「44名が死亡」新宿歌舞伎町ビル火災事件とは
新宿歌舞伎町ビル火災事件
歌舞伎町ビル火災(かぶきちょうビルかさい)は、2001年9月1日に東京都新宿区歌舞伎町の雑居ビル「明星56ビル(みょうじょう56ビル)」で起きた火災である。44名が死亡し、日本で発生した火災としては戦後5番目の大惨事となった。多くの死傷者を出した原因は、ビル内の避難通路の確保が不十分であった為とされる。出火原因は放火とみられるが、現時点では未確定である。
新宿歌舞伎町
歌舞伎町燃える
2001年9月1日午前1時前、「新宿のビルで、人が3階から落ちました」という救急の要請の電話が入った。その直後には、このビルで火災が起こったという119番通報が入った。現場のビルは歌舞伎町にある「明星56ビル」。地上4階、地下2階のビルで、場所柄、キャバクラ、イメクラ、麻雀店、飲食店などが入っていた。立地は新宿で最も賑やかな場所である。当夜は土曜の終電前の時間ということもあり、ビルの前には野次馬の人だかりができていた。
すぐに消防隊が駆けつけたが、消火活動は困難を極め、救急車48台、ポンプ・化学車25台、はしご車4台、救助車6台、指揮車6台、他車両6台など、東京中から隊員、車両が動員されたが、完全に火が消えたのは6時44分頃のことだった。火は「明星56ビル」の3階と4階の約160㎡はすべて燃やし尽くした。
この火災によって、救助された47名のうち44名が死亡。犠牲者は主に3階の麻雀店「一休」、4階のキャバクラ「スーパールーズ」の客と従業員。彼らのほとんどは重度の火傷の跡もなく、一酸化炭素中毒によって死亡していた。
一方、足などを負傷した3人はいずれも麻雀店の従業員で、ビルから飛び降りて逃げていた。ちなみに最初の119番通報は、この落下に気づいた4階のキャバクラ従業員からのもので、この時点では火災だとは気づいていなかったものと見られる。
出典:新宿歌舞伎町ビル火災
火災後のビル全景
被害状況
覚知日時平成13年9月1日 午前1時01分(119番通報による)出火場所東京都新宿区歌舞伎町1丁目18-4
出火建物明星56(みょうじょうごーろく)ビル 複合用途(16項イ)
耐火造一部その他構造 地下2階地上5階
建築面積83m2 延床面積516m2
被害状況半焼
焼損床面積160m2(3階遊技場(ゲーム麻雀店)80m2、4階(キャバクラ)80m2、第1図)
焼損表面積9m2(2階階段及び5階(屋上)階段の内壁6m2、天井3m2)
死者44人、負傷者3人
火災原因放火の疑い
出典:平成14年版 消防白書
出典:総務省消防庁
出火場所
東京都新宿区歌舞伎町1丁目18-4
救助が進まなかったのは
「一休」の男子従業員によると、店とエレベーターホール間のドアの隙間から煙が入ってきたのに気づき、ドアを開けると黒い煙が勢いよく入ってきたという。なぜか火災報知器のベルが機能しておらず、気づいたら炎が燃え広がっていた。さらにビルの入り口、すなわち避難経路は1ヶ所の階段のみで、積み上げられた荷物のため防火扉が閉まらなかったことも火災拡大の一因となった。しかも3階には脱出用の避難器具も備えつけられておらず、逃げ場を失った従業員は飛び降りることとなった。
3階「一休」には当時19人の客と従業員がいて、そのうち17名が消防隊によって救助(搬送後に死亡が確認された)されたが、4階に続く階段にはやはりロッカーやイスなどが山積みにされており、階上に進むことは出来なかった。そのため4階「スーパールーズ」の客と従業員は全員が死亡した。
出典:新宿歌舞伎町ビル火災
火災後のビル(1階正面)
マスコミの対応
火災発生時、NHKが午前1時50分前後に一報を伝え、その後臨時ニュースが報じられると共に現場からの中継が始まったが、通常番組に10分程度カットインする状態だった。被害が明るみになりつつあった3時頃から「おはよう日本」開始まで特別報道体制(臨時ニュースによる終夜放送)となり、現地記者とヘリコプター空撮映像を交えながら現場の状況を繰り返し伝え、「おはよう日本」では当火災の内容を中心に放送した。民放は深夜ということもあり、警察や消防発表を拠り所とした事実経過を簡単に伝えるのみであったが、被害状況の詳細が伝わるにつれ(こちらもNHK同様に、被害の大きさが分かってきた午前3時台以降)、深夜番組を一部休止したりカットインするなどして、各社とも臨時ニュースを伝えた。明けて土曜早朝の時間帯も、通常の生情報番組内で内容を変更して詳報を伝える局や、レギュラー番組を休止して報道特別番組を編成する局など対応は様々であった。
鎮火後のマスコミは、火災原因を放火であるのか事故であるのか不確定な部分を憶測を交えつつこぞって追求していたが、10日後の9月11日になると日本国内初の狂牛病疑いの牛が発生したことや、夜(JST)にアメリカ同時多発テロ事件が発生したため、当火災の報道は激減し、「報道特集」などのドキュメンタリー系報道番組で遺族の様子などを幾度か取り上げる程度に縮小した。また、9月11日にWOWOWでは映画「バックドラフト」を放送する予定であったが、この事故の影響を受け「母の眠り」に差し替えられた。 当時アニマックスで放送されていた「ギャラクシーエンジェル」の第21話「デコピザ」は、当初この事故の原因としてガス爆発が疑われていたため放送が中止された。
