前、見えてないよね…?シュモクザメが持つヘンテコ頭のワケ【動物の謎】
シュモクザメといえば、筆者が小学生のころ古本屋で手に入れたナショナルジオグラフィックの
見開きで掲載されていたシュモクザメの頭部を見て驚いた思い出があります。
唯一無二のヘンテコな頭の形。その両端についた大きな眼球。他の部分は「ふつうのサメ」っぽいのに、
頭だけ特殊なところがビジュアル的に賛否両論を生んでいる有名サメです。
好奇心旺盛な人なら、その頭の形に1度は「なぜ?」と疑問を抱いたことがあるのではないでしょうか。
今回はこの「シュモクザメの頭の形」について、彼らが何に役立てているのかをご紹介していきます。
シュモクザメの頭の形には意味がある?
生き物は、それぞれが命をつなぐうえで都合のいいように進化を続けてきました。キリンの首が長いのも、ゾウの鼻が長いのも
ハゲワシがハゲているのも、全部に納得のいく理由があります。
人間だって例外ではありません。長い目で見ると、今だって少しずつ進化を続けているのかもしれませんね。
そしてシュモクザメの頭の形も
自分たちが生存競争を繰り広げるうえで必要な進化だったはずですなのです。
シュモクザメは9種類
現在確認されているシュモクザメの種類は9種類。程度の差はあれど、9種すべてがヘンテコ頭を付けて泳いでいます。
シュモクザメは日本にも生息しており、
夏の海水浴場での目撃情報は決して少なくありません。
サメ=人食いの印象が強烈なのは否めませんが、シュモクザメが人を襲うことは少ないと言われています。人的被害の報告もあがっているようですが、
果たしてシュモクザメが犯人なのかは断言できません。
(ちなみに、みんな大好きフカヒレの一部はこのシュモクザメから頂戴しています)
ヘンテコ頭への進化理由は?
では、シュモクザメはなぜあんなにヘンテコな頭なのでしょうか?実はこの最大の謎は、いまだ研究中の分野なのだとか(残念)。
しかし、いくつかの仮説はあります。
●視野を広げるため
●揚力を得るため
●狩りに使うセンサーの数を増やすため
このような説が唱えられていますが、素人にはすべてが正解に思えてしまいますね。
頭の両端についた眼で視野を広げる
この説はとてももっともらしいですが、
「前見えなくない?」という新たな疑問が生まれます。
しかし実は、シュモクザメのこのヘンテコ構造は
ほかのサメに比べて優秀な視覚・嗅覚に反映されているのだといいます。
それどころか、離れた場所に眼をつけることで
私たち人間のように物を立体視できるようになったのです。
横に広がった頭で揚力を得る
揚力(ようりょく)というのは、飛行機の翼のように上へ押し上げる力のこと。※押し上げるという表現は適切でないかもしれませんが「なんとなく、そんな感じ」でイメージしてください。
つまり、左右に広がった翼のような頭部のおかげでシュモクザメは海中をスイスイと泳ぐことができるのです。
一説では、時速70キロで泳ぐことができるといわれています。
自動車の法定速度が60キロなので、それよりも早いスピードで泳いでいるということになりますね。
地上動物でいえば、ダチョウやオオカミの最大速度が時速70キロ程度だといわれています。
このようなスピードは、獲物を追うハンターとしてはとても有利な条件であることが分かるでしょう。
(ダチョウに関しては逃げるほうが正しいですが)
電磁波感知センサーをを無数に張り巡らせる
シュモクザメを含むサメ類の頭部には、他の生き物が発した電磁波を感じ取る「ロレンチーニ器官」なるものが備わっています。
これは非捕食者が故意に発するものではなく、筋肉から”仕方なく”放出してしまう非常に微弱な電気を感じ取る際に役立つのです。
例えば、砂の中に潜ったエイがこちょこちょっと動くとそのときの振動や匂い、音波がシュモクザメの元へ届きます。
「エサやん!」となったシュモクザメは、
ロレンチーニ器官を使って砂に覆われたエイの在り処を探るのです。
ロレンチーニ器官を持つのはほかのサメも同じですが、
シュモクザメはとくにその数が多いことが分かっています。
これはやはりヘンテコな頭のおかげなのですね。
ぺちゃんこの頭なら、面積を大きく確保することができます。
面積が大きいということは、センサーをたくさんつけることができるということです。
こうして広い範囲にセンサーを張り巡らせて、
海底を大きなライトで照らすようにしてエイを探し出し捕食するのです。
やはりデメリットもあった
「前見えなくない?」という疑問は前述しましたが、筆者の屁理屈もときには役に立つようです。
視覚・嗅覚の能力が優れていることは確かですが、
やはり真正面が見えているとは考えられないのだとか。
これがシュモクザメのヘンテコ頭の大きなデメリットになってしまいますが、
なにも彼らだけの視覚が劣っているわけではありません。
ご存知のとおり、サメは側面に眼をつけています。ほかの魚に関しても多くが該当しますが、シュモクザメ以外の魚類でも真正面は死角になっているのです。
もちろん、そのなかでもシュモクザメは死角範囲が広いのでしょうが私たちだって正面を見ながら真横を認識するのは大変ですよね。
それでもとくに不自由は感じないのだから、
かりにシュモクザメに「正面しか見えなくてかわいそうね」と言われても、まったく実感が湧かないでしょう。
つまり、シュモクザメにとって正面が見えないことなどどうでもいい(かもしれない)のです。
(もっとも、シュモクザメの正面をあざ笑うように泳ぐ小魚たちも目撃されていますが。)
謎多きシュモクザメのヘンテコ頭
シュモクザメの生態や諸説について紹介してみましたが、いまだ謎多きシュモクザメ研究所に入りたくなった人もいるのではないでしょうか。
サメのなかでもとくに好き嫌いが大きく分かれる種だと思いますが、
筆者は案外好きです。掃除機とかカミソリみたいな形ですし(?)。
頭部を接写で見ると少々恐怖感に煽られますが
それらは彼らが厳しい生存競争を勝ち抜いてきた証なのです。
いつかシュモクザメと触れ合う機会に巡り合ったら、
どうか真正面ではなく横についてコミュニケーションをとってあげましょう。