【閲覧注意】樹海の死霊・かごめかごめ・セーラー服の女の子【怖い話】
セーラー服の女の子
8歳の娘の「ただいま」という声が玄関から聞こえてきて、景子さんはキッチンから声をかけた。しかし、なんの返事もない。
キッチンを出ると、自分の部屋に入っていく娘の姿があった。おかしいな…。
娘は公立の小学校に通っていて私服のはずなのに、そのとき見た後姿はどこかの中学か高校のセーラー服に見えた。
誰か別の子が家に入ったのかもと不安に思った景子さんは、娘の部屋のドアを開けた。
しかし、部屋のなかには誰もいなかった。
その夜、景子さんが眠っていると、8歳の娘の声が聞こえ、廊下のあたりで、ドンッ!という大きな音がした。
驚いて廊下へ行くと、上の娘が廊下にうずくまっている。
「首が苦しい」
娘の首を見ると、誰かに絞められたようなあとがあった。
怖くなった景子さんは、それ以来ふたりの娘と一緒に和室で眠ることにした。
しばらくたったある日、恵子さんは8歳の娘のうなり声で目を覚ました。
隣に寝ている娘を見ると、セーラー服の女の子が娘の上に馬乗りになって首を絞めている!
「あんた、なにしてんの!」
景子さんは大声で怒鳴りつけたが、女の子はやめようとせず、娘の首をさらにきつく絞めた。
景子さんは布団をはねとばして起き上がり、女の子をつかんで離そうとしたが、女の子の身体はまるで立体画像のようで指は空を切るばかりだった。
娘は目をつむったまま苦しがっている。
景子さんは声をはりあげて寝室にいる夫に助けを求めたが、夫は起きてこない。
近所に聞こえるほどの大きな叫び声を上げているのに、夫もふたりの娘も目を覚まさない。
景子さんは恐ろしくなったが、娘を助けたい一心で「やめて!」と叫びつづけた。
「どうしてこんなことするのよ!」
すると、セーラー服の女の子は手を止めて娘の上に馬乗りになったまま、景子さんのほうに顔を向けた。
女の子は泣いていた。よく見ると、とてもきれいで優しそうな顔をしている。
「なんで、泣いてるの?」女の子は何も応えない。
そして静かに立ち上がり、夫が寝ているはずの寝室に向かい、夫の顔を覗きこんだあと煙のように消えてしまった。
それ以降、景子さんの家にセーラー服の女の子は現れなくなった。
景子さんはあれこれ推測してみた。
夫の過去に何かあったのではないか。恋人がいて、その相手の女性が妊娠していたのではないか。
それともどこかで浮気をして、子どもができてしまって…。
しかし、考えても解決しないので、余計な想像はやめることにした。
そのかわり、たとえば買い物に行ったとき、あの子に似合う服を見つけたときは
「あなたに買ってあげるわね」と胸の中で囁き、買ってあげる光景を想像した。
それは、なんとなく楽しい時間だった。
かごめかごめ
小児病棟に必ずある『ベビールーム』は、長期入院の子ども達のための遊戯室。床はジュウタン張りで子ども用のオモチャなどが置いてあり、子どものお昼寝用の毛布や布団もあるので、仮眠をとるにはちょうどよい場所だった。
それなのに、この部屋で寝ることを医師の皆が避けている。
「とにかく、あの部屋には泊まるな」と、僕も先輩医師たちに聞かされていた。
けれども、その日は当直室のベッドも予備の入院患者用のベッドもいっぱい。
僕は症例報告の準備などでほとほと疲れ切っていた。何が起こったとしても堅い冷たい床に寝るよりはマシだ。
結局、僕は気が進まないながらもベビールームのジュウタンの上に毛布をかぶり、すぐに眠りに落ちた。
どれくらいの時間が過ぎただろうか、微かな物音に気づいて眠りが破られた。
まだ半分夢の中のような感覚で目を閉じたまま聞いていると、その物音は何かのメロディで、誰かが細い声で歌っている。
目を開けると、子どもたちが歌いながら手をつないで輪を作り、僕の周りをまわっていた。
まだ半分寝ぼけていた僕は、事態を把握できずぼんやりと子供たちを見ていた。
3歳から10歳くらいまでの子どもたちが、僕のほうを見ながら楽しそうに歌っている。
