新iPhone、価格発表の瞬間に・・・
新iPhone、価格発表の瞬間に凍りついたワケ
アップルは米国時間9月12日に特別イベントを開催し、iPhoneの2018年モデルを披露した。昨年9月と同様、3つのモデルが登場したが、今年は全てのモデルが全画面デザインと顔認証を採用するモデルとなった。アップルのティム・クックCEOにクリッカー(プレゼンテーションのスライドをコントロールするリモコン)を手渡すオープニングムービーは、供用が開始されたApple Parkを案内するような構成となっていたのが印象的だった。
冒頭では「最もパーソナルな製品を2つ紹介する」として、Apple Watchの新製品の紹介から始まった。
Apple Watchは「健康」から「医療」「安全」へ
Apple Watchは2015年4月の発売以来、毎年新モデルをリリースしてきた。2018年は4作目となるApple Watch Series 4が登場した。今回は、内部だけでなく、デザインそのものも刷新されたフルモデルチェンジとなる。
これまで、画面サイズ38ミリ、42ミリの2サイズで構成されてきたが、Apple Watch Series 4ではそれぞれ40ミリ、44ミリにサイズが拡大された。
これまでのApple Watchのイメージを保ちつつも、より緩やかな曲線が強調され、有機ELディスプレイのサイズは40mmでこれまでより35%、44mmで32%も拡大された。ちなみに、サイズ表記は異なるが、いま手元にある38mm用バンドは40mmモデルで、42mm用バンドは44mmでそれぞれそのまま利用することができる。
Apple Watch Series 4は、デザインやサイズの変更以上に、「健康」や「安全」という分野に対して踏み込んだ機能を披露した点が印象的だった。具体的には、心電図(EKG)と、転倒検出機能の搭載だ。
これまで、フィットネスの計測をより正確にするため、心拍センサーの正確性を高めてきた。Series 4ではこれに加えて、心電図を取ることができるようになる。
すでに米国ではFDA(アメリカ食品医薬品局)の認証を受けており、計測したデータをPDFにまとめ、医師に提出することができるようになる。なお、日本の厚生労働省での認可はまだ受けていないようで、日本のSeries 4のウェブサイトでは心電図機能は表記されていない。
高齢者にとっての安心機能に
また転倒検出機能は、Series 4の加速度センサーを大幅に強化して実現しており、落下、転倒、スリップなどを検出すると、自動的に緊急連絡の画面が現れ、1分間反応がなかった場合、自動的に通報する仕組みだ。
医療機器として認められる機能を、医療機器でなく腕時計型のデバイスに納めた点で、インパクトが大きい。これらの機能は、特に高齢者にとっても広く受けいられる可能性がある。
なお、米国向けには今後のソフトウェアアップデートで機能が有効化されるが、その他の国に関してアナウンスはなされていない。各国での認証を取得していく必要があり、日本の場合は臨床試験を経てから有効化される事になる。ハードウェアとして機能はあるが、日本で利用できるようになるまでにはしばらく時間がかかりそうだ。
価格はGPSモデルが4万5800円から、ゴールドの新色が追加されたステンレススチールのGPS+セルラーモデルが7万4800円からとなっている(いずれも税抜価格)。
続いて、iPhoneのプレゼンテーションに移った。
iPhoneを紹介するプレゼンテーションでは、まず冒頭でiOSデバイスの出荷台数が20億台に迫っていることが告げられた。iPhoneだけでなくiPadなども含まれるが、iOS人口の増加はアプリ開発者に対するアピールになるだけでなく、アップルが強力に推し進めているサブスクリプションモデル、すなわちiCloud追加容量やApple Musicなどの月額料金モデルにとっても重要なユーザーベースとなる。
昨年999ドルで発売され、価格の高さから苦戦が予想されていたiPhone Xは、結果的には年間で最も販売台数の多いスマートフォンとなり、顧客満足度も98%に達したことという。
「1秒間に5兆回」という計算能力
iPhone XSは昨年通り5.8インチの有機ELディスプレイを備えるモデルとして登場したが、2018年はさらに画面サイズが大きな6.5インチのiPhone XS Maxが登場した。製品名称については別の原稿で「しっくりこないと指摘」したが、そのままの名前で登場することになった。
iPhone XSシリーズにはA12 Bionicチップが搭載された。パフォーマンスとバッテリー持続時間を両立するという。 CPUは性能コア2つ、効率コア4つの6コア構成は変わらないが、前者は15%高速化、後者は50%省電力化した。グラフィックスは3コアから4コアへとコア数を増やし、50%の高速化を実現している。
