サッカーにおける守備方法(後編)

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1. 前編のおさらい

 サッカーのチーム守備の方法と種類をまとめるにあたって前編ではその条件3つ(プレスの開始位置の高さ、守備ブロックの幅、マークの方法)を簡単に紹介し、その二つ目まで説明いたしました。(一応、下記に前編のリンクを貼っときます)
今回は最後に残していたマークの方法について説明いたします。

2. マークの方法

マークの方法を説明する前にまず定義を確認しておきましょう。
“Acción de situarse cerca de un contrario para dificultar la actuación de este.”


“las acciones que realizan los jugadores de un equipo, respecto a sus rivales, cuando no se encuentran en posesión del balón.”

出典:El marcaje – WEB-Fútbol

	
”相手の近くに位置して相手の行動を難しくさせること”

”味方がボールを持っていないときに相手選手に関連してとる行動”


となっています。狭くとらえるなら前者で広くとらえるなら後者という感じですね。

その定義をふまえた上でマークの方法についてご紹介いたします。私が通っていたスペインの監督学校では4つに整理されていました。


・マンマーク・ゾーンマーク(ゾーン守備)・ミックスマーク・コンビネーションマーク

これらを順に説明していきます。

3. マンマーク

文字通り人をマークする方法です。基本的に一人の相手選手に対して一人の味方選手が守備の責任を負い、相手選手が連携してポジションチェンジを行ってもマークの受け渡しをせず、そのまま人についていく方式のことです。


 メリット・デメリットとして主なものを整理しておきます。


【メリット】

・各選手の守備責任が明確で簡単に組織しやすい、

・相手ボールホルダーに速やかなプレスをかけられる。


【デメリット】

・ある選手が1対1で負けてしまうと他の味方選手も他の選手についてしまっているので、その穴をカバーするのが難しい。

・相手の動きに対して受け身になるので、ポジションチェンジを利用した攻撃などで後手を踏むことが多い。

・守備選手がボールを奪っても他の味方が相手選手に近いところにいるため、相手も自分らをマークするのが簡単になり波状型カウンターが決まりにくい。

【運用例】

グアルディオラ監督率いるFCバルセロナに対してビエルサ監督率いるアスレティック・ビルバオの試合を挙げておきます。アスレティック・ビルバオはマンマークを基本としています。もちろん状況によっては相手選手二人の中間にポジションを取る場合もありますが、各選手が担当すべきマークが明確になっていて自分たちのプレスが外れたときも予め決められたルールでマークを受け渡しています。

4. ゾーンマーク(ゾーン守備)

人ではなく各選手が担当ゾーンを受け持ちそのゾーンを基本的に守り、もし相手が担当ゾーンに侵入してきたらマークするという方法です。


【メリット】

・スペースを均等に分担することで万が一味方が1対1で負けた場合でも他の選手がカバーに入りやすい。

・ボールサイドに守備ブロックを圧縮して形成することで相手のプレースペースやプレー時間を奪える。

・マークしている人間の動きに惑わされることなく、スペースを管理することで守備の先回りや予測により効率的に守れる。


【デメリット】

・マークの受け渡しの連携が難しい。特に担当ゾーンの間に相手選手がいるときに誰がマークすべきか難しくなる。

・守備ブロックの外でプレーする相手にプレースペースとプレー時間を与えてしまう。

・担当ゾーンに複数の選手が侵入してきたときの対応が難しくなる。

・相手が担当ゾーンに入ってきてからマークするまでの時間を相手に利用されて守備が難しくなる。

・一方のサイドに幅を圧縮し逆サイドにボールを展開されると広大なスペースを利用され守備が難しくなる。

【運用例その1】

1974年ワールドカップのオランダ代表。相手選手の位置に関係なく極端な幅の圧縮と積極的なプレスをかけています。ゾーンマークというと待ち伏せ守備のイメージが強いですが、これもれっきとしたゾーンマークです。↓

	
【運用例その2】

アリゴ・サッキ監督によるACミラン。守備ブロックを形成し、相手ボールホルダーへのプレスの強度によってDFラインと中盤のラインを上下させています。↓

	

5. ミックスマーク

 局面や状況によって各々の選手がマンマークとゾーンマークを使い分ける方式で、現代サッカーの主流となっている守備方法です。
【メリット】

・マンマークとゾーンマークの長所を生かし、短所を最少化できます。


【デメリット】

・スペースを守るべきか、人につくべきかの判断と決断が個々の選手に高度に要求され、個人や連携の習熟に時間がかかります。

【運用例】

相手ボールホルダーがゾーン3のサイドにいる場合にボールサイドをマンマークにし、逆サイドではゾーンマークにする例があります。具体的には先日のスペインリーグでのレガネスとFCバルセロナの試合を挙げます。レガネスの右SB(青白ユニ)がゾーン3でボールを持っているときにバルサFWのムニル(黄色ユニ)は担当ゾーンに撤退せず相手CBをマークしています。レガネスの中盤の選手がフリーになっていますが、中盤のブスケツ(5番)がマークする動きをみせています。

 ゾーンを圧縮してプレースペースを最少化するのみならず、相手のボールの出口を閉じてしまうという守り方です↓

6. コンビネーションマーク

ポジションによってゾーンマークとマンマークを混在して守る方式。例えばDFラインの選手はマンマーク、MFラインの選手はゾーンマーク、あるいは中央の選手はゾーンマーク、サイドの選手はマンマークという具合です。ミックスマークとの併用もありえます。


【メリット】

・相手チームにとって最重要な攻撃選手をマンマークすることで相手のプレーを無効化できます。

・個々の選手の戦術理解力にあわせて柔軟かつ速やかに守備を構築できます。


【デメリット】

・マンマークとゾーンマークの境界を相手に狙われると守りにくくなります。例えばマンマークするエリアでスペースをつくられ、ゾーンマークにいた相手選手が相手の担当ゾーンから離れてそのスペースを利用すると混乱が生じます。

・ゾーンマークとマンマークの組み合わせによっては両方の長所ではなく両方の短所を相手に晒してしまう危険があります。


【運用例】

人とスペースの駆け引きが高度化されている最近のサッカーにおいてこの方式を採用されることはあまりなくなりました。ただしコーナーキックなどのセットプレーにおいてはマンマークとゾーンマークを併用している例は多いです。例えば2017-2018 UEFAチャンピオンズリーグのFCバルセロナとASローマの試合のコーナーキックを例に挙げます。↓

2017-2018 UEFAチャンピオンズリーグ FCバルセロナ対ASローマ

			
赤丸で囲んだ選手がゾーンマークで青丸で囲んだ選手がマンマークをしています。

7. 最後に

ここまで守備の方法と種類を整理してきましたが、一番誤解を解きたかったのは以下のことです。


・純粋にゾーンマークしかしないチームや純粋にマンマークだけをするチームは現在の高いレベルのサッカーではほぼ存在しない。・ボールにプレスをしないことがゾーンマークではない。ゾーンマークを採用しているチームでも必ずプレスを開始すべき位置がある。

また私自身も欧州の全てのサッカーを知っているというわけではないし、反論や反例などあればお気軽にご連絡いただけるとありがたいです。


【今回の内容で参考にしたもの】↓
 		

出典:2017-2018 UEFAチャンピオンズリーグ FCバルセロナ対ASローマ

	
 		

出典:2018-2019 スペインリーグ レガネス対FCバルセロナ

	

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Sharetube