【閲覧注意】取り返しのつかない罪・母の愛情・山道の恐怖【怖い話】
山道の恐怖
「ここから先、絶対に車の窓側を見てはいけませんよ。絶対に」真っ暗の山道にさしかかると、さっきまで笑いながら話していたタクシーの運転手が、人が変わったように厳しい顔をして言った。
会社員の小池は運転手の豹変に驚き、ただ「はい」と言うしかできなかった。
山中を走るタクシーの中で、小池は恐る恐る聞いてみた。
「なぜ見てはいけないのですか?」
しかし、運転手は何も答えない。
その時、見るなといわれていた窓側から「う~う~」という声が聞こえた。
小池は反射的に窓側を見てしまった。
すると、怒りを浮かべた男の形相が窓にぬーっと現われて小池の顔を見てこう言った。
「てめぇじゃねぇ!」
そこで小池の記憶は切れてしまった。
数年前にこの山道でひき逃げ事故があり男が死亡、犯人はまだ逮捕されていなかった。
死んだ男は毎晩この道を通る車を調べ、自分をひいた犯人を探しているのだ。
母の愛情
当時父親はタクシーの運転手で仕事柄勤務時間が長く、その間は親切な隣の家に子どもを預かってもらっていた。深夜になっても仕事が終わらない日が続くと、親切な隣人もさすがにしびれを切らして、子どもを誰もいない家に帰してしまうこともあった。
母親は、まだ4才になったばかりの子を残してすでに亡くなっていた。
子どもは寂しくて、父親が帰ってくるまで親の名を呼んで泣いていた。
ある晩、子どもの泣き声がぴたっと止まり、笑い声が聞こえてきた。
隣人は「父親が帰ってきたのだな」と安心した。
しかし、そのしばらくあとに父親の帰宅する音が聞こえてきて、
「父ちゃんおかえり」と子どもが出迎えている。
そうした夜が続き、不思議に思った隣人は、ある晩子どもの様子を見にいった。
暗い部屋で、子どもがひとりでしゃべりながら笑っている。
まるでだれかと話しているようなので、翌日父親にそのことを話した。
父親は子どもに、毎晩だれと話しているのかと聞いてみた。
「母ちゃんだよ。ボクが寂しくて泣いてると、母ちゃんがきて、だっこしたり頬ずりしたりしてくれるの」
「母ちゃんはどこからくるんだ?」
子どもは、土間の縁側を指さした。
「あの下から、ニコニコしながら這ってでてくるよ」
父親は息子をぎゅっと抱きしめ、生活を変えようと心から思った。
それ以来、父親は仕事を変えて早く帰宅するようになった。
取り返しのつかない罪
スミス医師は車に乗って雪道を急いでいた。急病人なのだ。
雪の降りしきる中、赤信号で止まっていると、古い黒のコートを着たヒゲの男が近づいてきた。
男は「騒ぐな、今すぐ出ろ!」と鋭く言い放った。
スミス医師は何もできないまま車を奪われてしまった。
「こちらはグリーンヒル病院のジャクソンです。今この病院に重い病気の子供がいて、早急に手術をする必要があります。しかしこちらには今外科医がいません。こちらに来てください。お願いです!」
電話を受けたスミス医師は、
「私はグリーンヒルから60マイル離れた場所にいて、そのうえ雪まで降っている。午前0時頃の到着になるが、間に合うだろうか?」と言った。
相手は了解し、スミス医師は車のエンジンをかけた。
車を奪われたスミス医師が、なんとかタクシーを拾ってグリーンヒル病院に着いたのは午前1時だった。
ジャクソン医師は彼をずっと待っていた。
スミス医師は遅れた理由を話そうとしたが、それをさえぎってジャクソン医師は言った。
「あの少年は1時間前に亡くなったよ」
スミス医師は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
遺族に向かって、何を言えばいいのだろうか。
ジャクソン医師と共に遺族の待つ待合室に行った。
「ブラウンさん、こちらはスミス医師です。彼は遠いオールバニーから、お子さんを助けようとしてやってきた医師です」
そこには悲しみに暮れる黒のコートを着たヒゲの男性がいた。
息子を愛するあまり、自分の手で息子の死を早めてしまったのだった。