「一緒に遊ぼうよ。お兄ちゃんが鬼だよ」ひとりの子どもが僕に声をかけてきた。
もともと子どもが好きな僕は、言われるままに輪の真ん中にしゃがんで、両手で目をふさいだ。
♪かーごめかごめ、かーごのなーかのとりは、いついつでやる…
眠気が覚めてだいぶ意識がはっきりしてきた僕は、今まで味わったことのない恐怖を感じはじめた。
♪夜明けの晩に、鶴と亀が滑った、後ろの正面だーあれ…
子どもたちの動く気配が止まる。
「当ててよ、お兄ちゃん。後ろの正面だーあれ」
背後からささやくような声が聞こえて、小さな手が首筋に触れ、何か小さなものが背中に寄りかかってきた。
その感触は嫌に冷たく、湿っていた。
「お兄ちゃん、当ててよぉ」僕は全身に冷や汗をかき、声も出せずにしゃがみこんでいた。
「誰かいるんですか?」
パッとあたりが明るくなったのがまぶたを閉じていてもわかった。
その瞬間、金縛りが解けたように身体が動いて、僕は大きな悲鳴をあげた。
「先生、ここで寝ていたんですか、怖いもの知らずですね。」顔見知りの看護師が気の毒そうに僕に言った。
あとで聞いた話によると、その部屋で仮眠をとった医師は必ず、子供たちの歌声を聞いているそうだ。
あのとき後ろにいた子どもを当てていたら、僕はどうなっていただろう。
それを思うと、いまだに背筋に寒気が走る。
樹海の死霊
その日は5グループに分かれた捜索隊が、合わせて12人の遺体を発見した。そろそろ日も暮れるので、捜索を切り上げようとした時だ。
帰りの道しるべとなるロープをたどっていたとき、数メートル先の木立に人影が見えた。
その人影はロープを触っているように見えた。
「おい、誰だ!!」私はその人影に大声で呼びかけた。
ある知り合いに誘われて、青木ヶ原樹海へ自殺者の捜索にでかけたことがある。
捜索とは名ばかりで、実は自殺者の遺体を回収するために樹海へ入るのだ。
遊歩道が設けられている樹海は、夏はとても気持ちよいが、一歩遊歩道から外へ出ると危険が待っている。
溶岩台地は穴だらけで、降り積もった落ち葉の下には大きな穴が開いていたりするので、大変危険なのだ。
うっかり踏みそこなうと数メートルもある溶岩洞窟へ真っ逆さまに落ちることもある。
捜索隊のメンバーは、あらかじめ捜索する一角を決めておいてから出発する。
一行は数名のグループに分かれ、遊歩道入り口の木立に命綱となるロープを縛りつける。
その先端を持ちながら樹海の中を歩くのだ。帰りはロープをたどって戻ればいい。
途中、簡素なテントのようなものを発見した。そこには雑誌と男物の財布、食べ散らかしたスナック菓子が散乱していた。かなり時間が経っている様子だ。
そこから数メートル進むと、木立の根っこに腐りかけた遺体があった。あのテントの持ち主だと推測できる。
トランシーバーで状況を報告し、さらに先へ進んだ。
「おい、誰だ!!」
そろそろ捜索を切り上げようとした時、奇妙な人影を発見したのだ。
人影はものすごいスピードで樹海の中を駆け巡り、消えてしまった。
不安な気持ちが残ったが、帰らないと日が暮れてしまうので遊歩道へ戻ることにした。
しかし、怪しい人影が立っていた木立までロープをたどっていくと、その木立の後ろの枝に切れたロープがぶらりとたれさがっている。
「命綱を切られた!」
さらには、遊歩道につながっているはずのロープも見当たらず、完全に帰り道を見失ってしまった。
ロープはナイフなどで切られたのではなく、何か強い力で引きちぎられたようだった。
わたしたちは呆然と顔を見合わせて、さっき発見した腐乱死体を思い出した。自分たちもああなるのか。
どうにかトランシーバーで連絡しあって、わたしたちは他のグループと合流することができた。
樹海で迷子にならないよう、それ以来捜索メンバーは命綱を3本ずつ持つことになった。
古参のメンバーはあの時の不振な人影を「樹海の死霊」だと言った。
「死霊がロープを切ったんだよ。仲間を増やすためにね」