ツイン・ピークス・リターン、新たに始まったデビッド・リンチ・TWの音楽などあれこれ・・・
かねてより噂のデビッド・リンチ、新しいツイン・ピークスは、既に公開のアメリカでは進み、日本ではwowowが7月22日から独占放映を始めている。大ブームとなった25年前のツイン・ピークスでは、FBIクーパー捜査官(カイル・マクラクラン)がツイン・ピークスにある得体しれない空間(エレクトリック・シティとも言われ、ドッペルギャンガーを起こす)、ブラック・ロッジの化身?ボブが憑依したところで終わり、92年の映画版ツイン・ピークス(ファイア・ウォークス・ウィズ・ミー)では、ローラ・パーマーがなぜ殺害されたのかの7日間を映像で描いたが、謎は深まるばかり。この映画でも、FBI・デズモンド捜査官が消え、その前から行方不明の同じくFBI・フィリップ・ジェフリー捜査官(デビッド・ボウイ)が出てきたら、突然消えてしまった(25年前テレビ放映されていたツイン・ピークスは、例えば放映時間のニューヨーク、レストランからお客が、このテレビを観るため帰宅してしまった、という話も聞いた)。さて、今回の始まったばかりの新作はどうか(現時点で4章を過ぎている)。文句なく面白い。笑い・ユーモア・と不気味さ、エキセントリックなリンチならではの倒錯感、そしてお馴染みのそれぞれの場所で起きる奇妙な事件と時間がズレながら、微妙に重なり合ってくる。これが絶妙だ。クーパー役のカイル・マクラクランによれば、リンチは本作を一気に18時間連続で撮影したそうで、その後、本作のストーリーに照らした編集を入念に行ったそうだ。ネタばれにならぬようにストーリーに触れるが、ブラック・ロッジでローラ・パーマーに会ったクーパー捜査官、「25年目に会いましょう」から始まり、どうも良きクーパーはロッジから出られない。しかし、他にロッジから下界に出て、別の生活をしている2人クーパーがそれぞれいる。やがて、ロッジから出ることができて入れ替わる?このロッジ内の映像が、リンチ極めつけの倒錯アートの世界で、ダークな不気味さが漂う(これは前作ツイン・ピークスにはない。というのも前作は全てリンチの監督ではないから)。まるでリンチのアートで行っている絵画・オブジェ系のリンチ・ワールドの世界である(リンチはドキュメントの証言から影響を受けたアートとして、エドワード・ホッパーのフラットな古き良アメリカの風景画とフランシス・ベーコンの捻じれて歪んだ人体の絵画及び空間の影響を受けたと言い、事実ツイン・ピークス・リターンでもホッパーの絵画構図を利用、ベーコンの歪んだ人物・仕切られた空間を不気味な映像で利用している。もちろん、これは映像で見事に昇華している)。ここで微妙に時間をずらすショットを多用して使い、実に面白い。実生活・下界にクーパーがもどれば、これまた言語も知らない・人間もどき・なのだから、これがカジノ等で繰り出すドタバタがお笑いの超傑作だ。キーワードは「ハロー・・・!」(少しだけ、第2章でブラックロッジの謎に対するヒントがある。これは、ツイン・ピークス警察署の前回では保安官補であった先住民インディオであるホーク副所長に、丸太おばさんから連絡が入る。「丸太が言っている。ロッジはあなたの(ホークの)ルーツに関係してる」と)。
さらに、ここで普通の住人として、リンチの映画「マルホランド・ドライブ」での名演技をしたナオミ・ワッツも出てくる。そして、前章ツイン・ピークスでクーパーが記録用カセットに語りかけていた「ダイアン・・・」。警察に留置されている悪役クーパーが、本物のクーパーであるかの確認にダイアン登場。この役を3時間30分の映画「インランド・エンパイア」ローラ・ダーンが演じている。
さらに前章ツイン・ピークスでの不思議で奇妙な、そしてユーモアのある登場人物は、25年ぶりに・老けながら・もほぼ全員出揃い、これまた感慨深い(トルーマン保安官・マイケル・オントーキンは登場せず、設定ではトルーマンの兄が所長をしている)。
謎はどんどん深まる過程にいるのだが、前章でも極めてその存在感を示して評価を受けたのが、サントラを含めた関連音像・音楽である。不吉で不気味で美しく倒錯した浮遊音像名作曲のアンジェロ・バダラメンティとこれまた浮遊感ある倒錯世界を歌ったジュリー・クルーズを生んだ。今回のツイン・ピークス・リターンも(9月サントラ発売だが)25年後・現在のリンチ選曲として際立った音像を選択している。A・バダラメンティのテーマなどはそのままに、ツイン・ピークスの舞台にもなるライブの酒場・ロードハウス・バンバン・バーで各説話最後の登場するグループも際どい曲者音像を選んでいる(前回のツイン・ピークス、リアルタイムでは皆子供ではないのだろうか)。全てではないことをお断りして、今回にも美しき有能FBI捜査官で登場しているクリスタ・ベル(リンチ好みの倒錯した音像・歌でコラボもしている。リンチの演じるゴードンFBI所長では、ゴードンのお気に入り)。2007年デビューで3人の女性、ガーリー・シンセ・エレクトロ・ポップのオー・レヴォーヌ・シモーヌのファーストから2曲(チープで際どいエレクトロ・テクノでリンチは早くからお気に入りという。リンチ・トリヴュートをしている若手テクノ、クロマティクス。若手カントリー、カクタス・ブロスマス、大物ではナイン・インチ・チャンネルズが重いダークメタル調での音像。NYブルックリン拠点のシンガー・ソング・ライターのシャロン・ヴァン・エッテン等。説話の進行で、もう少し増えるのかもしれない。
もちろん、アメリカの方が話の進行は早いが、これから日本でもツイン・ピークス・リターンの面白い謎が解明されるのだろうと思う。クーパー捜査官を軸にして。いずれ18時間、一挙にT・W・Rを観たいと思う、もちろん高画質で。
デビッド・リンチが影響を受けたアートが分かる。