いてみると、クラスメートのD子だった。


D子は典型的な根暗なクラスメートで、友達は全くおらず

休み時間は、皆と話さずにどこかへと消えている、そんな女子だった。


俺「な・・・何だよ」


D子「その・・・恐ろしい念を感じたの」


俺「は?」


D子「それ」

D子がびりびりに破いた写真を指差す


俺「・・・何か分かるのか?」


D子「もうすぐ・・・こっちに来るよ」


俺「は!?どういうことだよ!?」

来るってまさか、俺達を連れに来るってことか・・・?


A男「何でなんだよ!俺らはC菜と親友だったんだぞ!」


D子「その子、地獄に行ったの」


俺&A男「・・・・・・」


俺「じゃ、じゃあどうすれば良いんだ!?」


D子「どうにもできないよ」


俺&A男「え・・・」


D子「誰かを引きずり込みたい念が強すぎて、どうしようもないよ」


俺「そんな・・・」

もう現実世界にC菜が現れて、俺達を連れて行くのを待つしかないのか・・・。


D子「これ・・・」

D子が何かをポケットから取り出し、俺達に手渡した。


俺「何だ・・・これ?」

渡されたのは、小さな小さなお守りだった。


D子「こんなんじゃ防げないと思うけど」


俺「あ、ありがとう」


A男「・・・・・・・」


D子「あまりにも恐ろしい念なの、多分これじゃ限界が来ると思う」

そう言い残して、D子は教室を出て行った。


教室から出て行ったD子をA男が追いかけたものの、D子はもう廊下に居なかった。

俺「何だったんだろう」


A男「さあ・・・」

突然現れて俺達にお守りを渡したD子、そのお守りも、俺の掌の3分の1程度の大きさだった。


A男「こんなんで防げるのかよ・・・」


俺「分からない、でも信じるしかないよ」


藁にもすがる思いだったが、俺はその効力を信じて枕下にお守りを置いて寝た。


しかし、その日、俺は夢を見てしまった。


だが、今までの夢とは内容が違った。


気が付いた時には、既にC菜が目の前に居て、俺を見据えていた。

眼球が無いので、表情は伺い知れないが、明らかに今までとは雰囲気が違う。


C菜「・・・・・・」

C菜が何かを言っている


C菜「・・・ない」


C菜「ゆるさな、い」


俺「!!!!!!!!!!」

その瞬間、俺は夢から覚めた。


俺「はあ・・・はあ・・・・はあ・・・・え?」


ふ、と枕もとのお守りに目をやると、お守りに小さなひっかき傷のようなものが出来ていた。


それ以来、小学生の間、C菜が俺の夢に出てくることはなかった。

もちろん、外泊をする際は、お守りを持ち出していたことは言うまでもない。



それからは、中学時代は何事もなく時が過ぎていき、無事に高校に入学した。

A男とは疎遠となり、D子は小学校5年の時に何処かに引っ越していった。

高校生活も、初めて彼女が出来たり、初体験をするなど、中々に充実した生活を送っていた。


そんな生活に陰りが見えたのは高校2年生の春。


彼女「ねえねえ、加奈子さんの噂って知ってる?加えるに奈良の奈に子って書くの」


俺「は?何それ」


彼女「夢でね、加奈子さんっていう女の子が現れて、死者の世界に連れて行こうとするの。寂しい寂しいって言いながら手を引っ張って来るんだって。」


俺「ふーん」


彼女「その子ね、目と歯が無くて、真っ黒な空洞なんだって!」


俺「う・・・」

一瞬、まさかC菜のことかと思ったが、C菜は加奈子なんていう名前ではない


彼女「で、それを拒否し続けると、こっちの世界にやって来て直接連れて行こうとするんだって!」


俺「くだらない話だな」


彼女「あ、信じてないでしょ!」


俺「よくある単なる噂でしょ」

どうせ、どこにでもある都市伝説の一つだろう、気にも留めなかった。


そんなある日


友人A「なあ、俺、加奈子さんの夢見ちまったんだ・・・」


俺「は?」

聞いてみると、俺が前に彼女に聞いた加奈子さんの夢を友人が見てしまったらしい。


俺「気にすんなって、どうせ怖い話し聞いちまったから夢で出てきただけだよ」

この友人Aは凄く良い奴なんだが、かなりのビビリなのだ。


友人A「そ、そうかな」


俺「そうだって、あんまり深く考えるなよ」


友人「そうか・・・」

しかし、本当のことを言えば、俺は妙に引っかかりを感じていた。


その晩、俺は悶々と噂のことを考えていた。


小学生以来、何年も見ていない夢、それとそっくりな内容の夢が噂になっている。

真実かは分からないが、友人は実際に見てしまったとまで言っている。


俺「そうだ!お守り!!」

俺は常に枕下に入れておいたお守りを確認した。


俺「・・・・・え?」

お守りは確かにそこにあった。しかし、既にお守りの体は成していなかった。

お守りは、引きちぎったように二つにされており、赤い液体が付着していた。


俺は、顔面が真っ青になりお守りを放り投げた。


俺「ど・・・どうして」

その日は一睡も出来なかった。


翌日、俺は生きた心地のしないまま学校へと向かった。


そして学校の休み時間

俺は昨晩のショックが抜け切らず、頭を抱えていた。


どうしてお守りがあんなことに?

中学の時は何事も無かったのに何で?

もしかして加奈子さんの噂と関連があるのか?

疑問は尽きない。


クラスメートA「加奈子さんの噂って知ってる?」


クラスメートB「知ってる知ってる!」

俺は一瞬ビクッとなったが、クラスメートの会話に耳を傾けた。


クラスメートA「連れていかれるって噂だけど、B組のAさんは夢を見たって言ったっきり学校に来てないんだって!」


クラスメートB「こわーい!!」


俺「俺にもその話し、聞かせてくれないか」


クラスメートA「えっ」

突然の俺の登場に面食らった様子だったが、聞かない手はない。


クラスメートA「でも俺君ってそういうの信じないんじゃなかったっけ?」


俺「うん、でもまあ、ちょっと気になって」


クラスメート「ふーん、まあ良いけど」


こうして俺は、加奈子さんの噂の内容を聞いた。要約するとこうだ。


1、名前は加奈子さん

2、噂を聞いた人の夢に現れる

3、中学生か高校生くらいの女の子

4、長髪黒髪でチェックのシャツにスカートを履いている

5、眼球が無く、真っ黒であり、歯も舌もない

6、手を引っ張って連れて行こうとする

7、何日も夢を見ると、現実に現れて連れに来る


・・・ん?

俺は違和感を感じた。


俺が見ていた夢と比較してみてどうだろうか。

5、6は正に俺の見ていた夢と合致する。

しかし、1、2、3、4が不可解だ。


まず、C菜は加奈子なんて名前じゃない、更にはクセっ毛のC奈と比べて容姿がかけ離れている。

仮に加奈子さんの夢が俺の見ていた夢と同じだとしても

あくまでC菜は俺とA男を連れて行きたいのであって、他人の夢に現れる意味が分からない。


そして、中学生くらいの女の子・・・C菜が亡くなった時は小学校4年生だ、中学生、ましてや高校生と見間違える可能性は低い。


うーん、考えれば考えるほど分からなくなる。

俺の頭の中はクエッチョンマークだらけだった。


俺「何で加奈子さんの噂って言われてるの?」

俺は率直に尋ねてみた。


クラスメート「知らない、夢に出てくる女の子が加奈子さんっていうんじゃないの?」


俺「うーん」


C菜の夢とは相違点が多いものの、全く同じ部分もある。

目と舌と歯が無くて、手を引っ張って行く少女・・・これは偶然の一致なのか?

