ドリーム・hidden figures(マーキュリー計画、アポロ計画じゃありません)

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ドリーム・hidden figures(マーキュリー計画、アポロ計画じゃありません)  

 

 2016年アメリカ公開の非常に素晴らしい映画(9月日本公開)。原題・hidden figures 直訳「隠された人々」(あるいは、知られざる人達か)。1961年、東西冷戦構造の最中、有人宇宙進出を計るアメリカは、ソビエトのソユーズ計画に遅れを取り、追いつけ・追い越せの競争(戦争)状態にあった。そこで、アメリカのNASA(アメリカ航空諮問委員会)は、必死で宇宙起動等の計算をコンピューターがないので、全て人力で取り組んでいた。また、宇宙技術ロケットの技術も未熟で新たな試みを必要とする。またこの計画中にIBMが初めて大型コンピューターをNASAに導入する。これ等の、成功しなければならない有人宇宙計画の下支えをした「知られざる人々」、それがこの映画の主人公である3人のアフリカ系アメリカ人(黒人・以下黒人という言葉を使用します)の女性だった。マーゴット・リー・シェタリーのノンフィクション原作からの史実に基づいた映画だ。3人がNASAへ同乗する車で向かうところから始まるが、車の故障を警官が見つけ、黒人であるから身分証明書を提示させる。しかしNASAの職員と分かるとコロッと態度変え、彼女たちを先導する。60年初頭は、M・R・キング牧師(デュボスやマルコムX、ローザ・パークス等)が白人からの黒人差別を訴え闘う公民権運動の真っ只中で、当時のケネディ大統領も黒人差別の問題に理解を示しながらも1963年には凶弾に倒れ、いわゆる差別撤廃の公民権法制定は1964年である。この映画は、黒人への差別が歴然と行われた中で、彼女達3人は、白人優位のNASAで信頼を獲得するまでを描いている。3人それぞれの名は、飛びっきり難解な計算が出来る最有能で、NASAのスペース・タスク・グループに黒人女性で初めてスタッフに抜擢された(他は白人男性)、キャサリン・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)。黒人女性のみの計算部でのチーフであるドロシー・スヴォーン(オクタヴィア・スペンサー)は、IBMが初めてのNASA導入となるコンピューター作動の難解な状況を、経験から始動させてしまう。メアリー・ジョンソン(ジャネール・モネイ)は、実験用の大気圏突入に耐えうる宇宙カプセルの耐熱壁の一部に欠陥があることに気付き、上司に訴えるが、「女性であり黒人であるためエンジニアにはできない」とされてしまう。しかしエンジニアの中にナチスのホロ・コーストを逃れたユダヤ人のエンジニアが「あなたなら出来る」と助言する。映画では、トイレは、男性・女性ではなく、黒人女性用、さらに食堂も黒人用に分けられている。たとえば、ケビン・コスナー扮するチーフ(アル・ハリソン、STGの責任者)のタスクグループでの仕事の中で、キャサリンが白人よりも計算が出来ることを確信する(つまり全てのミスをチェックする)。けれど、ここで、スタッフの飲むコーヒーに黒人・白人用に分けられ、黒人用女性トイレが、この場から遠いことなどユーモアに描かれるが、キャサリンが仕事をしながら、黒人として差別されたこの姿を段々理解し、激怒。仕組みを正す(キャサリンが、ケビン扮するチーフに自分に実情を訴える姿も見事)。ドロシーは、黒人計算部のチーフだが、コンピューター導入での理解が白人技術者より優れていた。メアリーは、アメリカ初の黒人女性エンジニアになるため、黒人差別のあからさまな保守的地域・南部の夜学高専に行き、卒業資格を得なければならない。そのために裁判所からの手続きも必要である(この白人裁判官とメアリーのやり取りが見事で名演説をする)。                 


 しかし、このような劣悪な黒人差別の中、彼女たちの助言や行為が、マーキュリー計画の実現に導くことになり、差別を乗り越え、信用・信頼・リスペクトを獲得するのだが、非常にユーモアがあり、コミカルに、そして涙腺を緩ませ、温かみのある3人3様それぞれの名セリフと名演技が感動を呼ぶ素晴らしい内容になっている(なお、キャサリン・ジョンソンはご存命)。

史実と異なり、映画として脚色された点は、NASAには黒人と分別したトイレ等は存在せず、それは1950年代からだそうです。つまり、宇宙計画には黒人・白人関係なく、優秀な人材が必要だったということか・・・NASAのサイトにいくとキャサリン、メアリー、ドロシーの功績がリスペクトされ、それぞれのページに出ています。


 もう一つは日本・邦題が酷過ぎる。既報通りだが、日本の配給20世紀フォックスは原題「hidden figures」を当初、「ドリーム、アポロ計画」とした。これがネット上等で批判を買う。なぜなら、この映画の内容は「アポロ計画」ではなく「マーキュリー計画」であること、しかも原題とかけ離れた邦題つけた配給会社が「日本人に分かりやすくアポロ計画とした」ととんでもない弁明をした。日本側配給会社広報含めた日本側の超レベルの低さと認識不足と、この開き直りに猛省を促したい。監督セオドア・メルフィは「なんでこうなったか分からない、問い合わせます]と述べ、その後、6月9日、これら批判から日本側20世紀フォックスは、「ドリーム」のみに変更した(WIKIより)。