児玉誉士夫邸セスナ機特攻事件「前野光保」とは
児玉誉士夫邸セスナ機自爆事件
児玉誉士夫邸セスナ機特攻事件(こだまよしおていセスナきとっこうじけん)とは、1976年(昭和51年)3月23日に児玉誉士夫の私邸に小型航空機が特攻したテロ事件である。別名を児玉誉士夫邸セスナ機自爆事件ともいう。なお、実際に特攻したのはパイパー社製PA-28機であるが、日本においてはセスナ機は「小型軽飛行機」の代名詞のように用いられることが多いため、この事件名が一般的になっていると思われる。
1976年3月23日午前9時50分頃、東京・世田谷区等々力の児玉誉士夫(当時65歳)宅に、セスナ機が突っ込み爆発した。児玉邸の2階一部が焼けただけで、別室で寝ていた児玉は無事だったが、お手伝いさんが負傷した。庭先にはセスナ機の残骸と、黒焦げになった操縦士の遺体があった。その青年は、ポルノ映画などで活躍していた俳優・前野光保(29歳)だった。
警視庁は「背後関係はなく、前野の単独犯行」と同日中に断定している。
前野は東京・世田谷区に生まれた。実家は布団店である。
小学校高学年の時に劇団ひまわりに入り、子役として活躍。吉永早百合主演の「潮騒」にも出演した。
真面目な性格で、特に英会話の勉強に熱心だった前野は明星学園から法政大学に進学したが、なぜか1年で中退している。
女優・黒澤のり子さんと結婚したのは67年7月。しかし、俳優として大成するために、2年間米・カルフォルニア大学に留学し、演技を学んだ。帰国した後は日活の「ニューアクション」シリーズなどに出演していた。
71年頃からポルノに転向した前野は「前野霜一郎」という芸名で20本ほどの映画に出演。「東京エマニュエル夫人 個人教授」では飛行機を操縦するシーンもあった。
72年、アメリカ人女性と再婚して、女の子をもうけたが、75年に離婚している。
前野が右翼の大物とされる児玉を狙ったのは、彼が左翼思想を持っていたからではない。彼は70年11月に市ヶ谷駐屯地で自害した三島由紀夫に心酔しており、普段から「俺はサムライだ。三島こそサムライ」と周囲に語っていた。
また親しい友人には「飛行機で児玉の家に突っ込んだら面白いだろうな」と漏らし、実際に車で児玉邸を見に行ったりした。
75年2月25日、陸上単発機の免許を取得。
76年2月、前野は新潟県のスキー場で離婚を苦に服毒自殺を図っている。警察の事情聴取に対して、「自分でシナリオを書くために、死を体験する必要があった」と供述した。
「児玉はけしからん。そのうち俺が成敗してやる」
3月13日、児玉氏はロッキード事件で資金を受け取ったとされ、起訴された。前野はそんな児玉を許すことはできなかった。児玉について「利権屋」と断じた。
3月23日、前野は前日に日活の衣装部屋から持ち出した神風特攻隊の制服を着、「七生報国」と書かれたハチマキを巻いて、調布飛行場に姿を現した。飛び立つ前には乗りこみ口でポーズを決めて記念撮影も行なっている。
セスナ機は東に向かい、等々力の児玉邸上空を低空で旋廻した後、そのまま突撃した。その時、彼は無線機に向かって、次のように叫んでいる。
「天皇陛下バンザーイ!」
この事件は海外で「最後のカミカゼ」と報じられたりしたが、国内では特に大きな波紋を残すことはなかった。
きっかけとなった「ロッキード事件」とは
ロッキード事件は、国内航空大手の全日空の新ワイドボディ旅客機導入選定に絡み、自由民主党衆議院議員で(当時)前内閣総理大臣の田中角栄が、1976年7月27日に受託収賄と外国為替・外国貿易管理法違反の疑いで逮捕されたという前代未聞の事件である。政治家では田中前首相の他にも、佐藤孝行運輸政務次官(逮捕当時)や
橋本登美三郎元運輸大臣が逮捕された他、
全日空の若狭得治社長やロッキードの販売代理店の丸紅の役員と社員、
行動派右翼の大物と呼ばれ、CIAと深い関係にあった児玉誉士夫や、
児玉の友人で「政商」と呼ばれた小佐野賢治が逮捕され、
関係者の中から多数の不審死者を出すなど、第二次世界大戦後の疑獄事件を代表する大事件となったものである。
また、この事件が発覚したのは1976年2月にアメリカ合衆国上院で行われた
上院多国籍企業小委員会(チャーチ委員会)における公聴会であったこともあり、
アメリカとの間の外交問題にも発展したことで有名である。
この事件の発覚に先立ち、田中は月刊誌「文藝春秋」1974年11月号に掲載された、立花隆による「田中角栄研究~その金脈と人脈」と、児玉隆也による
「淋しき越山会の女王―もう一つの田中角栄論」でその金権体質を指摘され、
1974年11月26日に自民党総裁辞任表明に追い込まれた。
同年12月9日に首相を辞職した。
なお、田中の辞職を受けて行われた党内実力者の話し合いにより、
椎名悦三郎副総裁の指名裁定で、「クリーン三木」と呼ばれる三木武夫が首相に就任した。
椎名は田中前首相の将来の復活を鑑みて、本格政権になると思われた
有力候補の福田赳夫や大平正芳を回避し、「暫定政権」の含みを持たせて
少数派閥の三木を選んだとされ、実際田中前首相はその後も自民党内で
大きな影響力を持ち続けていた。
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