「目黒のさんま」は東京新聞と小熊英二氏は「マスコミ信頼度ランキング」を紹介。
焼きたての美味いさんまは「目黒に限る」(落語)、東京新聞が信頼度でトップになったのは大手の間違いのない慎重な記事よりも、脂と骨が豊富でオリジナルなシャープな報道ができるからだ。
「目黒のさんま」という落語がある。ある殿様が、鷹狩(たかが)りで立ち寄った目黒で、焼いたさんまを食べた。お城暮らしでは出会えない味に魅了された殿様は、家来にさんまを出すよう所望する。だが家来たちは「間違いがあってはいけない」と慎重になってしまう。そして日本橋の魚河岸から仕入れたさんまを蒸して脂を抜き、骨を全部取って出した。殿様は「まずい」と驚き、仕入れ先を聞く。日本橋という返答に、殿様が「さんまは目黒に限る」と述べて落ちがつく。
こんな話をするのは、昨今の報道に、これに通ずる傾向があるからだ。たしかに「間違い」はない。人手も予算もかけている。しかし「まずい」のだ。
ときどき、へたに人手や時間をかけるより、少人数で素早く作った方が、シャープな番組や記事ができることがある。「どこからも文句が出ないように」という姿勢でチェックを重ねたりすると、それこそ脂と骨を全部抜いたような報道になったりするからだ。この問題は、組織が大きくなると起こりやすい。
雑誌に外国人記者による「日本のマスコミ信頼度ランキング」が出た〈1〉。1位は東京新聞で、以下に産経新聞・朝日新聞・毎日新聞・日本経済新聞・読売新聞・NHKが続く。概して、組織が小さいメディアが上位に、大きいメディアが下位に並んでいることがわかる。
日本のメディアはジャーナリスト達の間で「連帯」と「独立」が足りずミスを攻撃しあい権威に媚びているからだと国連の人権理事会の調査員が指摘。
大手の方が保身的だという傾向はもちろんある。だが国連人権理事会特別報告者として来日したデービッド・ケイは別の原因を指摘する。それは「連帯」と「独立」の欠如である〈2〉〈3〉。ケイはいう。日本では「ジャーナリスト間での仲間意識が感じられません」。主要メディアは自社の特権を守るため、独立系メディアを記者クラブから排除している。そこにはジャーナリストどうしが連帯する仕組みがない。連帯意識がないから、ミスを犯すと、他の記者や他の新聞社から攻撃をあびる。彼らは連帯して権威と闘うよりも、それぞれが権威に頼ることを選びがちとなってしまう。
つまり連帯がないから、独立もできない。この傾向は、大手としての権威に頼っていたメディアの方が強いだろう。
(中略)
旧来型のスクープ報道は、ネットの台頭とともに、意味を失いつつある。この状況で大手メディアに強みがあるとすれば、組織的な調査力と分析力しかない。それを活(い)かすには、他者を出し抜くより、他者と協力することが重要だ。
21世紀の報道は、そうした連帯なしには展望できない。またそれなしには、政治家の一言一句に萎縮し、「目黒のさんま」の家来のような「まずい」報道を続ける状態から抜け出せないだろう。
見過ごしたら明らかにならない、ここでしか読めない、発表ものではない独自の報道をするのが「オリジナルジャーナリズム」で、東京新聞と毎日新聞の割合が高い。
「オリジナルジャーナリズム」。これは「ここでしか読めない」や「放っておいたら明らかにならない」といった基準を満たした独自報道のことで、発表モノや発生モノなどありふれてコモディティ化した「コモディティニュース」とは正反対の概念だ。6月の各紙朝刊1面を比べたところ、記事全体に占めるオリジナルジャーナリズムの割合が最も高いのは、毎日新聞と並んで東京新聞であることが分かった(記事本数ベースで算出)。
(中略)
国民生活に重要な影響を及ぼすと考えられるにもかかわらず、放っておいたら決して明らかにならないニュースを掘り起こすのはオリジナルジャーナリズム。鋭いニュース解説や衝撃的なルポもやはりオリジナルジャーナリズムだ。「貧困の『実相』」は簡単にはまねできないルポであり、東京新聞でしか読めない。
オリジナルジャーナリズムの割合で各紙を比べるとどんな違いが出てくるのか。6月の朝刊1面ベースで見ると、大きく上位グループの東京(32%)、毎日(32%)、産経(31%)、下位グループの日経(24%)、読売(22%)、朝日(21%)に区分けできる。外国人記者による信頼度ランキングと同様に、東京と産経がそろって上位なのは興味深い。
出典:外国人記者は、なぜ東京新聞を「ダントツ信頼できるメディア」に選んだのか~独自記事の数から分析してみた 東京新聞がトップ!外国人記者が選んだ「日本の信頼できるメディア」 http://sharetube.jp/article/3616/ 外国人記者は、なぜ東京新聞を「ダントツ信頼できるメディア」に選んだのか~独自記事の数から分析してみた 牧野 洋の「メディア批評」 現代ビジネス [講談社] 牧野 洋の「メディア批評」