更には、引きちぎられたお守り・・・。


ダメだ、考えれば考えるほど分からなくなる。

様々な疑問を抱えたまま、俺は帰路に着いた。


その日、お守りが無くなったことにより、夢を見てしまうのではないかと危惧したが

夢を見ることはなかった。


それからは、何事もなく日常が過ぎていった。

C菜の夢を見ることもなく、平和だった。

しかし、相変わらず加奈子さんの噂は続いていたが・・・。


そんなある日を境に、友人Aが学校に来なくなった。

まさか・・・とは思ったが、さしたる証拠も無いのに安易な考えは出来ない。

そんな心配を他所に、クラスメート達は勝手に噂をしている。


クラスメートA「絶対、加奈子さんに連れて行かれたんだよー」


クラスメートB「夢を見たって言ってたもんねー」

クラスメート達の無神経さに軽い苛立ちを覚えたが、確かに友人Aのことは気になる。


俺「調べてみるか」


しかし、友人と言っても携帯の番号やアドレスを知っているほどの仲では無かったため、まずは友人Aと親しかったクラスメートに話しを聞くことにした。


俺「なあ、最近Aを見ないけど風邪か何かか?」


クラスメートC「俺も分からねえ、メールの返事も無いし電話しても出ないんだよ」


俺「そうか、ありがとう」


これは担任の先生に聞いてみるのが早いだろう。


俺「先生、最近Aって何で休んでるんですか?」


先生「んー家庭の事情だ」


俺「家庭の事情?」


先生「ああ、落ち着いたら来るんじゃないか」


俺「そうですか」

そう言いつつも、俺は何か釈然としない気持ちを抱えていた。


そこで俺は直接Aの家へ行って聞いてみることにした。


何でここまでしているのか俺にも良く分からない。

でも、やはりあの噂はあまりにも気になる。


ここか・・・


翌日、俺はクラスメートに住所を教えて貰い、放課後の時間を使ってAの家までやって来た。

Aの家はさほど学校から離れておらず、ごく普通の住宅街にあった。

一軒家だったが、かなり古い作りで、所々がひび割れている。


俺「A、居るかな、居たとしても何を話せば良いんだろうか」

突然押しかけてきて、迷惑だよなあ・・・

そう思いながら、玄関のチャイムを押す。


・・・


・・・


返事がない。


俺「留守かな」


その後何度も押しても、誰かが出てくることはなかった。


ふ、と家を見上げてみる。


俺「ん?」


窓際の所、女性が立っている。

あんなにチャイム鳴らしたのに何で出ないんだろうか。


ずっと窓際を見ていると、女性がこっちを向いた。


俺「う・・・」

曇りガラスのせいでぼやけて見えないが、面と面で向き合った瞬間、なんとも言えない寒気がした。


俺「え?」


俺と目が合った後、女性はなぜか、腕を伸ばし、顔と腕をガラスに張り付けた。


掌と腕を、べったりと。


俺「お、おじゃましました!!」


あまりの不気味さに、俺は聞こえるはずもないのに声を出して、逃げるように去った。


何なんだよアレ・・・おっかねえ。


Aの姉か妹だろうか?何であんなに鳴らしたのに出てくれなかったんだろうか。


尤も、あんな不気味な人が出てこられても困るが・・・。


翌日、気になった俺はクラスメートに尋ねてみることにした。


俺「なあ、Aって姉か妹っていたっけ?」


クラスメートC「いやーアイツは一人っ子のはずだぞ」


俺「そ、そうか」

まあ、母親という可能性も0ではないが・・・


そこから何日も経過したが、相変わらずAは学校に登校して来なかった。


そして、ある日の晩


ちょっと小腹が減っていた俺は、コンビニまで自転車で走ることにした。


時間的には結構な夜中だったが、コンビニまですぐだし、気にしないことにした。


そんな中、コンビニへ向けて軽快に自転車を走らせている最中、後ろから大声で呼び止められた。


???「そこの君!!止まりなさい!!!」


俺「え?」

振り向いて見ると、自転車に乗っている警官だ。


俺は立ち止まり、警官が近づいてくるのを待った。

警官はかなり、怒った顔をしている。


やっば・・・、夜中に出たから怒られるのかな


警官「二人乗りなんてしちゃダメじゃないか、そんなスピード出して!!」


俺「え?」


警官「後ろの子は・・・あれ?」


俺「俺、二人乗りなんてしてないっすよ」


警官「そんなはずはないだろう?女の子が後ろからしがみ付いているのが見えたぞ」


一瞬、ゾワッとした・・・そんなハズはないだろう。しかし警官は真剣な表情だ。


警官「み、見間違いか・・・いや、しかし確かに」


警官はブツブツ言っていたが、俺は気が気ではなかった。


警官「と、とりあえず夜中の外出は控えるように!」


その後、軽く小言を言われて俺は家に帰された。


なんと言うタチの悪い冗談なんだろう


きっと、俺を怖がらせて夜中の外出をさせないようにしたんだろうな!

きっとそうだ!