しかしもっとも力を入れていたのがニューラルエンジンといえる。これまでの2コアを8コア化し、機械学習処理を1秒間に5兆回こなす。これによりFace IDの認識速度も向上や写真の処理性能の向上にも役立てられる。
これまでも処理性能の上でAndroidスマートフォンよりも優位に立っていたが、iPhone XSシリーズでさらに突き放す格好になりそうだ。
またHDR再生をサポートし、画面のタッチセンサーの反応速度も向上させるなど、ディスプレイにこだわる仕様となっている点が印象的だ。
2017年のiPhone Xはシルバーとスペースグレーの2色展開だったが、iPhone XSには渋い色合いのゴールドが追加された。6.5インチモデルは液晶5.5インチのiPhone 8 Plusとほぼ同じサイズに1インチ大きな画面を収めており、全画面デザインのメリットを生かしている。詳しくは、別の記事で詳しく解説する。
iPhone XRは非常に戦略性の高い製品
3つ目のiPhoneとして登場したのがiPhone XRだ。液晶画面の採用、3D Touchやデュアルカメラの省略などによって価格を抑えているが、A12 BionicチップやTrueDepthカメラなどの性能はiPhone XSと共通している。
6.1インチの全画面液晶にはLiquid Retinaディスプレイと名付けられた。ドットの細かさは326ppiと、有機ELパネルのSuper Retinaディスプレイの458ppiと比べて劣るが、有機ELディスプレイと比べても見劣りするとは感じなかった。
2つ目の背面カメラは省かれたが、iPhone XSと同様に、ポートレートモードを搭載した点は驚きだった。1台のカメラでも深度データを作り出し、被写体と背景を切り分ける仕組みだ。
これは画像処理チップと前述のニューラルエンジンが連携することによって実現しており、ハードウェアをソフトウェアでカバーする、モダンなカメラシステムの進化を与えている。もちろん、iPhone XRが初めての取り組みではない。
最大の特徴は6色展開だ。ベーシックなホワイト、ブラック、ブルー、イエロー、コーラル、(PRODUCT)REDが揃っており、ポップな印象を受ける。アップルは価格を抑えたモデルにもホームボタンを排除することができ、画面の中で人の感覚に沿って操作する事ができる「フルードインターフェイス」への移行を図ったことになる。
その点では、iPhone XRは、iPhone XSシリーズ以上にニュースの焦点になると考えて良いだろう。
iPhone XSシリーズは9月14日予約開始、9月21日発売となるが、iPhone XRは10月19日予約開始、10月26日発売とのスケジュールが発表された。
問題となるのは価格だ。
会場が凍りついた理由とは?
価格発表は、今回のイベントの中で、もっとも静まり返った瞬間だった。iPhone XRは749ドルから、iPhone XSは999ドルから、iPhone XS Maxは1099ドルという価格が発表され、会場内は凍りついた。
日本円ではiPhone XRが8万4800円、iPhone XSが11万2800円、iPhone XS Max 12万4800円(それぞれ税別)からという価格が発表されていたからだ。
これまでiPhone Xの後継モデル価格は、100ドルずつ安いレンジが予測されていた。iPhone XRはiPhone 8 Plusよりも50ドル安い価格に設定されているが、iPhone XSは価格が据え置かれ、さらに100ドル高い価格となったのだ。
もちろん際限なく価格が上がり続けるとは考えにくいが、アップルはiPhone Xの成功に、999ドルという価格設定への自信を深めていることの表れ、と見ることができる。
ただし、この高止まりする価格設定が受け入れられるかどうか、という焦点を曖昧にする存在が、749ドルに設定されているiPhone XRの存在だ。
この749ドルのモデルがあるからこそ、アップルは999ドルのiPhone XS、1099ドルのiPhone XS Maxという思い切った値付けの高価格モデルをラインナップできたともいえるだろう。
デザインと機能の完成度は非常に高い。しかも個性を表現できるカラーバリエーションも取り揃えており、今回発表された3機種の中では、もっとも多くのユーザーに支持されるモデルになると予想できる。この「XR」に絞った分析は、別稿であらためて行いたい。
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