【洒落怖】やまわら(海・中編)

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『やまわら』

751 :本当にあった怖い名無し:2011/11/03(木) 18:40:03.91 ID:XNK0L8ee0

小学4年か、5年の夏休みだったと思う。

両親の仲がうまくいかなくなり、色々あって、半月あまり父親の実家に預けられた。

祖父も祖母も優しくしてくれたので寂しくはなかった。

特に祖父は、釣りの好きなオレを気に入ってくれていた。

(どうもオレの父親は、釣りが好きじゃなかったらしい)

今日は朝方○×の港、明日は夕方△□の磯、

そんな感じで色々な釣り場で釣りの秘訣を教えてくれた。

「アキ(←オレ)はなかなか筋が良いわ、タケ(←父)は全然駄目だったがな・・・」

そう言って笑う祖父の顔を見ると、オレも嬉しくなる。

自分でも色々工夫するし、自然に釣りが上手くなった。


752 :751:2011/11/03(木) 18:43:33.96 ID:XNK0L8ee0

そんなある日、祖父と一緒に夜釣りに出かけた。

何度か連れて行ってもらった場所だから勝手は知ってる。

さっさと支度して仕掛けを投げこみ、クーラーボックスに2人並んで座り、

祖母が作ってくれたおにぎりを食べていた。

満月から少し欠けた月が明るくて、風が涼しい。

「明る過ぎる、今夜は難しいかなぁ」と祖父は言ったが、

ひっきりなしにアタリがあって、大きなアナゴ、チヌ、それから外道ででかいノコギリガザミ。

2個目のおにぎりを食えないほど忙しい釣りになった。


しかし、9時を過ぎた頃、急にアタリが止まった。

それに何となく変なニオイがして、気分が悪い。

「じいじ、何か変なニオイがしない?」と聞くと、

祖父は「アキ、これから俺が良いと言うまで絶対喋るなよ。

    それと、誰に何て言われても絶対振り向くなよ」と言う。

そして、小さい声で念を押す。

「良いか、絶対だぞ」

俺が小さくうなずくと、背後から足音が聞こえてきた。


754 :751:2011/11/03(木) 19:03:14.20 ID:XNK0L8ee0

それはどうやら草むらをかき分けて近づいてくる。

足音が近づいてくるにつれ、嫌なニオイが強くなった。

「よう、良く釣れてるな」

嗄れた声が響いた。風邪をひいた子供のような変な声。

「わしと組んだらもっともっと釣れるぞ、どうだ?」

祖父は声が聞こえていないように黙って海を見ている。

とても怖かったが、オレも黙って海を見ていた。

「あれ、こいつは何だ?」

声がオレの背後から聞こえた。

ブタが鼻を鳴らすような音がして、気配が更に近づく。

ニオイがすごくて吐きそうだが、両手を握り何とか耐える。

「まだ小さいが、良い手じゃのぉ。なぁ、わしと組まんか?」

声はもう、オレの右耳のすぐ後から聞こえてくる。

今にも肩に手をかけられるような気がして体が硬くなる。


755 :751:2011/11/03(木) 19:05:16.29 ID:XNK0L8ee0

怖くて怖くて泣きそうだったが、必死で黙っていたら、

祖父が釣り具箱の中から煙草を取り出し、火を点けた。

そして大げさに、ふーっ、ふーっと煙を吐くと、

その声が「ん~・・・げごご・・・ごっ!」と言ったきり、

背後の気配が急にパタリと消えてしまった。

祖父が「アキ、もう良いぞ」と言うので恐る恐る振り向いたが、

何もいない。ニオイも全然しない。

「あれはな、やまあら(やまわら?)だ。

 あれの姿を見ると魅入られる。あれと一緒に行くと魚は沢山釣れるそうだが、

 一度魅入られると逃げられない。

 毎晩毎晩、それこそ死ぬまで、釣りに連れ出されるそうだ」

「妖怪とか精霊みたいなもの?」と聞くと、

「まぁ、そんなもんだ。魔除けに持ってて良かったが、

 煙草なんぞ吸ったから気分が悪い。もう帰ろう。」と言う。


756 :751:2011/11/03(木) 19:08:57.94 ID:XNK0L8ee0

海岸線に停めた軽トラに向かって細い道を歩いていると、

祖父は「前にあの声を聞いたのはいつだったかな・・・タケが中学生・・・

    もう30年も前になるか」と呟いた。

そして、「まだあんなものがこの世にいるとは思わなかった。

     アキは運が良かっ・・・いや、あれ、怖かったか?」と言う。

「うん、怖かった。とっても怖かった」とオレが答えると、

祖父は「じゃ、もう釣りは嫌か?」と心配そうに聞く。

今思うと不思議だが、怖くて釣りを止めようとは思わなかったから、

「嫌じゃないよ。あんなの滅多に出ないでしょ?」と答えると、

祖父は「そうか、アキは強いな」と笑って、オレの頭を撫でた。

「でもな、釣りにしろ何にしろ、海は怖い所だ。

 それを忘れると、海で命を落とすことになるんだぞ」

そう言った時、月に照らされていた祖父の真面目な横顔。

今でも1人で夜釣りをしていると時々思い出すよ。

祖父が肝臓癌で亡くなったのは、もう8年も前のことだが。


766 :本当にあった怖い名無し:2011/11/04(金) 02:19:45.80 ID:Q/0H+uWa0

>>751-756

海の話なのに、出てきた怪がやまわら(山童?)ってのが面白いねえ。

山の者だから自分で魚は釣れないのか。

しかしタバコは万能アイテムだなあ、たしか蛇系にも良く効いたっけ。

爺ちゃんの言いつけをちゃんと聞いて良かったね。

見てしまっていたら、クネクネを見たようになってしまうんだろうか。


767 :751:2011/11/04(金) 03:24:36.44 ID:Ro1DNwfx0

>>766

『やまわら』は、どうも『山童』だね。

このスレに書き込んだら何だか懐かしくなって、久しぶりに祖母に電話したら、

『あれは夏の間やまわら、他はかわわら』って言ってた。

『かわわら』は河童の親戚みたいなものらしい。

海に潜って魚を捕るし、釣りも凄く上手いみたいだよ。


ただ、『アレが捕った魚は片眼が抜かれてるから高く売れん』 。

迷惑そうに『何で今頃そんなこと・・・』って言ってた。

ググったら、沖縄のキジムナーに似た話が沢山あるな。

煙草と嫌なニオイの記述は見あたらないが、多分同じ怪の類だろう。

祖父母の島は九州でも南の端っこに近いからね。

でも、キジムナー退散アイテムは8本足のタコ。

『タバコ』と『タコ』は1字違いだが関連あるのかな?


来年の夏は祖母の家に泊めてもらって釣りをしようと思う。

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