・・・・・・


俺の心は全く晴れなかった。


俺の中で何かが、ヤバイ、と警告していたのだ。


確実に俺の周囲で何かが起きている。


放課後、俺は頭を抱えていた。


不可解な現象、もはや怪異と呼べるような内容が立て続けに起きている。


そしてAについてだ。

これはもう、何かしらの事態がAに起こったと考えるのが妥当だろう。


仮に家庭の事情だとしても、友人達にメールの一つも寄越さないのは異常だ。


それに、あの異様な家・・・。


???「なーにブツブツ言ってんの?」


俺「うわっ!!な、なんだ○○か」


彼女「えへへー、驚かせちゃった?」


突然の登場に面食らったが、そこには彼女が立っていた。

俺が机に向かってブツブツ言ってるのをずっと観察してたらしい。


なんという悪趣味な・・・。


俺「あ、そうだ!」


俺は彼女に協力して貰うことにした。


彼女「んー?」


俺「加奈子さんの噂って前に○○が教えてくれたよな、それについて詳しく知ってる人を探して欲しいんだ」


彼女「えー、何で?全然興味無さそうだったのに」


俺「ん、まあ、ちょっと色々とな」


彼女「いいよー!探しておくね」


俺「サンキュー」


彼女は顔がかなり広い。これで新しい情報も入ってくるかもしれない。


俺は俺で行動を移した。


翌日から、クラスメートを含め、様々な人に噂について聞いたが、芳しい結果は得られなかった。


校内の知人という知人に話を聞いたが、噂は聞いたことがある、という程度の情報しか得られなかった。


~組の○○さんが居なくなったとか、○○さんが夢を見たらしい、等は聞けたが

あまりにも信憑性に欠ける。


そんな八方塞の中、知人からとある人を紹介された。他校のD男という男だ。

オカルト研究会に所属しているらしい。


自分の高校のオカルト研究会は訳の分からん新聞や冊子を作っていて

あまり近寄りたくないイメージだったが、背に腹には変えられないだろう。


しかも他校かよ・・・まあ仕方ないか。


俺は知人にアポを取って貰い、放課後にD男の高校のオカルト研究会を訪ねる約束をした。


翌日、俺は放課後にD男の高校を訪ねた。


D男の高校は自分の高校からさほど離れておらず、電車ですぐの所だった。


俺「・・・・・・」


校門を前にして、俺は息を飲んだ。


なんというデカイ高校だ・・・。

うちの高校とは比較にならないほどの大きさ。


D男の高校は私服可なので、変に怪しまれることなく入れた。


外見通り、高校の中も非常に広かった。


俺「サークル棟みたいなのあるかな?」


場所がサッパリ分からなかったので、近くにいた学生を捕まえて聞いてみた。


俺「あの、オカルト研究会ってどっちですか?」


学生「あっちだけど・・・、あんなのに入りたいの?」


俺「え?」


学生「やめたほうがいいよ、変なのばっかりだから」


俺「はあ・・・」


流石に偏見が過ぎると思うのだが・・・、とりあえず教えられた方向へと向かう。


俺「ここか・・・」


オカルト研究会と書かれた札を見つけ、俺は中に入る。


俺「あのー、D男さん居ますか?」


???「ん?」


部室には一人しかおらず、中に居たモヤシのような男が返事をした。

いかにもオタクという感じ。


D男「俺がD男だけど、何?入部希望かい?」


俺「え、いや、違うんです、○○の紹介で来ました」


D男「ああ!話は聞いてるよ!何でも面白い話があるんだって?」


あまり面白がられても困るのだが・・・。


俺は、うちの高校で広まっている噂についてD男に話した。


D男はうんうん、と頷きながら話を聞いていた。


ひとしきり話終えた後、D男が口を開いた。


D男「実に興味深い話だね」


俺「はぁ、そうっすか」


D男「あくまで私の推測になるが、加奈子さんは実在の人物の可能性もある」


俺「えっ!?」

加奈子さんが実在の人物とは・・・どういうことだろう。


D男「では、順番に私が思ったことを話していこう。・・・そっくりな話にカシマさん、ヒキコさんという話があるんだが知っているかい?」


俺「いや、知らないです」


D男「これらの都市伝説は仮死魔霊子、森姫紀子っていうのが登場人物なんだ、加奈子さんと比べてみて何かに気付かないかい?」


俺「うーん」


俺は考えてみた。


俺「何だか、加奈子さんの方が実際に居そうな名前ですね」


D男「そう、その通り、勿論理由はそれだけではないが、それは後に話そう・・・あ、座って聞いてくれ」


D男は俺にイスを促した。俺はイスに座り、話の続きを聞くことにする。


D男「君が言った通り、仮死魔霊子や森姫紀子と比べて、現実にあり得る名前だ。更に言うと、噂のタイトルが片仮名ではなく、漢字で伝わっていることが面白い」


俺「と、言うと?」


D男「噂とは常に変遷していくもの、加奈子さんっていうタイトルじゃ、いまいちインパクトがないだろう?つまりは誰かが改変する前の可能性がある。そして、私はこの噂のある点に注目している。」


俺「ある点とは?」


D男「対処法だよ」


俺「対処法?」


D男「そう、得てして怪異に出会ってしまうタイプの都市伝説は、何らかの対処法が確立されている場合が多い。カシマさんであれば質問に正しく答える。ヒキコさんなら、いじめっ子の真似をする等ね。他にも口裂け女や赤マント、赤いちゃんちゃんこ等も含まれる」


俺「はあ・・・」


D男「つまり、こういうことだ」


俺が理解していないのを察したのか、D男は紙とペンを使って説明してくれた。


噂の発生→狭いコミュニティで広がる→仮の完成→外部へ広がる→面白い部分が抽出される→噂の完成


D男「最初に狭いコミュニティで広がるのは、一笑に付すような話でも話やすい人が居ることによる、心理面からきている。

噂はやがて形作られ、仮の完成を持って外部へと広がって行く。そして外の世界へと旅立った噂は、想像力豊かな人達によって、改変されていく。最後に噂の完成だ。」


俺「うんうん」


D男「ここで注目すべきは、いつ対処法が作られるかだ、もし君が極度の恐怖症だったとしよう、噂を聞いてしまったらどうする?」


俺「うーん・・・どうすれば助かるのかを聞きますね」


D男「そう、その通り。怪異に出会ってしまうタイプの都市伝説は、恐怖を煽ることが目的だ。ましてや対処法が無いのなら、必死に助かる方法を聞く人も居るだろう。

そこで、必ず優位に立ちたがる人が出てくる。これも人の心理だな」


俺「心理?」


D男「他人より目立ちたい、という欲求を持っている人間は多い。対処法が何も無い所に、対処法を知っているという人がいれば、耳を傾けるだろう?」


俺「確かに」


D男「つまり、対処法が作られる要因は、人の優位に立ちたい、目立ちたい、チヤホヤされたい、と言った心理からきているんだ。

先ほどにも述べた通り、こういった恐怖系が苦手な人も多いし、目立ちたいという欲求を持っている人は非常に多い・・・つまり」


俺「対処方が確立されていない・・・と、言うことは加奈子さんの噂が出来たのは最近の可能性が高いと?」


D男「素晴らしいね!!オカ研に入らないかい?他校でも君なら大歓迎だよ!」


俺「結構です」


俺はD男の勧誘を軽くいなし、疑問に思っていたことを聞いてみた。


俺「何故、加奈子さんが実在の人物だと思ったんですか?」


D男「長髪黒髪でチェックのシャツにスカート、私はこの部分に注目したんだよ」


俺「と、言うと?」


D男「君は何も違和感を感じなかったのかい?」


俺「うーん」


俺はしばらく考えた後、率直な感想を言ってみた。


俺「別にこの部分はいらない気が・・・」


D男「そうだ、恐怖を煽る都市伝説にしては、明らかに浮いている部分に思える。

そして、未完成の都市伝説にも関わらず、この部分だけが妙に細かい。勿論、この部分は噂が外部へと行けば淘汰される部分だろう」


俺「うんうん」


D男「他の部分とは違い、恐怖を煽る役割を果たしていない、そして未完成な初期の噂であり、それでも不自然なほどの細かさ。

つまりは、長髪黒髪でチャックのシャツにスカート、この部分は現実にある事柄を表していると考えられる。

更には加奈子さんというリアリティのある名前も含め、現実にモデルが居ると考えられるのが自然だ」


俺「なるほど・・・」


伊達にオカ研ではないと言うことか、D男の理論は納得出来る。


俺「どこで生まれた噂かって分からないですかね?」


D男「それならば大体、察しは付いている」


俺「え?本当ですか?」


自身満々に言い張るD男に、俺は驚きを隠せない。


D男「君の学校だよ」


俺「俺の学校?」


D男「そういった都市伝説の類は、得てして狭いコミュニティである程度形成されてから、外部に広まって行くのは先ほどに述べた通りだ。

それに、類似するタイプの都市伝説と比べて、細部の構成が出来ていない。

それでも、未完成のまま君の学校では広まっている。つまり・・・」


D男は大きくもったいぶってから言い放った。


D男「加奈子さんは実在のモデルが居る可能性が高い、噂が出来たのは最近、そして出処は君の学校だ」


俺「おお・・・」


俺はD男の理詰めに完全に圧倒されていた。


これらのことから考えるに、噂の真相を探るには校内を中心に聞き込みをするべきだろう。


加奈子さんと言う人物が居ないか、そして最近何か起きたことはないか、これらも合わせて探っていこう。


俺は、丁重にD男に礼を述べ、部室を後にした。


まず俺は、彼女に校内を中心に聞きこみをして欲しいと伝え、自分は校内にカナコさんという名前の人が居ないかどうかを探した。


しかし、これは難しい話で、一つ一つのクラスを回る訳にもいかないし

居たとしても、「可南子や香夏子」であったり一致する名前は居なかった。



そんな最中、怪奇が起きてしまった。


夜中、寝ていて目が覚めた俺は、尿意を感じてトイレへと向かった。


用を足し、部屋へ戻った俺は異変に気付いた。


俺「寒い・・・」


部屋を出る前と比べて、明らかに室温が下がっている。


その日は温かい日だったのに、この部屋だけが隔絶されたかのように寒い。


俺「何なんだ・・・」


気にはなるものの、布団へと潜り込む俺。


しかし、何気なく窓の方へ目をやった瞬間、俺は戦慄した。



窓に・・・Aの家で見た女が張り付いている。


俺「ぁ・・・」


声が出ない、金縛りにあったように体も動かない。


バン!!!!!!

