栃木女性教師刺殺事件とは
栃木女性教師刺殺事件
栃木女性教師刺殺事件(とちぎじょせいきょうししさつじけん)、または黒磯教師刺殺事件(くろいそきょうししさつじけん)とは、1998年(平成10年)1月28日に日本の栃木県黒磯市(現那須塩原市)で発生した、校内での生徒による教師刺殺事件である。
Aについて
1985年生まれ。家庭は黒磯市の酪農農家で、両親と祖父、曾祖母、それに兄弟3人(Aは末っ子)の7人家族だった。小学6年生の時、Aの成績は男子の中で2番目だった。ところが黒磯北中学に入ると、思うように伸びなかった。特に「英語」は苦手だった。英語担当の腰塚佳代子教諭(26歳)はたびたびAを注意することがあり、Aは日頃から反感を抱いていた。
「本当は嫌いなんだ」と、小学生のころレギュラーだったサッカーをやめ、テニス部に入った。入学してまもなく、テニス部の大会会場で、上級生に対して荒々しく食ってかかるAの姿を同級生が目撃している。怒鳴っていた理由も内容もわからなかった。
97年(事件の前年)5月から膝の病気のため、激しい運動を禁止されており、部活を辞めた。この頃から、保健室利用が多くなっていた。同年6月と7月、それぞれ4日連続で学校を休んだことがあった。「テストが不安」と母親に漏らしており、担任が5度ほど自宅を訪問し、「がんばれ」と言ったが、様子は特に変わらず。
夏休み。Aは別のクラスの親友と2人でよく、繁華街のゲームセンターに通った。クラスメートと来る時はほとんどゲームはしないのに、この親友とは最低でも1時間はゲームに興じた。「リアル・パンチャー」が好きだった。ボクシングのグローブを右手にはめ、力いっぱいバーをたたくゲームだ。3回パンチしてゲーム終了。その威力を示す数字が表示されるたびに、少年は真顔で口走った。
「けんかしてぇー」
Aは気心の知れた友達にだけ自分をさらけだしていた。
「友達がいなくてさみしい」
事件の直前にはAはこの親友にこう打ち明けていた
2学期になり、保健室利用は増えていった。Aは英語の授業が嫌いで、英語の前によく保健室に逃げ込んでいたようだ。養護教諭に「精神的に不安定」と判断され、このあとも何度か担任が自宅を訪問している。
1998年1月、事件の2、3週間前、市内で5000円のバタフライナイフ※(刃渡り10cm)を購入。以後、常に持ち歩いていたという。1月23日、2時限目に入る前の休み時間に教室の後ろの隅でAは4、5人に囲まれ得意そうにナイフを回した。
「お前じゃなくても、できるぞ」
Aは級友からそう言われナイフを手渡した。同じように回転させるクラスメートを残念そうに見つめていた。
※バタフライナイフは刃が通常柄の部分に隠れており、2つに分かれる柄を180度回転させると刃が出る仕組み。1997年に放送されたCX系ドラマ「ギフト」では人気俳優・木村拓哉氏がナイフを使うシーンがあった。
97年5月頃、黒磯北中ではカッターナイフなどで自分の腕に文字を刻む「生命(いのち)彫り」という遊びが流行した。マンガの影響を受けたもので、学校は生徒と父母に刃物を持ってこないよう文書で指導したばかりだった。
同級生によると、クラスに仲の良い友人が5人ほどいたが、中心的な存在でもなかったという。普段から「むかつく」とはよく口にしていたが、「殺す」と言ったのは事件の直前が初めてだったという。
出典:黒磯市・女性教師刺殺事件
殺害
1998年1月28日、英語の課題未提出者を放送で全校に告げられ、Aは英語担当の腰塚教諭にさらに反感を強めた。Aは2時間目と3時間目の休み時間に保健室に行き、さらにトイレに寄ったため、腰塚教諭の英語の授業に約10分遅れた。この時、教諭から「トイレに行くのにそんなに時間がかかるの」と注意された。
Aは無造作に着席すると、ノートを音をたてて大きく開き、シャープペンのしんを出さないまま、文字のようなものを書いた。ノートは破れたという。授業が進むと、付近の生徒と漫画の話をし始め、教諭から「静かにしなさい」と再び叱られた。英語の授業が終わる直前になって、Aは教壇の方を睨みつけて、「ぶっ殺してやる」と言った。
授業が終わると、腰塚教諭は「ちょっときな」と、Aとその友人を廊下に呼び出し、再び注意した。
殺害までの会話は以下の通り。
「授業が終わる直前になって、生徒は教壇の方向をにらみつけて『殺してやる』と言ったという。生徒のこのひとことは、女性教師に届かないほど小さかった。
三時間目の英語が終わると、女性教師は生徒と友人を廊下に呼び出し、ふたたび注意した。
『先生、何か悪いこと言った!』
『言ってねえよ』
『ねえよって言い方はないでしょう』
『うるせえな』
