裁判員裁判で「死刑」になったのに量刑が見直された事件
南青山マンション男性殺害事件
住所不定無職・伊能和夫は2009年11月15日午後3時ごろ、東京都港区のマンションで金品を強奪するために飲食店経営の五十嵐信次さん(当時74)方に侵入。部屋にいた五十嵐さんの首を刃物で突き刺すなどして殺害した。伊能は事件後に地下鉄で台東区内に移動し、同16日夜に上野公園前で酒に酔って暴れているのを上野署員に保護された。
翌17日に上野署を出たが、同署前の掲示板に投石し、器物損壊容疑で現行犯逮捕された。その後、伊能の靴底に男性のものとみられる微量の血痕が付着しており、マンションの手すりには伊能の指紋があり、付近の防犯カメラに伊能と酷似した男が写っていたことから、伊能を強盗殺人容疑で2010年1月20日に再逮捕した。
伊能は2009年5月に出所し、埼玉県内の生活保護受給者用施設で寝泊まりしたり、建設現場で働いたりしていたが、事件当時は仕事をしていなかった。
一審(2011年3月15日 東京地裁 吉村典晃裁判長 死刑判決)
裁判焦点 裁判員裁判。伊能和夫被告は逮捕当初から黙秘している。
2011年2月24日の初公判で、伊能は罪状認否で、名前からすべてについて証言台の前で直立したまま無言を貫いた。このため、吉村裁判長が検察官に、「法廷にいる者と被告の同一性を明らかにしてください」と指示。検察官が、器物損壊容疑で逮捕された際に撮影した伊能被告の写真を提示し、「被告本人です」と述べた。
検察側は冒頭陳述で、伊能が事件当日に包丁を購入し、男性の自宅マンション前をうろついていたと主張。玄関と窓を開けたまま昼寝をしていた男性の部屋へ侵入し、包丁で首を刺して殺害した後、室内を物色して逃走したと述べた。そして現場から被告の指紋などが見つかった、被告の靴底に男性の血液が付着していた、マンション付近の防犯カメラに被告が写っていたことから「被告が犯人である」と主張した。
弁護側は「事件当日、現場には行っておらず、殺害もしていない」と無罪を主張した。
3日の被告人質問では弁護側が「質問はございません」と述べ、検察側質問に移った。伊能被告は裁判長の「椅子に座って」との呼びかけに無言で応じたが、検察官が「声が聞こえているか」「質問されていると分かるか」と呼びかけても、目をつぶり下を向いて黙り続けた。
4日の論告で検察側は、現場室内から被告の掌紋が見つかったことや、被告の靴底に付着していた血液が男性のDNA型と一致したこと、犯行時刻前後に近隣の防犯カメラで撮影された被告とみられる男の映像などから「間接証拠を総合すると被告が犯人なのは明らか」と指摘。その上で「身勝手極まりない動機から何ら落ち度のない男性を殺害した。犯罪傾向は極めて深刻で改悛の情はみじんもなく、死刑選択はやむを得ない」と述べた。
同日の最終弁論で弁護側は、「被害者宅は玄関が無施錠だった。被告は被害者が何者かに殺害された後に空き巣目的で入った可能性がある」などと反論。「黙秘は憲法で保障された権利で、不利に考慮してはならない」と述べた。
判決で吉村裁判長は、現場から被告の掌紋が検出され、被告の靴底に被害者の血痕が付着していたことなどから「状況証拠を総合すると被告が犯人と認められる」と有罪を認定した。そして「出所して半年で冷酷非情な犯行に及んだ。自分の利益だけを考え、人の命という最も重要な価値を軽く見た冷酷非情な犯行。2人殺害の前科は特に重視すべきで、生命をもって罪を償わせるほかない」と述べた。
2012年7月17日の控訴審初公判で、弁護側は「被告と犯行を結びつける直接証拠はない。被告は犯人でない」として無罪を主張。仮に犯人だとしても、「被害者が1人であることなどを考えると、死刑を選択すべき事案ではない」と訴えた。検察側は控訴棄却を主張した。
黙秘の被告に死刑判決。 裁判員4例目「前科を重視」(2011年3月)
妻子に対する殺人や自宅放火などの罪で服役を終えた後、見ず知らずの男性を殺害したとして強盗殺人と住居侵入の罪に問われた無職伊能和夫(60)の裁判員裁判判決で、東京地裁は2011年3月15日、求刑通り死刑を言い渡した。裁判員裁判の死刑判決は4例目。被告は一貫して黙秘していた。裁判員は男女3人ずつ。吉村典晃裁判長は「出所して半年で冷酷非情な犯行に及んだ。刑を決める上で前科を特に重視すべきだ」と述べた。
弁護側は男性方が無施錠だったとして「被告以外の誰かによる犯行」と無罪を主張していた。即日控訴した。
判決は、現場から被告の指紋が見つかったことや、被告の靴底に男性の血液が付着していたことなどから、被告による男性方への侵入を認定。
さらに、被告が事件直前に購入した包丁の形状と男性が刺された傷の跡は矛盾しないとして「限られた時間帯に被告以外の者が殺害した可能性は極めて低く、被告が強盗殺人の犯人と認められる」とした。
裁判員の死刑破棄。完全黙秘の男、二審は無期―東京高裁(2012年6月)
2009年に東京都港区のマンションで男性を殺害したとして強盗殺人などの罪に問われ、一審東京地裁の裁判員裁判で死刑とされた無職伊能和夫(62)の控訴審判決が20日、東京高裁であった。
村瀬均裁判長は一審判決を破棄し、無期懲役を言い渡した。控訴審が裁判員裁判の死刑判決を覆したのは初めてとみられる。弁護側が控訴していた。
