「冤罪なのか?」大崎事件とは
大崎事件
大崎事件(おおさきじけん)は、1979年10月、鹿児島県曽於郡大崎町で起こった事件。殺人事件として有罪が確定したが、死亡原因は殺人ではなく、転落による事故であるため殺人罪は冤罪である、との主張がある。
詳細
1979(昭和54)年10月15日午後2時ごろ(大隅半島の中央に位置する)鹿児島県曽於(そおぐん)郡大崎町井俣の農業・中村邦夫さん(当時42歳。中村家の4男)が、自宅牛小屋の堆肥の中から腐乱死体で発見された。邦夫さんは、3日前の夜泥酔して自宅から約1キロ離れた用水路の中に自転車とともに倒れているところを、通りがかった村人に引き上げられて家まで軽トラックで送り届けられた後、所在不明となり、捜索願が出されていた。警察は、当初から近親者の犯行と見て捜査を開始し、10月18日、同一敷地内に住む長兄(中村家の長男)の中村善三さん(当時52歳。服役後の93年10月に病死)と次兄(中村家の二男)の中村喜作さん(当時50歳。服役後87年4月自殺)を、続いて27日には喜作さんの長男の中村善則さん(邦夫さんのおい。当時25歳。服役後の01年5月自殺)を、さらに30日には善三さんの妻であった原口(当時中村)アヤ子さん(当時52歳。11年9月現在84歳)ら4人を殺人と死体遺棄(善則さんは死体遺棄)で逮捕した。
原口さんは一貫して否認したが、他の3名は自白、11月1日に起訴、また原口さんも3名の供述を元に11月20日起訴された。
原口さんと他の3人は別々に起訴され(裁判官の構成は同一)、起訴日は違うものの、検察のストーリーは、公訴事実は同一で、原口さんが首謀者となって酒乱の邦夫さん殺害による保険金取得を謀議し、原口さん、夫の善三さん、義弟の喜作さんの3人で、邦夫さんを押えつけたうえ西洋タオルで絞め殺し、原口さんと甥の義則さんで牛小屋堆肥に死体を遺棄したというものであった。
原口さんは終始一貫否認したが、80(昭和55)年3月31日鹿児島地裁は双方の事件について、「頸椎(けいつい)前面に出血があることから首に外力が働いた。他殺による窒息死と想像する」とする城哲男鹿児島大医学部教授(当時)の鑑定書と、殺害・死体遺棄を実行したとする共犯者とされた原口さんの夫・善三さんら3人の自白を根拠に、「原口さんと兄2人が殺害。善則さんも死体遺棄に加わった」として、全員に実刑を宣告した。
判決は、保険金目あてという裁判中に崩れてしまった動機については検察主張こそ排斥したが、その他は検察主張を認め、主犯格とされた原口さんが懲役10年、夫の善三さんが懲役8年、義弟の喜作さんは懲役7年、甥の善則さんは懲役1年の各実刑を言い渡した。
原口さん以外の他の3名は控訴せずに服役。原口さんは控訴・上告して争ったものの、福岡高裁宮崎支部は80年10月14日、最高裁判所は翌81年1月30日、いずれも棄却した。
原口さんは、再審をめざして仮出獄を拒否し、90年7月17日の刑期満了まで服役した(善三さんと90年7月23日協議離婚)。
原口さんは獄中からも無罪を訴え続け、服役後(出所後)の95(平成3)年4月19日に、また死体遺棄罪で懲役1年の刑を受けた服役後、無実を訴えた善則さんが97年9月19日に、鹿児島地裁にえん罪を訴えて再審開始を求めた(01年5月死亡により母親のチリさん〈01年当時73歳〉=同県志布志町志布志=が再審を継承。02年4月1日チリさん死亡)。
争点
自白の信憑性
第1次再審請求(2002年)
再審請求を受けて鹿児島地方裁判所は長兄の嫁と甥の2人に対し2002年3月26日、再審開始を決定したが、2004年、甥の再審請求を引き継いでいた母親が死亡。甥については請求の引継ぎ者がなく、再審請求は長兄の嫁のみとなる。即時抗告において福岡高等裁判所宮崎支部は2004年12月19日、再審開始決定を取り消し。特別抗告において最高裁判所は2006年1月30日、即時抗告審の取り消し決定を支持した。
第2次再審請求(2010年)
2010年8月に長兄の嫁(実名を公表している)によって第2次再審請求が行われた。再審請求は嫁のみとなっている状況が続いていたが、2011年8月には死亡した元夫の遺族も再審を請求した。第2次再審請求では共犯者の自白調書の疑問をつくための供述心理分析意見書を新証拠として提出している。また、弁護側は2012年12月、検察側が作成した未開示の証拠リストの開示を求める意見書などを鹿児島地裁に提出した。2013年3月6日、鹿児島地裁は長兄の嫁及び死亡した元夫の遺族の再審請求を棄却した。弁護側は即時抗告した
元被告の再審請求を棄却(2014年)
アヤ子さん(87)の再審請求について、福岡高裁宮崎支部(原田保孝裁判長)は15日、請求を棄却する決定をした。弁護側は最高裁に特別抗告する方針。再審請求審では共犯とされた親族3人(いずれも故人)の自白の信用性が焦点となった。原田裁判長は「新証拠を踏まえても、大筋において信用できる」などと判断。「確定判決の事実認定に合理的な疑いは生じない」と結論づけた。
共犯とされ、殺人罪などで有罪(懲役8年)が確定した原口さんの当時の夫(故人)の再審請求も棄却した。
原口さんは逮捕時から一貫して無罪を主張。しかし、共犯者の3人が原口さんの関与を自白し、81年に最高裁で懲役10年が確定。服役後の95年に再審を請求した。
鹿児島地裁は2002年に再審開始を決めたものの高裁が取り消し、10年から第2次請求審が始まった。鹿児島地裁が昨年3月に請求を棄却し、原口さんが即時抗告していた。
昨年5月に始まった即時抗告審では、検察側から指紋の鑑定書や捜査写真のネガなど計213点の未開示証拠が開示された。確定判決とは異なる殺害方法が記された共犯者の取り調べ時のノートなどから、弁護団は「共犯者は知的障害があり、自白は捜査員の誘導によるもので信用できない」と訴えていた。
また、即時抗告審で高裁は弁護団の求めに応じ、鑑定書を作成した専門家の証人尋問を実施。法医学者は遺体の所見が確定判決の殺害方法と矛盾すると指摘。自白を分析した心理学者は「体験に基づかない供述の可能性が高い」と述べ、信用性が乏しいと証言した。
一方、検察側は「自白は具体的で整合性があり、信用性に疑いはない」と主張して、再審請求の棄却を求めていた。
【ドキュメンタリー】あたいはやっちょらん 鹿児島大崎事件「再審格差」
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