バン!!!!!!

バン!!!!!!


俺「!!!!!!!!」


女が狂ったように窓を叩き始めた


俺「た・・・頼む、消えてくれ!!」


目を閉じ、心の中で必死に念じる。


バン・・・!


バン・・・!


・・・


俺の願いが通じたのかどうか、音がしなくなり、目を明けると女は居なくなっていた。


俺はあまりの恐ろしさに、頭から布団を被り、朝まで震えていた。


もう時間が無いかもしれない・・・、俺は必死に情報を集めようとした。


俺「何か分かったことはない?」


彼女「うーん、特に無いなあ、あーそういえば」


俺「ん?」


彼女「あたしも見たんだよね、加奈子さんの夢」


俺「え・・・」


彼女「そんな心配しなくても大丈夫だって!」


俺「・・・・・・」


彼女は楽観的だが、俺は焦った。


俺は血眼になって探した、噂の当事者を。


そんな最中、彼女がついに、噂を詳しく知っている人を探し出してくれた。


彼女「卒業生の人で、噂について詳しく知ってる人が居るらしいよ」


俺は、彼女に頼み込み、当事者とアポを取る事に成功した。


俺「ここか・・・」


指定されたのは、学校近くの喫茶店。午後5時。


中へと入り、教えられた席を探す。

客は殆ど居なかった。


俺「右奥のソファー席・・・あ、あれか」


席へと座り、待ち人が来るのを待つ。


俺「来ないな・・・」


時間が10分、20分と経って行く

もしかして、すっぽかされたか?


そんな疑念も沸き始めた時


???「お待たせしました」


俺「あ」


声を掛けられ、振り向くと、そこには一人の男が立っていた。


???「噂を詳しく知りたい、というのはあなたですか?」


俺「はい、えっと○○と申します」


???「E男です」


男は俺の向かい側へ座りった。


中肉中背、大人っぽく、顔立ちは整っているのだが、暗い表情をしていた。


俺「あの、噂を詳しく知っていると聞いたのですが」


E男「加奈子は・・・俺の彼女です」


俺「え?」


想定外の言葉に、俺は驚きを隠せない


E男「彼女だった・・・というのが正確な言葉だけど」


俺「あの・・・その、失礼ですが」


別れたのか?と聞こうとしたが、流石に聞けなかった


E男「いや、居なくなったんだよ、急に」


俺「居なくなった?」


E男「うん、数ヶ月前に、忽然と」


話を詳しく聞いてみると、加奈子さんは数ヶ月前に行方不明になってしまったらしい。


電話をしても全く通じず、住んでいた寮へ行って管理人に聞いても、ずっと帰って来て居ないとしか聞かされなかったらしい。


E男「これを、見て欲しい」


E男がカバンの中から取り出したのは、一冊の日記だった。


E男「加奈子の日記です、中を見てください」


人の日記を見るのは、ちょっと躊躇ったが、俺は読んでみることにした。


○月○日

あー!もう暇!!

しかも盲腸で入院とか本当にツイてないよね・・・

あまりに暇だから、これから日記を書くことにする!!


どうやら、加奈子さんは盲腸で入院している際に、この日記を書き記したらしい。


○月○日

今日、男の子と仲良くなったんだ!!

笑顔がとっても素敵な男の子!!

でも、名前を聞いても、歳を聞いても、「知らない」って言うの。

何だか変な子ね。

だから勝手に、○○ちゃんと呼ぶことにしたの!!


○月○日

○○ちゃんは、自分からは喋ることが無い子。

でも、いつも寂しい、寂しいって言ってる。

お母さんとお父さんがお見舞いに来てくれるトコも見たことがない。

可愛そうに。

「お姉ちゃん一緒に居てくれる?」って聞いて来るから

「もちろんだよ!」と答えた。

○○ちゃんは嬉しそうだった。


そこから先は、とりとめの無い日記になっていた。


病院のご飯がまずい、とか、Eがお見舞いに来たとか、手術怖かった、とか。


そんな日記も、退院の日が書き記されていた。


○月○日

今日で退院!退屈な入院生活ともオサラバ!!

最後に○○ちゃんに会いたかったけど、会えなかったな。

そういえば、あの子がいつも来るから、何号室に入院してたのかも知らないままだったな。

早く、退院出来ると良いけど。


そこから先は、退院した後の生活が記されている。


○月○日

何だかすっごく怖い夢を見た。

目がない○○ちゃんが、私を連れて行こうとする夢だ。

寂しい、寂しい、って言いながら私を引っ張っていこうとする。

怖いなー。


○月○日

毎日、○○ちゃんの夢を見る。

怖い。


○月○日

寝るのが怖い、また○○ちゃんが夢に出てくる。


○月○日

鏡の前に○○ちゃんが居た。


○月○日

どこへ行っても、○○ちゃんが付いてくる。

助けて。


日記はそこで途切れていた。


俺「・・・・・・」


読み終えた俺は絶句していた、言葉に表せない。


俺「・・・何故、その、加奈子さんが夢に?」


俺は思っていた疑問を口に出した。


E男「分からない、でも俺も夢を見たんだよ」


俺「E男さんもですか?」


E男「ああ、既に現実に加奈子が現れている」


俺「じ、実は俺もなんです!!」


俺は今まであったことを洗いざらい話した。Aのこと、現実に現れた加奈子さんらしき人のこと。


俺「どうにか止める方法は無いのでしょうか?」


E男「・・・・・・」


C菜と同じか…


口を閉ざすE男に、俺は落胆を隠せなかった。


E男「もう、終わるよ」


俺「え?」


E男「・・・・・・」


そう言って席を立ったE男を俺は引き止める。


俺「待って下さい!」


E男「止めなくていい、それと・・・」


俺「え?」


E男「夢を見ていない君が何で・・・そこだけが分からない」


その言葉を残し、E男は俺の分の金も置き、去って行った。


俺「・・・・・・」


残された俺はしばらく、呆然としていた。


それからと言うものの、俺の前に加奈子さんらしき人が現れることはなくなった。


加奈子さんの噂は下火になり、しばらく経つと、誰も話さなくなった。


Aはそれでも登校して来ることはなく、E男とは彼女を通しても連絡が取れなくなってしまった。

音信不通になってしまったらしい。


そんなある日、意外な人から電話があった。A男だ。


A男「よう」


俺「A男!久しぶりだな!」


A男「ああ」


俺「急にどうしたんだ?」


A男「・・・・・・」


俺「ん?どうした?」


A男「C菜のこと、覚えてるか?」


俺「勿論だろ」


A男「何か変わったことはないか?」


俺「う・・・あったな、C菜と関係あるかは分からないが」


A男「聞かせてくれ」


俺は今回の一件を詳しくA男に聞かせた。


A男「・・・・・・」


俺「何だ?どうした?」


A男「そうか・・・」


俺「え?何?」


A男「いや、何でもない、またな」


そう言って、A男は一方的に電話を切ってしまった。


何だったんだろう・・・?



