ETV「告白、満蒙開拓団の女たち」、村人は生き残るために何をしたのか・・・

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ETV「告白、満蒙開拓団の女たち」は、その証言内容があまりにも残酷であり、悲劇に衝撃を受けた。戦争の悲惨さというあまりにも惨たらしい事実を一般化して語るにはお粗末で、なお語るに足りない。生きながらの地獄を体現することになった現在高齢の女性等の今を生き抜いている証言は、何を我々に示し、何を我々はすべきなのだろうか?


ETVはちょうど1年前、昨年の8月5日放映の「村人は満州へ送られた~国策71年目の真実」で、旧満州に国策の満蒙開拓の移民として渡った開拓団の引き上げの際の悲劇を伝えた。村人ほとんどが集団自決、それもお互い殺し合う幇助自決、まるで沖縄のガマ洞窟での惨状だけれど、生き残った少年の証言(赤裸々な証言をしたが既に高齢です。旧満州時には少年は赤子を幇助殺害していた。現在でもこのことを語り継いでいる)により明らかになった。また、敗戦後まもなくの日本人引き揚げ者に対する悲劇は、聞き取り証言・史実として多数存在する。その多くは、加害である立場の日本人が、敗戦という立場の逆転から、被害の側になった無数の体現であった(だが、このような意見も記しておこう。シベリア抑留され帰還した画家・香月泰男は、敗戦抑留帰国後シベリアシリーズの絵画を連作するが、当時のことをこう発言する。「列車の窓から見えた赤い屍。日本兵の皮を剥いだ死体が転がっている。これを酷いと思ってよいのか。我々はこの地(中国)の人々にどれだけの酷いことをしたのか?ここから考え始めなければならない」。つまり日本人として安易に被害に転嫁せず、まず加害の事実を直視して、これからどう生きるのか、敗戦後を考えるべきだと・・・。

しかし今回の「告白、満蒙開拓団の女たち」では(恥ずかしながら今回の事例は僕も全く知らず、しかも3~4年前カミングアウトがあったことすら知らなかった)、加害・被害の図式では括ることのできない、今なお暗澹となる選択肢のない非業さ?がある。黒川開拓団は、他の満蒙開拓団が集団自決をしている最中、生き残るために何の選択をしたのか?


証言したのは92歳、佐藤はるえさん、4年前お亡くなりなった安江善子さん、当時17歳の安江ひさ子さんで、黒川開拓団にいた村人だ。簡単に言うと、移住した村人の生き残る選択としてあることを決めた。敗戦後まもなく、日本人に土地を奪われた中国人が村人を襲う。勝手に家に入り込み、金品を略奪する(これは先に侵略した日本兵が徴発として行ったことであり、土地は満合開拓にそのとき中国人から奪う)。このとき日本軍(関東軍)は早々と満豪開拓民を残し撤退していた。やがて中国人は集団化して黒川開拓団の住居を取り囲み、住居を襲うことは間近に迫っていた。そこで黒川開拓団は村長含めある決断をする。周りの旧満州の日本人村で集団自決が行われているのを知り、自決死ぬのは忍びない、何とか生き延びられないか?何としてでも生き抜こうと決断する。そこで、満洲に侵攻していた3キロ先のソ連軍に武力での助けを求めた。集団化して暴徒いと化そうとしていた土地を奪われた中国人等は、ソ連兵の武器・発砲等で散開した。その後、ソ連兵には夜の見周りもお願する。つまり日本人の護衛・警護だ。するとソ連兵はそのことについて見返りを求める。それは、性の見返りだった。戦地へ夫赴かせ、結婚をしている若い女性は除き、18歳から21歳前後、未婚の若い女性が、ソ連兵を接待する(その事を女性等は知らされていなかった。ただの酒・料理等の接客と思っていた)。接待所を用意し、そこでソ連へよる、無理やり性の接待が始まる。不意打ちの強姦。怒号、そして別棟にいる家族が女性達は泣き叫ぶ声を何度も聞いたという。まるで、誑かされて強制的に従軍慰安婦にされたように(この形容に自分は違和感あるが)。家族がいるのに生きるためと称して村が選択し、自分の未婚の若い女性が無残にも強制的に性の犠牲になった。それは1日に何度も何度も繰り返されたという。証言した安江善子さんは、17歳、妹のひさ子さんが、性の接客を免れるように、1日に多数のソ連兵を受け入れた。ひさ子さんは、接客した女性等の・洗浄係・だったという。ホースが子宮に届くように水を注ぎ洗浄した。妊娠しないよう、病気がうつらないように。この証言も実に生々しい。そして梅毒・淋病等病気もうつされ死去し、帰国できない女性もいた。引き揚げ者、帰国の港となった長崎は、女性等の中絶で診療所が一杯になったという。そして帰国後、女性等は日本でそのことを引きずって生活しなけなければならない・・・。