生徒はそう言いながら、ナイフを学生服の右ポケットから取り出し、向き合う女性教師の左の首筋あたりに当てた。
『あんた、なにやってるの』
男子生徒は『ざけんじゃねえよ』と言いながら腹を刺した。女性教師は前のめりになって倒れた。
男子生徒は『カッとなって、おなかの近くを刺した』ことまで覚えているが、『あとは夢中だった』という。
友人は突然の出来事に動転し、教室に駆け込む。隣の教室から飛び出した男性教諭が止めるまで、少年は「すごい形相で」何度も刺し、けり続けた。
上の会話を見てみると腰塚教諭は日頃から生徒を強い口調で叱ることがよくあったと思われるかもしれないが、ある生徒はこの日の教諭について、「1日に3回も怒る先生初めて見た」と語っている。
出典:黒磯市・女性教師刺殺事件
送致
女性教諭は直ちに病院に搬送されたが、すでに心肺停止状態で、出血多量による死亡が確認された。胸に刺された一突きが致命傷だったと思われる。 凶器のバタフライナイフは、2,3週間前に黒磯市で買ったものだった。黒磯署は男子生徒を補導。県北児童相談所は男子生徒を宇都宮家裁に送致した。少年法にもとづく処分が適用されたが、これとは別に遺族は少年の家族を提訴し、2004年9月15日に宇都宮地裁は8200万円の賠償命令を下した。
供述
■最初は(注意を)聞いていたが、だんだん腹がたってきて、脅かしてやろうと思い、ナイフを取り出した■俳優がナイフを使っているのを見て格好良いと思い、級友に自慢できるので学校に持っていった
出典:黒磯市・女性教師刺殺事件
腰塚教諭の評判
『現代』5月号の黒沼克史氏が黒磯北中学を訪れて取材したときの、進級を間近にした目立たない普通の二年生の会話の引用がこの実例です。I子 K先生ってさ、言い方が悪いところもあったよね。
J子 そう、すっげームカつくの。
(中略)
<あの事件をどうみてる?>
J子 じつはみんなしたいんだよ。
L子 やったじゃーん、もっと殺せって思ってるよね。絶対。刺したくなるヤツいるじゃん。
この引用ではK(腰塚)先生はこの子たちに完全に嫌われているように受け取れます。原典を参照すると中略部分の最初の話し手は上記中一番過激な発言をしたL子で、
私は好きだったよ。 としゃべっています。この一文があると全体の印象は全く変わります。L子の過激な発言も、腰塚教諭を好きだが、事件や学校生活に対する自分自身の考えが定まっていない、的確な表現がまだ難しい中学生の発言として解釈できます。
社会への影響
刺殺された教諭の「先生なにか悪いこと言った?」といった高圧的な言動を取り上げ、思春期の子どもたちへの配慮を欠いた感情的な叱責が、多感で悩みを抱えた少年を発作的で衝動的犯罪に走らせたとする意見が、一部の心理学者やライターなどによって唱えられた。はては、夫の郷里での勤務という家庭事情や本人の勝気で強烈な職業意識の結果、育児のストレスが悪いかたちで教育現場に持ち込まれたという極端な議論まで現れた。しかし、被害者への客観的評価や全体的情報がないまま、事件直前の言動をことさら否定的にとりあげ、子どもたちの反発をうけて当然の嫌悪すべき教師像をつくりあげているとの反論もなされている。ちなみに、刺殺された教師は指導に厳しい面もあったが、全体的には生徒の評判が悪いわけではなかった。また、キレるという言葉が事件以降に定着するようになった。
バタフライナイフ
「キレる」ことを防ぐために
たとえば、自分自身を大切にし、自分を愛せるようにすること、また子供達の行動を単なる授業妨害や教師への反抗ととらえるのではなく、その行動の内側にある「可能性」に目を向けることなどです。(「児童心理」1997.2臨時増刊「思春期の心理と行動」)キレるというのは、感情が爆発することです。感情が大爆発しないためには、感情を小出しにすることが必要です。親や教師に向かって、はっきりと文句を言い、普段から自分の感情を出せる子供は、悪い子供とよばれるかもしれませんが、感情が大爆発してキレることは少ないでしょう。
一方、普段から自分の感情を押し殺している子供は、普通の子と呼ばれるかもしれませんが、感情が限界まで達したときに、大爆発を起こし、キレてしまうかもしれません。
人は、自分の感情をコントロールし、爆発しないように、適度に言葉にして表現することが必要です。大人は、子供が安心して感情表現できるような環境を作らなくてはなりません。
篠田氏(聖路加国際病院心療内科)は、「小さいときから喜怒哀楽を自由に出させること、愛情を持って接してあげること」が必要だと述べています。(週刊女性96.2.17より)
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