「Get Out」、日本未公開、アフリカ系アメリカ人差別(黒人人種差別)を内包した、おぞましくも良質なホラー映画

著者:
投稿日:
更新日:
 本年2月アメリカ公開の非常に話題となったホラー系映画。このところ、アメリカ公開のハリウッド系大作ではない近未来SFホラーが面白いのだけど(以前からアメリカのこの手のA級に届く内容のものは面白い)、この前の「ディストピア・パンドラの少女」もゾンビ・共生・という設定が面白かった。で、この「ゲット・アウト」はまさしく現在のアメリカ社会を震かんしている、アフリカ系アメリカ人・黒人・人種差別を内包したホラーとなっている(後は・黒人・文言を使用します)。本年度のアカデミー賞「ムーンライト」(未見)「ドリーム」・Hidden Figuresも黒人のアイデンティティと社会・差別が関連、以前の「それでも世が明ける」は黒人奴隷制差別・歴史だった。

 

 アフリカ系アメリカ人で人気コメディアンでもあるジョーダン・ピールによる監督作品。「ゲッド・アウト」(内容はネタばれしません)は、アフリカ系アメリカ人(以下黒人と記します)男性、白人女性の人種差別を超えた・愛・から始まるのだけど、彼は、写真家でもある。その彼、黒人のボーイフレンドを彼女の実家・田舎に連れて行き、両親ら家族に紹介するため招待することから始まる(当初、車での移動中、黒人ボーイフレンドは路上で警官からあからさまな差別対応を受けるが、彼女は体を張って、彼を助ける)。彼女の実家の家族等は、精神科医・心理療法士等知的な職に就く、オバマ大統領支持者で、レイシストではない。自ら寛容主義で差別の撤廃を説く、いわゆる・リベラル・な家族構成だ。ところが、黒人のボーイフレンドは、時間が経つに連れ、そこに住み込みをしている黒人の庭師、メイドの様子がおかしいことに気付く。また、パーティを彼女の両親家族主催で開き、招待される・白人・の人々が、黒人に対し皆気さくで、それぞれの人種を重んじる・リベラリスト・なのだが、少し様子がおかしい。たとえば白人年輩の女性が一人だけ黒人の青年を連れていた。この黒人青年の様子もおかしい(彼は写真に撮られて奇妙な反応をする)。そこで、黒人ボーイフレンドは段々に分かっていくことがあり、少しずつだが、自分の置かれている状況を把握する。たとえば、彼は、スモーカーなのだが、彼女の両親等家族がすべて非喫煙者なので、喫煙をさけていたが、彼女の母親が、心理催眠療法で禁煙にしてあげる、という。ここら辺りから、どんどん展開が早くなります。つまり、一見、彼女の家族・友人等は反差別主義主の知的水準の高い寛容なリベラリストとしての顔と、リベラリストの背後に潜むもう一つの残酷な狂気・顔を出してくるという、ホラーの展開となり、おぞましいリベラル家族の状況、正体があからさまになるのです。方や、写真家である黒人青年は、友人であり同じく黒人警備員に不穏な現状況を連絡。警備員の彼は、言葉は悪いし、ワイセツな言葉も連発する、いかれたような悪ノリの人物なのだが、友人を助けようと警察等に連絡するが、中々受け入れられない。しかし、段々こちらの方が、まともで冷静な判断をするように見えてくる。結末は映画で・・・。

 

 Wikiによれば、非常に評価が高いようだ。それもそのはずで、アメリカの各地域で留まらない警官等のよるあからさまな非有色系警官による黒人差別・殺人が多発、現実の背景にあり、事実、映画を完成させるためのラストを、警官による黒人殺害、暴動事件が起きたため、2通り用意し、一つは劇場用、一つはDVD等用に明確に変えたようだ。これもネタばれになるから書かないけれど、現実の問題提起が含まれるラストといえる。評価の一つのこのような意見が・・・あからさま差別主義者は分かりやすい(もちろん良くないけれど)、もっと問題なのは、リベラリストと証するものが、実は差別を助長していることに無自覚で差別行為を行い、そのことに気付かないで、より深刻な問題になる、そんなことを考えさせられる、と述べている。「ゲット・アウト」は、レイシズムに対し、そんな含みを持った2種類のラストがあるのだろう。もちろん、僕は劇場用ラストしか観ていませんが、アメリカ現代社会の切実な問題をリフレクトし、考えさせられる良質なホラー映画となっている。ご興味の方は是非。

監督ジョーダン・ピール