イラン、パレスチナ・エルサレム問題で考えるアートの役割。そのことを明確に発信するシリン・ネシャット

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昨年暮れから新年にかけて、とても気になる動きが中東である。一つはトランプ・アメリカの自分の価値判断を、支持者のみの受け狙いをした公約とされる、イスラエルの首都をエルサレムとして、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレム移転するという、戦後歴代大統領が(思っても)これだけは行わなかったとされる政策・政治転換をいとも簡単に打ち出した。現在のエルサレム(イスラム、ユダヤ、キリスト教の発祥地という共存する場)、もしくはイスラエルは、もともとパレスチナの土地であったことは中東ならびに西側諸国も分かっている。しかも3大宗教が、極めて重要かつ微妙な軋轢をも持ちつつ共存している場でもある聖地をユダヤ中心と見なすというトランプの単細胞・短絡的暴挙である。1917年のイギリス・西側の3枚舌外交バルフォア宣言(シオニズム支持とアラブ分断)、さらに第2次大戦、ホロコースト以降のイスラエル誕生に犠牲とされたパレスチナ・アラブの人々を駆逐するダレット計画と、きっかけとなるシオニスト・ユダヤ人部族によるパレスチナ人殺戮したディルヤーシンの虐殺を経て、戦後のどさくさからパレスチナ人の土地をどんどん開拓し、強引に奪っていった(現在も強引な入植は続く)。これはアラブ諸国のシーア派だろうがスンニ派だろうが、シオニスト・イスラエルのアメリカを後ろ盾にしたやりたい放題は、パレスチナ人の・石による民衆蜂起・インティファータ・を幾度となく行うことを支持するが、武器産業国家?でもあるイスラエルの兵器には多くのパレスチナ人の犠牲を生み、今回のトランプ・アメリカの中東並びに他の西側諸国も敵に回す、いわば兄弟のような、アメリカ・イスラエルの孤立を生んでいる。昨年暮れから新年にかけても、7メートル近い高さの壁に覆われたパレスチナ・ガザ地区は、壁の圧政アパルトヘイトをイスラエルが行っているが、ガザで民主的に選ばれたハマスと汚職が絶えないヨルダン沿岸のファタハ等も両政治組織も猛反発し、おそらく本年中は、このエルサレム首都・大使館移転発言をアメリカが覆さない限り、パレスチナ民衆蜂起は収まらないし、逆にシオニスト・イスラエル側は、議会決議をした超法規的殺害をパレスチナ人に当てはめ、2014年でもあったガザ地区パレスチナ人虐殺(約2200名)の再来が起きるかもしれない(この解決には、アメリカ・トランプの大統領の失脚が必須と思われる)。

このパレスチナ人の立場を支援しているのがシーア派イランだ。イランは、敵対するスンニ派・サウジアラビア(アメリカ共同歩調)と相対する訳だが、昨年暮れから新年にかけて、2009年以来の民衆蜂起のデモがあり、イラン革命防衛隊2名とデモ隊でもあるイラン一般人21名が殺害、死亡している(一部暴徒化とある)。現在は終息に向かっているという報道もあるが、イラン側の軍の圧力による鎮圧であり、デモ参加一般人は、扇動者を極刑にするとイラン指導者まで述べている。どうも2009年のイスラム・シーアは宗教的圧政による自由の弾圧抗議やその後も起きている民主化を求める動きが根幹としてあるともされるが、今回はイランの地域により、非常に疲弊した経済格差が存在し、政府の経済政策の失政が大きいようで、テヘラン等に駐在する西側特派員報道もその事を中心に伝えている。したがって、イラン国営メディアはこのデモについてほとんど触れず、むしろ、アメリカ・イスラエル・サウジアラビアが背後で扇動していると批判している(現にトランプが、ツィートで自分はイランの人々と共にいると述べているが、イランの人々にはトランプなんてジョーダンじゃない、余計なお世話だろう)。イランは一度、アメリカCIAにより国を転覆され、一時期いわゆるアメリカ化したが、その後自国の革命、ホメイニ革命により、急激なイスラム原理主義にもどり、その流れが今も続いている。