さらに、この証言を裏付ける、既に亡くなった村長の手記、文書が公表された。ロシア側の記録にも存在するが、当時ソビエト軍は南満州鉄道を接収したザバイカル方面軍第36軍に所属する狙撃兵(囚人含む)が、中国人等を武器で駆逐し、その見返りに接待を受けた。しかし、その文書も長年、女性等接待による・犠牲・をしい、生き延びることが出来た事実は、記されながらも伏せられていた。佐藤はるえさんは、帰国後故郷に帰るが、そこで悪い噂を立てられる。そんな中、やがて、同じ満州帰りの健一さんと結婚、酪農を営み、4人の子供を授かった。その後の黒川開拓団・記念誌制作には、接待の記録を一切載せていない。排除したのだ。接待をした安江善子さん(実は4年前にこのことをカミングアウト)は、子供の出来ない体だった。そのため、洗浄係だった妹のひさ子さんの長男を(泉さん)を養子として、大事に育てた(もちろん泉さんは、ひさ子さんになぜ養子にしたのか問いただしたというが、その後、この養子になる経緯を知ることになる。実の母であるひさ子さんから、母である善子さんの生前何があったかを伝えるテープを受け取り、この実相を確認した)。

佐藤はるえさんは、今も農作業を営んでいる。今まで何事もなかったように、逞しく生き抜いている(もちろん佐藤さんの苦しみは計り知れない)。彼女はこう発言した。


「悲しみは繰り返さないでほしい」・・・と。


生き残るため、生きるための選択として・人間の尊厳・を犠牲にする。しかも当然のことながら彼女たちに同意なんかない。生きるため、と称し、多数性の人々の意思決定・同意・同調は、有無を言わさず強制性を日常化してしまい、抵抗の文字は消失する。しかも熟慮の判断(おそらく考えたでしょう。生きるを前提に)というのに、言葉を失う。


冒頭でも少し述べたが、戦争の常套句として用いてしまう、「戦争とは悲惨なもの、戦争だからこうなる、しょうがない」という一般化はしてはならないと思う。敗戦後の我々は、かけがえのない平和の享受することで、戦争の実相や史実に対する無関心から「どうでもいい」という思考停止をしてしまう(いわゆる、有事の方向性を示す・平和ボケ・ではない)。同時に、上から目線・知ったかぶりでの言葉でしばしば用いられる「戦争って悲惨よね」という相対主義的他人事、・もう一つの思考停止・に陥っては絶対ならない。私たちは、彼女等の証言を傾聴し学び、深く考えることが、戦争の負の歴史を直視した実相、敗戦後、生きながらも黙殺された、この・戦中・敗戦後と2重の死・の重さ、卑劣な理不尽さを知ることになり、さらに、弱い方弱い方へ向かい、女性に地獄の犠牲を強いたことに、戦争時の戦争性犯罪としてもジェンダー・フェミニズムの立場から異議申し立てがあるだろうし、・生きながらの尊厳の死・というべき言葉を思い浮かべること、そして私たちはこのことを・当事者・として心に刻み、佐藤さんの「2度と繰り返してはならない」という言葉を深く噛みしめ、それぞれが何らかの行動をするべきだ。それは、我々が敗戦後の平和を享受する当事者として、それぞれが繋がる長い時間軸でとらえ、この実相を未来に伝えなければならないことも、ひとつだと思う(しかしながら、どのように文面で表現しようとしても言葉が足りないし、涙腺が緩む。こんなこと絶対あってはならないのだ)。しかも、なお彼女等はいま90歳近い高齢でありながら、「このことを伝えたい」と証言したことの辛さと勇気をも私たちの・心の肝・に銘じたい。


最後に、別面からの問題点を述べたい。どうもNHK岐阜はこのETV制作にあたり、他の接待体現した女性等の証言も得ているのだが、相当な時間を編集上のカットしているようだ(ドキュメントとは映像化する際、一定の時間に収まるために編集をする。だから伝わらない実相も実はある)。この証言は、先に女性等、聞き取りを行っていた女性(ノンフィクション作家である平井美帆さん)ジャーナリストによれば(既にこの接待事実を女性自身等掲載)、自分が先に聞き取りをしていたところ、後からNHKがこの問題を聞きつけ、今回のETV番組の証言となる映像制作した。しかもNHK側は初証言ではないにもかかわらず、番組映像上で、「NHKが初めて証言を記録した」となっているようである。しかも他の高齢の女性の重要な証言も欠けているという。どちらが正しいかは別にして、豊富な資金力を使い、番組制作出来るという立場(しかもNHK)と、一人の手弁当で聞き取りを行っているインディペンデントの方と、自ずと立場が異なる。当然、資金力がある方が強者となり、取材での力の差は歴然としている(信頼関係は別です)。

少なくとも、強者の側は、その配慮が必要だったのではないかと思う。文書・記録らの歴史は、しばしば強者の都合による選択をよりなされるが、その欺瞞はいくらでも後から覆る。この・人間の尊厳・に関わる史実としての重要な実相問題は、やっと始まったばかりであり、このことからしても、今後いくらでも新たな証言や記録が出てくる可能性がある。というか、裏付けを持ち、出るだろう。だからこの時間軸から勘案してもNHKはその立場を十分理解し、開かれたETVとして編集・公開してほしいと思う(他にも、未読だが京都大学の猪俣佑介氏によるこの問題を扱った「満洲移民女性に対する戦時性暴力の政治学」がある)。