俺は大学へ入学した。

さして頭も良くなかったが、推薦でそこそこの大学に入学することが出来た。


サークルへ入り、授業にちょこちょこ出ててはサークルに入り浸り、遊び回る。

まあ、どこにでも居そうな大学生だった。


そんな代わり映えのしない日常、異変が起きたのは大学3年生、サークルの合宿中だ。


E子「ねえ、○○君、この荷物持って!!」


俺「え、あ、う、うん!いいよ!」


E子「あっついよねー、何でこんな山奥を合宿地にしたんだろう」


俺「ま、まあ夜は冷えるって言われてるし、涼しくなるんじゃないかな」


E子「そっか、キャンプファイヤー楽しみだね!」


俺「そうだね!」


突然の登場だが、このE子、俺が今気にかけている子である。

そこまで美人という程でもないが、愛嬌があり人を惹きつける何かを持っている。


何回か二人で遊んで、頻繁にメールでやり取りもしていたが、イマイチ進展が無い状態で

今日の合宿だった。


F男「このこのー、憎いねー」


俺「うわっ!な、なんだよ!」


F男「この合宿で上手く発展するといいなー、あはははは!」


俺「何言ってんだ!聞こえたらどうすんだよ!!」


バンバン!と俺の肩を叩くF男、このF男という男はサークルで一番の仲であり

常日頃から共に行動を取っていた。


高笑いをしながら、荷物を持ち運んでいくF男

まあ、この合宿で仲を進展させることが出来れば・・・と、実際俺も思ってたのだが。


進展がない状態ともこの合宿を機にオサラバだ!!


よーし!!がんばるぞ!!!


先輩「何言ってんだお前」


どうやら口に出てしまったらしい、先輩の冷ややかなツッコミを背に、俺は顔を赤らめ荷物を運んでいった。


その後、川遊びでE子の水着姿に見とれたりしつつ、川に突き落とされたりしつつしていると、夕食の時間になった。

夕食はカレーと焼きそばだった。キャンプ地から支給された薪では明らかに足りないので、数人が少し山へ入って薪を調達してくることになった。


E子「じゃあ、あたし行きます!」


E子がいの一番に名乗り出た、これはE子と二人っきりになるチャンスか!?


後輩「じゃあ、僕も・・・」


俺「・・・・・・・」


無言の圧力で睨んでやった。


後輩「あ、やっぱいいです・・・」


俺「行きます!」


先輩「そうか、じゃあ二人で頼んだぞ」


俺はほくそ笑んだ


俺「な、何だか暑いね」


E子「そお?涼しいと思うけど」


俺「な、何か雨が降りそうだね」


E子「綺麗に晴れてるじゃん」


いかん、二人で遊んだ時もそうだったが、E子と二人っきりだと上がってしまう。


それにしてもE子はちょっとでも俺に気はあるのだろうか・・・?

本当に掴みどころのない子だ。


俺「なあ、E子、今好きな人居るんだよね?」


これは以前、俺が確認したことのある質問だ


E子「んー?居るよ?」


俺「進展とかしそうなの?」


E子「うーん、難しそうだね」


俺「そうなのか・・・」


俺のことなのか!?という期待もあるが、名前を聞いてみてもし違っていたら目も当てられない。

名前を聞く勇気は俺には無かった。


E子「俺君は居ないの?」


俺「居るよ」


E子「きっと良い子なんだろうね」


俺「E子、君のことだよ」


E子「えっ!」


俺「好きなんだ」


E子「・・・実は私も、俺君のことが・・・」


E子「何ボーッとしてんの?」


俺「あ、ご、ごめん!」


E子「早く薪拾わないと終わらないよー」


俺「う、うん」


俺の甘い妄想は一瞬にして打ち砕かれた。


せっせと薪を拾うE子に続き、俺も薪を拾っていく。


E子「うん、これくらい拾えば良いよね」


黙々と薪を拾い続け、気が付けば俺とE子は大量の薪を確保していた。


俺「うん、じゃあ戻ろうか」


俺達はキャンプ地へと戻った。


夕食はあまり上手く作れたとは言えないが、皆で行う共同作業はとても楽しく

料理の味を倍増させてくれるようだった。


皆で盛り上がるようにして、料理を食べていたが俺は気がかりなことがあった。


E子がいない?


E子を探すように周囲に目を配ると・・・、いたいた、E子だ。

何故か、皆から距離を取るように食事をしている。


俺は立ち上がり、E子の分のビールも片手に近づいていった。


俺「何してんの?」


E子「あ、俺君」


俺「皆と一緒に騒げば良いじゃん、どうしたの?」


E子「あたし、あまり騒がしいの好きじゃないんだよね」


確かに、E子はそんな傾向がある。基本的に明るい子なのだが、サークルで騒いでる時もあまり輪には入りたがらない。


E子にビールを手渡し、自分も蓋のタブを開ける。

二人で乾杯をし、口につける。


何を話したもんか・・・と思案していたが、おもむろにE子が口を開いた。


E子「今まで言ってなかったけど、あたしさ、親が居ないんだ」


俺「えっ、そうなんだ」


E子「唯一肉親だった妹も、半年前に行方不明になってるの」


俺「・・・・・・」


俺は言葉に窮した。


E子「あはっ、ごめんね!急に暗い話なんかしちゃって」


俺「いや、大丈夫だよ」


E子「あたしの家も、あんな風に皆で楽しく食事してたの。だからちょっと胸が苦しいんだよね」


俺「そうなんだ・・・」


E子「暗くしちゃってごめんね!明るい話に切り替えよう!」


俺「うん!」


その後、E子と色々な話をした。楽しかったこと、面白かったこと。そして将来のこと。


俺「俺、教師になりたいんだ、小学校の。E子は何になりたいの?」


E子「・・・・・・」


あれ、E子の様子がおかしい。


俺「ま、まだ決めてないのかな」


E子「・・・・・・」


E子は俯いたまま答えない。


何かまずいこと聞いちゃったかな・・・。


E子「あ、そろそろ戻ろうかな」


E子は俺の質問に答えることなく立ち上がる。

そこには既に、暗い表情をしたE子は居なかった。


俺「あ、うん、そうだね」


E子「二人であまり消えてたら、変に怪しまれちゃうもw」


俺「別に俺は良いけどね」


E子「えっ?」


俺「いや、何でもない、戻ろう」


その後、二人で戻った所を色んな人に冷やかされたりしたが、その日は滞りなく一日が過ぎていった。


それにしても、あのE子の様子は何だったんだろう?


そして合宿の二日目。二泊三日なので今日が最終日だ。

今日は川くだりに、肝試しと、イベントが盛りだくさんの一日だった。


川くだりは、ふざけあってたら川に転落したり、先輩が操作を誤って岸に激突したりなど、散々な内容だったが、肝試しは俺の中で大イベントとなった。


男女が一組となって、山沿いの道を回って帰って来るといった単純な内容だが、非常に薄暗く不気味な道を歩かねばならず、光が懐中電灯だけというのも恐怖の演出に一役かっていた。


組み分けはクジ引きで決定されたが、俺はE子とペアになることが出来た。


後で聞いた話だが、クジは作ったF男が俺とE子がペアになるよう細工をしていたらしい。


F男・・・お前は本当の親友だよ。


俺の心は有頂天だったが、E子は浮かない顔をしていた。


俺「どうしたの?」


E子「あたし、怖いの苦手で・・・」


これは男らしい所を見せるチャンスかもしれない!