アカデミー作品賞を取ったイラン革命からのアメリカ人決死の出国を映像化した映画「アルゴ」は、アメリカ側からの身の視点でしか描いていない、トンデモ・アメリカ国策映画だけれど、このイランから・亡命・しつつ、世界を彷徨うディアスポラ・エグザイルの立場から、イラン人と自ずと規定して、イランの内政・政治・宗教的圧政を問題提起、それが人間の普遍的問題の繋がるという発言・問題提起の映像・写真作品を制作、発表し、既に西側での非常に高い評価を受けている女性映像作家がいる。シリン・ネシャットだ(僕より2つ上の61歳か)。シリンは、単に自国イランに帰国できないことを宗教的圧政批判するだけでなく、イラン国家を転覆させたアメリカ・イギリス等も徹底批判している。彼女は、イランで2010年代、公園で起きた、民主化緑のデモにも触れ、アメリカ型民主ではなく、西側の人々が自分の自由を受け入れてくれた、国家を超えた、真の民主主義・表現の自由を訴えていて、その役割が・芸術・表現にあるとも述べている。もちろん、90年代以降の西側多文化主義から出てきたシリンの映像作品は、ヴェニス・ビエンナーレで瞬く間に問題提起の作品として評価され、国際的な映像・映画作家になった訳だけれど、なおかつ彼女は、西側に捕らわれることのない・フェミニズム・をも主張している。この一貫性は、筋を通し、決してブレることがない。イランには既に亡くなった映像巨匠であるアッバス・キアロスタミがいたが、彼はイランでも活動が出来た(イラン内での表現の労苦は絶えないことも発言している)。

イランのシーア的イスラム原理の宗教的圧政を、日本の天皇制の比較で、同義とみる見方があるが、全く違う。日本は敗戦後、アメリカが日本を傀儡するため天皇制を残し、アメリカ型民主主義を導入、戦争放棄、平和を引き換えに人々をその配下に置いた。つまりアメリカお墨付きの傀儡天皇性宗教である(日本の敗戦後右派国家主義者、政治家等の最大の欺瞞はここにある。彼らはアメリカと闘う革命が決してできないのだ)。しかし、イランはアメリカから革命で勝ち取ったシーア派イスラム原理主義の国である。アメリカ民主化をイスラムの宗教性により、相対化した訳だ。しかし、アーティストであるシリンは、この両者どちらにも属することない、真の民主主義の必要性を唱え、いわばポリティカルな映像作品化を行い、その変革の役割にアートが必要なのだ、と述べている。現在、イランで起きているデモは、経済格差問題中心で、沈静化に向かっているかもしれないが、そこに潜む、真の民主化の渇望は、イランの人々にもあるだろう。シリンの目線は、ここにある。

また、冒頭のパレスチナは、現在最も劣悪な弾圧状況下にありながら、イスラエル(アメリカにも)の捕らわれることのない、パレスチナ建国と民主的な人々による政治が出来る国へ・・・とのパレスチナ人の抵抗民衆運動は、ガザでもヨルダン西岸地域でも解決するまで続き、闘い続けるだろうと思う。もちろん、その道のりは簡単ではない。しかし、それが、やがてイランのアーティスト、シリン・ネシャットが願う、真の民主主義への道(ジェンダー・フェもニズムとしても)が、パレスチナでもイランでも開かれることは、その闘い・抵抗が続く限り、遠くないかもしれない。その役割を持つのは、・国家・ではなくその・国々の人々・であり、アーティスト、アート表現であることもシリンは示している。

もはや、アメリカの思い通りに進むことは、終わりを告げている。

出典:Biography of Shirin Neshat

Widewalls

制作中のシリン・ネシャット。発言からアートの役割を考えさせられます。

イスラエル入植地でのエルサレム問題、パレスチナ・デモ。

エルサレム問題、パレスチナ・デモ。

パレスチナ・バルファ宣言批判のデモ。

エルサレム問題、パレスチナ・デモ。

2009年のイラン・デモ、日本。

イラン・開放穏健派ロウハニ大統領。

イラン最高指導者、アリー・ハメネイ(この人はいいことは言います)。

出典: 毎日新聞

2018、イランのデモ。

出典:AIO

1昨年多摩美大卒展でのどこの国か不明だけれど、スンニ派の学生だそうで、パレスチナ問題等自国中東問題を絵画化していた女性の作品(小柄でブルカをまとい、きれいな方です)。
TED Talk