太平洋に流れ込む福島原発事故の放射能、鮫川などの河口域には膨大な量の放射能が堆積している。
グリーンピースは東電福島原第一発事故で放出された放射能の淡水域と海水域の堆積を調査した結果、巨大な放射能の貯蔵庫になっていることがわかったと報告。
http://www.greenpeace.org/japan/Global/japan/pdf/20160721_AtomicDepths_JPN.pdf
水に沈む放射能 東京電力福島第一原発事故から5年 淡水域および海水域の堆積物に対する放射能調査と分析
2016年3月に発表したグリーンピースの報告書 『循環する放射能』で詳述したとおり、2011 年3~4月における大気中への放射能放出と地上への沈着の結果、原発事故の影響を受けた福島県内全域と隣接地域の山岳部の森林と淡水生態系は、巨大な放射能の貯蔵庫となっている。森林地帯に沈着した放射性セシウムの一部は、事故発生直後以降、雨水などで急速に洗い流されて河川など水系へと移動した。放射性セシウムの残りは、森林の集水域と淡水系中に貯えられて、長期間かけて再循環したり、低レベルで下流に向けてゆっくりと移動したりする。河川は、放射性セシウムを下流に運ぶ。粒状物に吸着したセシウムが、 ゆっくりとした流れではウォーターカラム(水面から底までの垂直な部分)から流れ落ち、川底に堆積し、大雨が降ったときや、雪解けの季節には、それが再度舞い上がる。汚染された森林と土地は広大なため、河川を介してのセシウムの再分配の影響は極めて重要だろう。
出典:水に沈む放射能
http://www.greenpeace.org/japan/Global/japan/pdf/RadiReloaded_JP_print.pdf
循環する放射能 東京電力福島第一原発事故の生態系への影響(抄訳)
河川で運ばれた放射能は河口域の塩分でセシウムが分離、海水にまざり危険な影響をおよぼす。
放射性核種が下流に移動 することによって生じる結果の1つは、福島県沿 岸の河口域の汚染である。河川から豊富な栄養分 が流れ込むのに加えて、強い沿岸流の影響を直接 受けにくいため、河口域は、多くの魚、貝や甲殻 類、海生動物によって、餌場や繁殖地として利用 される。セシウムが付着した水中を浮遊する粒 状物の一部は川岸に堆積するが20、鉱物に吸着し た放射性セシウムの多くの部分は河口域に移動す る21。C. Chartinら(2013) が明らかにしている ように、河川流域の集水域は、河口域と沿岸地域 に放射性セシウムを延々と供給し続ける供給源と なる。粒子状のものに付着したセシウムのうちご く一部は、河川が海に注ぎ込み水中の塩分濃度が 高まると、水中を浮遊する粒状物から脱離する。 河川により運ばれる放射能の総量が膨大なため、 それに占める割合がごくわずかであっても、脱離したり溶けたりしたセシウムの量はきわめて大き なものとなり、「海洋生物相内に容易に蓄積され る」可能性がある。
出典:水に沈む放射能
福島と隣接県の河川水系と沿岸地域
サーフィングポイントや海水浴場のある鮫川河口付近のサンプリング調査で高いレベルの放射性セシウムの沈殿が確認された。
グリーンピースが行なった海洋調査は、過去5年 間に行なわれたいくつかの科学的な調査の知見 を追認するものとなった。測定とサンプリング の結果、鮫川河口域付近での調査とサンプリン グの結果、高いレベルの放射性セシウムが確認 された。東京電力福島第一原発から南に約60キ ロメートルにあるいわき市小名浜港の南の鮫川河 口域では、サンプル中のCs-137は52~120Bq/ kg、Cs-134 は 8.9 ~21 Bq/kg であった。ま た、新田川と夏井川河口域では、Cs-137は11 ~27Bq/kgであった。比較して、日本海側の海底 土のセシウムの濃度は0.25Bq/kg程度である。
出典:水に沈む放射能
福島第一原発から60kmも南の鮫川河口付近の放射性セシウムの総量は原発の沖合2kmの所とほぼ同じだった。
海洋調査の結果での最大線量は、原発から60km南にある鮫川河口で採取したサンプルの144Bq/kg(セシウム134とセシウム137の合計値)でした。実は、この値は福島第一原発から2キロのところで採取した数字と一緒だったのです。これまで、グリーンピースは何度も伝えてきたことの1つですが、放射能汚染のレベルは距離によって決まるものではない、ということがよくわかります。
鮫川河口の南にある勿来海水浴場がいわき市の海水浴場として7月17日にオープン。
いわき市の勿来、四倉の両海水浴場で16日、海開きが行われた。福島地方気象台によると、いわき市小名浜の最高気温は26.2度で、平年よりやや高め。勿来海水浴場では、地元の高校生がフラダンスを披露して海開きを祝い、待ちわびていた海水浴客が勢いよく海に飛び出していった。
東日本大震災の後、いわき市の海水浴場は、安全性が確保できないといった理由で一時、開設が見送られたが、勿来は2012年、四倉は13年に再開した。昨年の市の海水浴客は約5万9000人で、震災前の約7%にとどまっている。
福島県などの沿岸に放射性セシウムが蓄積されるのは明らかだ。人や生物に及ぼす危険な影響はまだ十分に解明されていない。
今回のグリーンピースの調査結果は、海中堆積物の放射性セシウム汚染は、福島県内の陸上に比較して優位に低いことを示している。これ は、東電福島第一原発が強い潮流のある広大な太平洋に面していることが要因である。このよ うな条件下の放射性セシウムは、堆積物に沈着したものも含めて、陸上生態系への沈着と比べ てより早く混ざり合い、拡散しやすい。とは言え、底生生物を含め、生物と海洋生態系に影響を及ぼす沿岸の堆積物に放射性セシウムが蓄積していることは明らかだが、その影響はいまだ十分に研究されておらず、理解からも程遠い。
出典:水に沈む放射能
日本政府は予防原則に則って、人々の健康と環境を守るために最前線に立ち、迅速に行動する義務がある。つまり、汚染水の計画的海洋放出や、高濃度に汚染された地域の避難指示解除といった、原発事故の影響をさらに深刻にする現在の政策を撤回すべきである。
出典:水に沈む放射能