俺はwktkしながら開始を待った。


一組、二組と出発して行き、ついに俺とE子の番になった。


俺「行こう」


E子「う、うん」


足場の悪い道を懐中電灯で照らしながら、ゆっくりと進んでいく。


E子「うー、怖いな」


俺「だ、大丈夫だって!」


こういった類のものは割りと平気な俺だったが、想像していた以上の不気味さに、本音を言うと少しビビッていた。


二人でおそるおそる進んでいった先に、土手が見えた。


ここを右折しなければならないのだが、今までの道と違い、完全に見えない方向を右折しなければならないため、先の見えない恐怖があった。


しかし、ここで怖気付いては男ではないだろう。


俺「俺、先見て来るね」


E子「うん」


E子にそう告げて、右折した先を見る


俺「何も・・・ないな」


まあ、何かあったら困るけどなw


安心してE子の所へ戻ろうとした瞬間、何かが俺の前を横切った。


俺「え・・・?」


女の生首だった。


俺「うわあああああああああ!!!!!」


あまりのショックに腰が抜けて動けない俺


生首は徐々に近づいて来る。


俺「く・・・来るな!!」


俺の願いも虚しく、生首は俺と至近距離まで近づいて来て

ついには、俺の顔の数センチまで迫った。


俺「あ・・・あ・・・あ」


???「ぶわっはっはっはっは!!!」


突如、どこからか笑い声が聞こえた。


俺「え?」


笑い声のした方を見ると、先輩が茂みから出てくる所だった。


先輩「いやーすまんすまん、こんなに驚くとは」


俺「・・・・・・」


よく見ると、生首は糸で吊るされただけの簡素なものだった。

恐怖心など一気に吹き飛び、恥ずかしさでいっぱいになった。


先輩「お前のリアクションwww最高だったぞwww」


E子「あははははは!!!」


いつの間にか、E子も一緒になって爆笑している。


もういっそ、誰か俺を消してくれ。


その後は、E子に男らしい所を見せる計画が頓挫した俺はテキトーに行程を終えた。

E子のドンマイ!という言葉を背に。


その夜、どうも寝つけずに、俺はキャンプから離れた川辺でボーッと過ごしていた。


E子は俺が情けない奴に見えたに違いない・・・そうに違いない

あの一件のせいで、俺の株も大暴落だ・・・


ああー、どうしよう・・・


考えれば考えるほど鬱になっていく。


E子「横、いいかな?」


俺「うわっ!!」


E子だった、いつの間に近づいてたんだろう。


E子「ごめんね、驚かせて」


俺「い、いや、いいよ、E子はどうしたの?」


E子「何だか眠れなくってね」


俺「そっか」


E子「・・・・・・」


俺「・・・・・・」


気まずい・・・あんなことあった後だから、余計に気まずい。


E子「クスッ」


俺「!?」


E子「さっきの俺君を思い出しちゃって」


俺「ああ・・・」


追い討ちをかけないでくれよ・・・。


E子「ちょっと可愛かったよ、俺君って本当に面白いよね」


俺「あ、ありがとう」


E子「んーー」


俺「ん?」


E子「もう言っちゃおうかな」


俺「何を?」


E子「あたしの好きな人って、俺君なんだよね」


俺「えっ・・・」


胸がドクンと高鳴る


嘘だろ・・・


E子「あはは!言っちゃった!!」


俺「・・・・・・」


E子「いつ言おうかな、と思ってたけど・・・良いタイミングだったからさ、えへへ」


俺「お・・・俺も」


E子「ん?」


俺「俺も、E子のことが好きだよ」


E子「え!?」


俺「好きなんだ」


E子「俺君・・・」


俺「E子・・・」


俺はそっと、E子の唇に自分の唇を重ねた。


E子「んっ・・・」


どれほどの間、唇を重ねていただろう

どちらともなく、唇を離した。


俺「そろそろ・・・戻ろうか」


E子「うん・・・」


俺はE子と手を繋ぎながら、キャンプ地へと戻った。


俺「じゃあ、また明日ね」


E子「うん、また明日」


E子と別れ、床へと着く。


俺は幸せな気持ちに包まれながら、心地よい眠りへとついていった。


しかし、その晩、俺は夢を見ることになる。


こ・・・ここは?


幼少の頃に見ていた夢。

周囲がどす黒く、空気が重い空間。


そう、C菜の夢と同じ空間。


また、C菜に出会ってしまうのか・・・?


いやだ・・・!何で今になって・・・!


幼少の頃から見ていない悪夢を見てしまい、俺はパニックになっていた。


そして、気が付くと、俺の後ろで何かの気配がした。


俺「・・・・・・」


振り返りたくない。でも・・・、見ないと。


俺はゆっくりと振り返った。


俺「・・・え?」


振り返ると、そこに居たのは青年の姿だった。


俺「C菜じゃ・・・ない?」


青年は虚ろな目をしていたが、しっかりと俺を見据えている。


青年「・・・・・・」


青年が何かを言っている。


何を言っているんだろう、全く分からない。


しかし、青年は俺に何かを訴えるようにまくしたてている。


聞き取りたくても、聞き取れない・・・。


次第に、青年の顔がぼやけていく・・・。


そうして俺は目が覚めた。


俺「・・・・・・」


C菜の夢じゃ・・・ない?何だろう・・・?

俺は何だか、妙な胸騒ぎがした。


あの青年・・・。


先輩「おーーーい!朝メシの準備するぞーーー!」


俺「あ!!はーい!!!」


一気に現実世界へと戻された俺は、朝食の準備に駆り出されることになった。


しかし、あまりにも不思議な夢。


合宿が終わるまで、そのことが常に頭の片隅にあった。


合宿が終わり、大学の日常が戻って来た。


サークルのメンバーに俺とE子が付き合い始めたことを告げると、F男を除いて皆驚いていたが、祝福してくれた。


E子とは毎日会って色んな話をした。バカみたいな話をして笑い転げたり

色んな場所にも行った。本当に幸せだった。


愛する人が居ると、生活に潤いが出てくるというもの。


勉学にも精が出て、成績は大きく上昇。全てが順調だった。

そんな順風満帆な中、俺はゼミへと入り、本格的に卒業へ向けて準備をすることになった。


そんな中ゼミの最初の授業で、とある人に出会うことになる。


俺「ん・・・?」


ゼミのメンバーが一人一人自己紹介をしていく。


俺は、ある女子に注目した。


俺「あれ・・・どっかで見たことがあるような・・・?」


長いサラッとした黒髪に、清楚そうな容姿と大人しそうな雰囲気。

美人と言っても良いだろう。


どこかで出会った気がするのだが・・・思い出せない。

んー、誰だっけか。


謎が解けないまま、3人組となり、課題を遂行していく時間になった。

奇しくも、先ほどの女子と一緒の組だ。


3人でぎこちなく自己紹介を行い、課題を進めていったが、一人がトイレに行くために離席した。


残されたのは、あの女子と俺。


俺「あ、初めまして、俺、○○と言います、よろしくお願いします」


???「さっきも聞いたわよ」


俺「・・・・・・」


なんという、とっつきにくい奴だ

それにしても、間近で見ると・・・


やはりどこかで会ったことがある。


???「それに初めましてじゃないでしょ」


俺「え?」


???「忘れたの?同じ小学校だったD子よ」


俺の記憶の片隅に居たD子が、像を結び始める。


俺「あっ・・・!」


D子「久しぶりね」


こんな所でD子と再開するとは・・・。


嫌でもC奈の夢のことが思い出される、D子は俺を助けてくれた存在なのだ。


俺「あの時は、ありがとう」


D子「何が?」


俺「お守り、助かったよ」


D子「いえ、でも」


俺「え?」


D子「やっぱり終わってないみたいね」


俺「は?」


終わってない・・・どういう意味だ?