失火か放火か
出火原因については未だにわかっていない。当時、「ボン!」という爆発音を聞いた人が多く、ガスのメーターがはずれており、そこが火元になっていたことから、当初はガス漏れによる爆発と見られた。しかし、その後の調べではガスメーターは単にはずされていただけで、ガス漏れはなかったことが判明している。
そうなると、放火の疑いが濃厚となる。
「一休」は事実上の麻雀機賭店で、一晩に数十万負け、「火をつけるぞ!」と言い残して店を出る客もいたという証言もある。「一休」の顧客名簿から捜査が進められたが、あまり役には立たなかった。なぜなら、そのリストのほとんどは偽名であったからだった。
もうひとつ、「ビルから飛び降りて逃げた中国人がいる」という証言もあったが、この人物の行方もわかっていない。
また、2001年6月に板橋区で起こった工務店店長殺人事件の実行犯の1人に「一休」のオーナーに恨みを持った男がいて、この火災との関連が注目されたが、続報がないところを見ると、進展はないようである。
この火災の後、歌舞伎町には監視カメラが整備され、定期的にビルの防火管理についての検査が入るようになった。
出典:新宿歌舞伎町ビル火災
解決を遅らせたのは歌舞伎町の闇
この事故にはいくつかの疑問と謎が当初から指摘されていた。出火場所にある鉄製ボックス内のガスメーターはガス管から外れて落下していた。
2本のガス管からはガスが漏出していたとみられているが、ガス管とメーターを繋ぐネジが緩んだ痕跡はなかった。
メーターには下から千度を超える高熱を受けた形跡がみられ、のちに人為的な衝撃が与えられていたことが認められた。
消防庁は現場検証や燃焼実験を重ね、短時間で急激に温度が上昇した原因は、放火による可能性が否定できないとした。
いくつもの消防法違反も指摘された。
放火でなくとも人災であることは明白であった。
殺人といっても過言ではない。
この事件の解決を遅らせているのは歌舞伎町という街の闇である。
事件の背景を思わせるかのような報告も捜査本部に寄せられた。
その情報の中にはビル所有会社の胡散臭さがある。
立ち退きや賃借料を巡ってテナントとのトラブル。
その一部は訴訟にもなっていた。
ビルの賃料は相場に比べて割高だったと証言する人間もいる。
所有会社は競売物件でこのビルを所有した。
占有屋がいるような複雑な権利関係の不動産だったのである。
ビル所有会社はそうした物件ばかりを扱っていた。
歌舞伎町の裏不動産をシノギにするA氏(52)はこう話す。
『何もあのビルだけではない。歌舞伎町全体がそうであると言っても過言ではない。権利関係が複雑で又貸しや営業権譲渡などが何重にもされているケースは多い。違法風俗店や賭博店などの場合には責任の所在をたどり着けなくする意味もある。本来だったら高額な保証金を積まないと借りることが出来ないテナントを、保証金を下げて家賃を割高にし、営業しながらペイしてゆけるように中間の賃借人…つまり裏不動産が賃借条件を変えるんだ。短期間に稼げる法律スレスレの商売が出来る歌舞伎町に相応しい条件にね…。ビルオーナーのほとんどは家賃収入目当てに知らん顔。それ目当ての会社だったってことさ』
他にも、違法賭博であった麻雀店の大金をつぎ込んだ客とのトラブルやキャバクラなどの色恋沙汰のトラブルまで、いくつもの証言や報告がされた。
管理責任
消防法改正
この火災を契機にして、2002年10月25日に消防法が大幅に改正された。この法改正により、ビルのオーナーなどの管理権原者は、より重大な法的責任を負うこととなり、防火管理意識を高めるきっかけになった。火災の早期発見・報知対策の強化
自動火災報知設備の設置義務対象が従来より小規模なビルにまで拡大され、機器の設置基準も強化された。
違反是正の徹底
消防署による立入検査の時間制限撤廃や、措置命令発動時の公表、建物の使用停止命令、刑事告発などの積極発動により違反是正を徹底することとした。
罰則の強化
違反者の罰則は、従来の「懲役1年以下・罰金50万円以下」から「懲役3年以下・罰金300万円以下」に引き上げられた。
また、法人の罰則も、従来の「罰金50万円以下」から「罰金1億円以下」に引き上げられた。
防火管理の徹底
防火対象物定期点検報告制度が創設され、年1回[10]は有資格者(防火対象物点検資格者)による入念な点検と報告が義務づけられた。
なお、優良に防火管理を行っていると認められる防火対象物には、定期点検報告義務を免除する特例認定を受けることができるとされている。特例認定を受けた場合には「防火優良認定証」を掲示できる。
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