中国で突如公衆の面前で女性が裸になる事案が続出なぜ彼女たちは裸になるのか。その謎は「旅客症候群」にあった
今、中国で奇妙な騒動が同時多発的に起きている。女性が公衆の面前で突然服を脱ぎだすという事例が、各地で報告されているのだ。といっても、暑さのせいではない。8月10日昼、安徽省合肥市の鉄道駅近くで、若い女性が突然着ていた服を脱ぎ捨て、下着姿となった。彼女はこの日、西安市から列車で到着したばかり。20時間もの間、混雑する車内で身動きもとれず、ほとんど眠れぬまま下車。駅を出ると幻覚が見え、無意識に服を脱いでしまったという。専門家は、長旅のストレスが原因で起こる「旅客症候群」であると指摘している(『中国日報網』)。
また、8月19日夜にも広州市の路上を歩いていた30歳前後の女性が、突然服を脱ぎ始め、一糸まとわぬ姿になった。彼女はその後、声を上げて泣き始め、駆けつけた警察に保護された(『南方網』8月21日付)。彼女は妊娠5~6か月で、精神的に不安定になっていたという。さらに8月21日は江蘇省無錫市で、白昼の街中を全裸で疾走する若い女性が目撃された。当日は、中国の七夕の翌日だったこともあり、恋人とのトラブルが原因という憶測も出ている。中国では、七夕は情人節と呼ばれ、恋人同士で過ごす習慣がある。
各々の事情はあるにせよ、なぜ共通して「服を脱ぐ」のか。中国在住のフリーライター・吉井透氏は、こう見立てる。
「中国人は、怒ったときや悲しいときなど、感情の起伏を隠すことなく周囲に示す習性がある。そうすることで、注目を集め、手を差し伸べてもらう『かまってちゃん』的な動機なんです。ただ最近は、他人への無関心が蔓延しており、地団駄を踏む程度では注目を集められない。そこで、露出という大胆な行為に出るんでしょう」
広東省仏山市の貿易業・林田岳男さん(仮名・50歳)も、女性が公然と露出に及ぶ現場に遭遇した。
「路上で果物を売っていたおばちゃんが城管(都市管理執行員)に捕まった。売り物を荷車ごと没収されると、『これも持ってけ泥棒めが!』と叫びながら服を脱ぎ、下着を取って城管に投げつけ始めた。無視して立ち去る城管を、見物人たちは『街の美化が仕事なら、このおばちゃんの裸をどうにかしろ!』と野次っていました(笑)」
公然露出は、交渉カードに利用されることもある。広東省東莞市のメーカー勤務・高島功夫さん(仮名・38歳)は話す。
「以前、付き合ってた彼女と路上で口論になり、その場で服を脱ぎ始めたことがあった。口論の原因は、ブランド物のバッグの購入を私が断ったことでしたが、そんな“自爆テロ”に出られたら要求を呑むしかない。ブラジャーを脱ごうとしたところで折れました」
一方、中国人の公然露出の動機について、「生理的欲求説」を唱えるのは、中国でも活動するタレントの宮下匠規氏だ。
「かつて、中国人は他人に恥部や下着を見せることが日常化していた。しかし、トイレが個室化し洗濯物も外に干さなくなったことで、密かに欲求不満を抱えていると私は考えます。チャンスさえあれば脱いでやろうと思っている人も少なくないはず。話題にならないだけで男が全裸になる騒動も多数起きているのです」
この「旅行症候群」は、空気の流れが悪い列車内で長時間、時には数十時間揺られ、まともな食事もとれずに睡眠も不足し、さらに荷物の盗難を心配する精神的な緊張状態も加わることが原因で起こると考えられている。その症状としては、幻覚を見たり、自傷行為に及んだり、列車から飛び降りたり、果ては人に暴力を振るったりといったこともあるという。中国では、すでに今年に入って「旅行症候群」に関わる騒動が5件発生しており、満席の列車内で突然、奇声を上げて踊りだしたり、列車の車体に何度も頭を打ち付ける自傷行為を行った人もいるという。
「中国の長距離列車の旅は、なかなかハード。しかも国土が広大なので、乗車時間が20時間、30時間という列車もザラです。寝台車なら横になれるのでまだマシですが、一番料金が安い“硬座”と呼ばれる二等座席はリクライニングもないボックス席。18時間の夜行列車で硬座に座ったことがあるのですが、荷物の心配やらでおちおちトイレにも行けないし体は痛くなるしで、降りた時にはもうヘロヘロでした」(上海在住の日本人フリーライター)確かに日本の長距離列車は、「北斗星」や「カシオペア」をはじめ豪華で快適な列車旅ばかりで、乗車時間もせいぜい最長で19時間。中国の長距離列車のような、肉体的精神的苦痛はほとんどない。そういう意味では、「旅行症候群」は中国特有の風土病ともいえるだろう。