色々と聞きたいことはあったが、離籍していたメンバーが戻って来たので

話は中断された。


その後も順調に大学生活を続けていった俺、しかし気がかりなことが出来た。


E子「・・・・・・」


俺「どうしたの?」


E子「んーん!なんでもない!」


俺「そうか?」


E子が時折、暗い表情を見せるようになったのだ、今まではそんなこと無かったのに。


それは日が経つにつれ顕著になっていき、周囲の人も気付いているようだった。


F男は、「何か悲しませたんじゃねーの!」と言っていたが、俺はまるで心当たりが無い。


そんな中、E子の家へ行くことになったある日。


E子はアパートの3階に住んでいる。どこにでもありそうな安い感じのアパートだ。


俺がアパートの中へ入っていくと、3階から声が聞こえてきた。


???「  して    の」


ん?


よく耳を澄ましてみたが、どうやらE子の声のようだ。


E子「  れ  じょ う  き  と   な  で 」


俺「???」


E子「 な  の と  は  すき  も」


距離が離れているから、断片的にしか聞こえない。


E子「そ ち  く  と  きな い」


何を言ってるんだ・・・?


俺は3階のE子の部屋へと急いだ。


部屋をノックし、E子を呼び出す。


しかし、返事がない。


俺「???」


再度ノックをするが反応がない。


俺「開けるぞ?」


俺は痺れを切らし、ドアを開けた、鍵は掛かってなかった。


しかし、中へと入った瞬間、俺は異変に気付いた。


俺「うっ・・・」


何だ・・・?部屋が異常なくらいに寒い


俺「おい!E子!?」


俺は必死にE子を探した。 


リリビングには居ない・・・?どこだ?


トイレ


浴室


・・・・!!


いた、E子だ。


洗面台のシンクに突っ伏すように倒れこんでいる


俺「E子!俺だよ!大丈夫か!!」


必死にE子をさすり、気付けを行う


E子「・・・ん」


俺「あ・・・」


どうやら気付いたようだ


E子「俺君・・・」


俺「大丈夫か?何があったんだ!?」


E子「ちょっと・・・貧血起こしちゃったみたい・・・えへへ」


俺「とりあえず、場所を移して休もう」


E子「うん、ありがとう・・・」


それにしてもこの部屋全体が異常なまでに寒い

本当に寒すぎる


ただ室温が低いだけでなく、・・・なんというか心に重く圧し掛かるような寒さというか


・・・


・・・


・・・?


以前、これと同じような感覚を体験した気が・・・?


俺「一旦、外に出よう」


本来ならベッドに寝かせるべきなのだが、俺は何かの危険を感じ

E子を抱えて公園のベンチまで連れて行った。


E子をベンチへと座らせ、俺は横へ座る。


温かい飲み物を購入し、E子へと手渡す。


最初は顔が真っ青だったE子だが、徐々に落ち着きを取り戻したようだ。


俺「E子?大丈夫か?」


E子「・・・うん、大丈夫だよ」


しかし、E子が貧血持ちだったなんて、初耳だ。


俺「貧血・・・今まで無かったけど急に?」


E子「うん、ちょっと・・・ふらふらっときちゃって、でも大丈夫だよ」


俺「そうか・・・」


俺「E子、誰かと話してなかった?」


E子「え?」


俺「誰かと話してた声が聞こえたんだけど」


E子「あ、うん、ちょっと来客中でね、俺君来る時間だから急いで帰って貰ったよ」


俺「そうか・・・」


E子「・・・・・・」


何だろう?何か違和感を感じる。


E子「ごめんね・・・今日はもう、休ませて貰っていいかな?」


俺「あ、うん、そうだよね」


E子「せっかく来てくれたのに、ごめんね」


俺「部屋まで送ろうか?」


E子「ううん、ここで大丈夫」


俺「そうか、じゃあまた、元気になったらね」


E子「うん」


俺は帰る際、違和感の正体について考えた。


あの寒さ・・・エアコンを付けているわけではないのに、あの寒さ・・・?


E子は来客中と言っていたが、俺がアパートに足を運んだ瞬間、声が聞こえた

E子の部屋に行くまで、あの会話を聞いてから、ものの数分だ。


そんな早さでアパートの外に出ることが出来るか・・・?


まあ、階段は二つあるから、俺が片側を上っている間に逆から急いで降りた可能性もあるが。


・・・


俺は妙な違和感を抱えながら、家へと帰った。


そしてその夜、俺は再び、あの夢を見ることになる。


空気が重く、どす黒い空間。


あの夢だ。


後ろに気配を感じ、振り返る。


俺「!!!!!!!!」


俺は一瞬にして総毛立った。


そこには、前の夢で見た青年が居た。


しかし青年の目がおかしかったのだ。


片目がない・・・。


俺「・・・・・・」


俺は青年の異様な風貌に、固まってしまう。


青年は必死に、また何かを訴えている。


だが・・・相変わらず聞き取る事が出来ない。


次第に青年の顔がぼやけていく・・・。


そして、俺は目が覚めた。


・・・・・・


俺はさっきの夢について考えた。


同じ夢を何回も見る、これはC菜の夢と同じ。


そして、あの青年、どこかで会ったことがある気がする。


俺は必死に、昔の記憶を頼りに、一致する人が居ないかを考えた。


・・・


・・・


・・・


・・・!


あっ!


俺は思わず声に出していた。


あの青年・・・。



あれは・・・・・・A男だ。


まさか、A男に何かが?


胸騒ぎの消えない俺は、A男に電話をしてみることにした。


そういえば、A男と電話するのなんて何年振りだろうか


A男から一回、電話が掛かって来たことはあった。


そう、俺が加奈子さんの噂に巻き込まれた時だ。


あの時、A男は何の用事だったんだろうか。


そんなことを考えながら、ダイヤルを回す。


・・・


・・・


「お掛けになられた番号は、現在、使われておりません」


ダメか・・・。


これはもう、直接、A男の家へ行ってみるべきだろう。


俺は授業が終わった後に、A男の家へ行ってみることにした。


A男の家は、住宅街のかなり奥まった所にある。


家は一軒家だが、かなり古びた造りで、平屋だった記憶がある。


小学校時代に、何度も訪れていたため、難なく訪れることが出来た。


しかし、俺はA男の家の前で全く身動きが取れなくなっていた。


俺「・・・・・・」


元から古びた造りだったが、これ以上ないくらい朽ちていた。


どう考えても、人が住んでいるとは思えない。


予想通り、インターフォンは押しても鳴らなかった。

仕方なく、かなり強めにノックをする。


ドンッ!ドンッ!ドンッ!


・・・


・・・


反応が無い。


引き戸のノブに手を伸ばし、回してみたが、やはり鍵は掛かっていた。


どうしようか・・・とりあえず裏口に回ってみよう。


A男の家は正反対の箇所に裏口があった。

そこから入ればA男の部屋が近いから、昔はよくそこからお邪魔したっけ。


雑草がぼうぼうに生えている庭をかきわけ、俺は裏口へと向かった。


俺「え?」


俺は裏側の壁を見て固まってしまった。


口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄

口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄

口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄

口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄

口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄

口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄口兄


何だ・・・これ?


