中国人は「~アルヨ」って言わない?歴史に隠された秘密と”役割語”とは
中国人=「~アルヨ」は間違っているらしい
中国人を表現するときには、ほとんどの人が必ずと言っていいほど語尾に「アルヨ」とつけるのではないでしょうか。中国人といえば“アルヨ”、というイメージが強いですが、確かによく考えてみると実際に中国人がそう言っているのを聞いたことはありません。
なぜ「~アルヨ」が定着した?
では、なぜ「ワタシ中国人アルヨ」というフレーズが至極当然のように使われるようになったのでしょうか。どうやらこれは、1858年の幕末にまで遡るようです。
各地に設けられた外国人居留地では、欧米人や中国人によって生み出された独特な日本語が話されていました。
難しい日本語は、外国人の間では助詞(~を、~が、等)が省略されていたりしたのだそう。単語の順番もバラバラになってしまうようで、このあたりで「アルヨ」の表現も生まれたと言われています。
その後、大正から昭和初期にかけて、日本人は台湾や満州に入植。中国人と日本人の接触が増え、このときもやはり上記のようないびつな日本語が使われました。特に満州国で用いられたこうした日本語は「協和語」と呼ばれ、中国人独特の表現となっていきました。
幕末に発生した言葉が現代まで……歴史はやはり奥深いものですね。
さらに明治時代でも…
中国人=アルヨの発端は幕末にあるとされていますが、これに似た言葉は明治時代初期にもみられた、ということが文献でも確認されているようです。その名も「横浜ピジン日本語」。ピジン言語とは、簡単に言えば混合あるいは合成されたような言葉のことで、異言語間で意思疎通が必要なために自然と成立していく言語です。19世紀末に横浜市に居住していた中国・英語圏の人たちは、日本語を習得していくうえでいつの間にか横浜ピジン言語を使用していたのです。
ということは?
日本人からは、「外国人の話す日本語」として認識されていたが、時代を経て「中国人の話す日本語」というイメージが固定
”欧米人や中国人によって生み出された日本語”なので、つまり当時は外国人全般でみられる表現の特徴だったということです。はじめはみんな使っていた言葉が、長いときを経て徐々に中国人特有のイメージへと変化していったのですね。
このような表現を「役割語」という
「中国人といえば”アルヨ”だよね~」というようなステレオタイプな(固定観念のような)言葉の表現を『役割語』といいます。
そして、こういった考え方によって用いられる言葉=「役割語」と日本語学者の金水敏が提唱しました。
役割語は普段でも使っている
今回は中国人を主人公に紹介してみましたが、実は役割語は知らず知らずのうちに使っています。ほんの一例ですが、子どもがおままごとで「あなた、ご飯よ。やだ、お皿割れちゃったわ~」と母親役を演じるときも、立派に役割語を活用しています。妻である人間(または女性)がすべて「あなた」「~だわ」と言うとは限りませんよね。しかしこの表現からは見事に”妻感”が出ています。ほかにも「おじいちゃん=わし」「田舎者=~だっぺ」というような私たちが抱くイメージも役割語に影響され、さらに役割語として影響を与えているのです。(深い…)
それでもやっぱり消えない“アルヨ”のイメージ
日本の観光地に行くと中国人をよく見かけるし、言われてみれば「~アルヨ」なんて聞いたことなかった…けれどもやはり『ワタシ中国人アルヨ』のイメージは拭えません。悪い言葉ではないので消す必要のないイメージだとは思いますが、中国人からすれば「そんな変な日本語使わねーよ」ってなものなのでしょうか?なにはともあれ、国や言語を超えていろんな人と交流して、たくさんの知識や経験を蓄えていきましょう!