裏側の壁いっぱいにペンキのようなもので文字が書かれている。


ふ、と裏口に目を移すと、そこには大きく赤い色で一文字が書かれていた。



・・・あまりの異様さに声が出ない。


俺は必死になってその場から逃げた。怖かったのだ。


何だよあれ・・・。意味分かんないよ


俺は先ほど見たものを必死に見なかったことにしようとした。

実際、見てしまったことには変わり無いのに


そんな中、E子と水族館へ行ったデートの帰り。


俺「今日、楽しかったね」


E子「うん」


俺「E子さ・・・最近元気がない時が多いけどどうしたの?」


E子「・・・・・・」


俺「何か悩みがあるなら言って欲しいんだ、もしかして何か俺に不満がある?」


E子「ううん、俺君のことは大好きだよ」


俺「そっか、何かあったらすぐ言ってね」


E子「俺君・・・」


俺「ん?」


E子「ずっと一緒に居たいよ・・・」


俺「勿論、俺だってそうだよ」


何故か、E子は少し涙ぐんでいる。


E子「一緒に居たいよ!居たいよ!」


そう告げると、E子は堰が切れたかのように泣き始めた。

突然のことに、驚きを隠せない俺。


俺「も、勿論だよ!」


E子「うう・・・うわーん!」


何か不安なことがあったのだろうか、俺はE子を優しく抱き締めた。


俺「大丈夫・・・大丈夫だから」


E子「・・・・・・・」


ひとしきり泣いた後、E子はそっと俺から離れていった。


E子「ありがとう」


俺「ううん、大丈夫?」


E子「もう・・・・・・」


俺「え?」


E子「ううん、今日はありがとう!!またね!!」


E子は俯きながら去って行った。


な、何だったんだ・・・。


何か不安に思っていることがあれば、俺に話してくれれば良いのに・・・。


心のモヤモヤはあるけど、俺は何も出来ず仕舞いだった。


そして、E子との付き合いが半年になったある日。

俺は、E子からプレゼントを貰った。


俺「これ・・・何?」


E子「亡くなった母の懐中時計だよ!」


俺「え!い、いいよ!こんな大事なもの!」


E子「いいの・・・、貰っておいて」


俺「う、うん、分かった」


E子「俺君」


俺「何?」


E子「今までありがとう、楽しかったよ」


俺「え!?」


突然のことに、頭が動転する。

これは・・・別れを告げられているのか。


俺「それって・・・別れたいってこと?」


動揺しながらE子に尋ねる


E子「・・・・・・」


俺「一体なんで!?ずっと一緒に居ようって二人で言ったじゃないか!」


E子「ごめんね・・・」


俺「なんで・・・」


E子「どうか理由は聞かないで、お願い」


俺「・・・・・・」


E子「本当に本当に楽しかった!さようなら・・・!」


E子は走り去るように去って行った。一度も振り返ることなく。


残された俺は呆然としていた。あまりの展開に頭が付いていかない。


別れる理由が全く思いつかない・・・何でだよ。


翌日から俺は抜け殻のように毎日を過ごした。授業はかろうじて出席しているが、サークルに行く気にはならない。


食事もあまり取らなくなり、目に見えてやつれていった。


F男やサークルのメンバーから電話やメールが何度も届いたが、しばらく行かないとだけ返事をして切っていた。


そして、授業と授業の合間の休み時間。


俺「・・・・・・」


F男「おい」


俺「・・・・・・」


F男「おいってば!」


俺「ん?何だF男か・・・」


F男「何だじゃないだろ!!皆心配してるぞ!」


俺「・・・・・・」


答える気にならなかった。


F男「E子ちゃんも音信不通だし、どうなってんだよ!」


俺「え?E子が?」


F男「そうだよ、お前がサークル来なくなった一緒のタイミングで連絡取れなくなったんだよ」


これは、どういうことだろう。


F男「何かあったのか?」


俺「・・・・・・別れたんだ」


F男「え?」


俺「E子と別れたんだよ」


F男「そ・・・そうだったのか」


俺「・・・・・・」


F男「でも、音信不通ってのはおかしいんじゃないか?」


それは俺も思うところだ。気まずくてサークルに来れないのはまだ分かる。

しかし、全く電話にもメールにも返事をしないというのは異常だ。


F男「とりあえず、・・・まあ元気になったら顔を出してくれ」


そう告げてF男は去って行った。


E子・・・どうしたんだろう。未練が無いと言ったら嘘になる。

なにせ、あまりにも納得がいかない別れ方だ。


E子は俺に不満は無いと言っていたし、それに別れる人に対して大事な形見など渡すだろうか。


・・・あまりにも不可解。


ちょっと、E子を探してみよう。俺は行動を移すことにした。


当然のことながら、携帯は繋がらないので、俺はE子のゼミに行ってみることにした。

適当な人を捕まえ、E子について聞いてみる。


俺「あの、E子さん居ますか?」


ゼミ生「いやー、最近見かけないね」


俺「そうですか」


他にも色んな人にE子のことを聞いて回ったが、E子の近況を知っている人は皆無だった。


放課後に、直接独り暮らしのE子の自宅を訪ねてみたが、不在だったので管理人さんに聞いてみることにした。


管理人「○○さんねぇ、しばらく帰って来てないのよ」


俺「え、帰ってもいないんですか?」


管理人「そうよ、そろそろご実家に連絡しようかと思ってるの」


俺「そうですか・・・」


俺は頭を抱えた。別れた相手にここまでやるのは下手したらストーカーかもしれない。


しかし、やっぱりあれだけ好きだったのだ、悩んでしまう。


しかし、どうすることも出来ず、いたずらに日数だけが過ぎていった。


そして、ゼミの授業が終わった時間


D子「俺君」


俺「ん?何?」


D子「貴方がお付き合いしていた子について少し話があるんだけど」


俺「え?E子?何か知ってるのか?」


D子「何も聞かなかったの?」


俺「何もって・・・、何があったかすら分からないし、何も言ってくれなかったんだ」


D子「・・・成程、そういうことね」


俺「何なんだよ、どういう意味だよ」


D子「どの道、抗えるとは思えないけど」


俺「は?」


意味が分からない。


D子「貴方達が昔に、あの子にした約束、覚えてないの?」


俺「あの子?約束・・・?」


D子「・・・知らない方が幸せなこともあるのよ」


そう言って、席を立とうとするD子。


俺「ま、待てって!!」


D子「A男君も・・・」


俺「A男・・・?」


予想外の名前に俺は驚いた。


D子「もう遅いの」


そう言ってD子は去って行った。


残された俺は、何もかもが分からず呆然としていた。


分からない・・・分からない。


それ以来、結局E子は見つからなかった。


そして何故か、C菜の夢を見るようになった。


だが、幼少の頃に見ていた夢とは違い、C菜がただ俺をじっと見るだけ。何も発さない。


一週間に数回、C菜の夢を見る。


今日もC菜が俺を見てくるかもしれない。明日かもしれない。明後日かもしれない。


何も言わずに、じっと見てくる。


真っ直ぐ俺を見据えて。


長々となってしまったが、読んでくれた人ありがとう。


謎ばかりが残ってしまったが・・・俺も未だに分からないんだ。

出典:幼少から続いてる恐ろしい体験を話す

	









著者プロフィール
Sharetube