伊能は捜査、一審を通じて完全黙秘し、控訴審にも出廷しなかった。弁護側は無罪を主張していた
一審判決は、現場から採取された伊能被告の掌紋や、靴底に付着した被害者の血液などから犯人と認定。その上で、伊能が過去に妻子を殺害し、20年間服役したにもかかわらず、出所後半年で犯行に及んだことから、死刑はやむを得ないと判断した。
松戸女子大生殺害放火事件
2009年10月、千葉県松戸市のマンション2階で火災が発生し、焼け跡からこの部屋に住む千葉大学園芸学部4年の女子大生(当時21歳)が全裸のまま遺体で見つかった。遺体を調べた結果、刃物による傷があったため、殺人事件として警察は捜査。その結果、事件後に現金自動預け払い機の防犯カメラから女子大生のカードで現金2万円を引き出す男の姿が映っていた。警察はこの男の洗い出しを進め、すでに別の強盗・強姦事件で逮捕されていた住所不定・無職の男(当時48歳)が強盗殺人並びに現住建造物放火などの容疑で逮捕された。被告は1984年と2002年にそれぞれ強盗や強姦事件により懲役7年の判決を受けて、2009年9月に刑務所を出所してからわずか1か月半だった。強盗傷害などと合わせて起訴された。その後、2011年6月の千葉地裁の裁判員裁判において、千葉県松戸市で被告が被害者のマンション宅に侵入して包丁を突き付けて現金約5000円とキャッシュカードを脅し取り、胸を刺すなどして刺殺した後に証拠隠滅のため22日に火を放ったと認定。争点となった殺意についても強い力で殺意をもって胸を刺したとした。
死刑をもって臨むのが相当
1、2審判決によると、竪山被告は21年10月20日夜ごろから21日未明にかけて、松戸市のマンションの荻野さん宅に侵入。包丁で脅して現金などを奪った上、胸を刺して殺害。翌22日には、証拠隠滅のため現場に戻り、室内に放火するなどした。
竪山被告は、強盗致傷などの罪で懲役7年の判決を受けて服役。21年9月1日に満期出所し、わずか約1カ月半後の犯行だった。
裁判員裁判によって行われた1審では、荻野さんが殺害された、いわゆる「松戸事件」の前後に、竪山被告が強盗致傷や強盗強姦を繰り返していたことなどを重視。「松戸事件」以外の犯行でも刃物を使用しており、場合によっては他の事件でも被害者の生命身体に重篤な危害が及ぶ危険性があった、として「死刑をもって臨むのが相当」と結論づけた。
無期懲役
「今日は4年前、友花里が竪山に殺されて燃やされた日です。昨日、高検から上告という知らせを受けて、友花里の日に上告していただいて、大変うれしく思っております。今回の裁判については全然、納得がいきませんでした」
上告を受けて22日に会見した荻野さんの父、卓(たかし)さん(64)は、報道陣を前に、苦しい胸の内を語った。東京高検が上告した21日は荻野さんが亡くなったとされる日。弁護側が上告した22日は、竪山被告が現場に戻って室内に放火した日だ。
今月8日、東京高裁が言い渡した判決は、卓さんと妻、美奈子さん(61)にとっては信じられないものだった。
「主文、原判決を破棄する。被告人を無期懲役に処する」
高裁の村瀬均裁判長が読み上げた主文の意味するところは「被告に科すべき刑は、死刑ではなく無期懲役」。1審千葉地裁の裁判員裁判が出した判決を覆すというものだった。
長野一家3人強盗殺人事件
長野市内の一家3人が行方不明となっていた事件で、長野県警は14日夜、愛知県西尾市南奥田町の資材置き場から、長野市真島町真島、会社経営金文夫(通称・金沢文夫)さん(62)と長男の良亮さん(30)、良亮さんの内縁の妻楠見有紀子さん(26)の3遺体を発見した。県警は15日未明、金さんら3人の遺体を埋めたとして金さんと同居し、金さんが実質的に経営するリフォーム会社従業員の伊藤和史容疑者(31)ら4人を死体遺棄容疑で逮捕した。
ほかに逮捕されたのは、金さんが実質経営の建設会社従業員松原智浩(39)、同社従業員池田薫(34)(長野市吉田)、金さんの知人とみられる自営業斎田秀樹(51)(愛知県西尾市熊味町下池田)の3容疑者。
発表によると、4人は共謀し、西尾市南奥田町の資材置き場に、金さんら3人の遺体を埋めた疑い。4人のうち3人は容疑を認めている。金さんらは3月下旬から行方不明になっていた。
調べに対し、1人が「3人を殺して埋めた」と供述しているといい、県警は、殺人容疑でも調べる。
今月10日には、金さんのリフォーム会社が使用している長野市若宮の貸倉庫内の車から、沖縄県出身で住所、職業不詳宮城浩法さん(37)が殺害されているのが見つかっている。
第一審 長野地裁(高木順子裁判長) 裁判員裁判
【2011】
11/14
初公判(罪状認否、冒頭陳述) 被告は「良亮さんと楠見さんの殺害に関与したことは認めるが、強盗目的ではない」と起訴内容の一部を否認。文夫さん殺害については無罪を主張
11/16
第2回公判(証拠調べ) 長男(当時30歳)へ被告の殺意があったかどうかなどを巡り、検察と弁護側の主張が対立
11/17
第3回公判(証人尋問) 証人で出廷した伊藤被告は、殺害の約1ヶ月前の昨年2月22日に「池田被告を誘った」と証言
11/18
第4回公判(証人尋問) 証人で出廷した松原被告は事件当日、伊藤被告が池田被告に殺害用のロープを渡した時の様子を「半ば強引に、という感じだった」と証言
11/21
第5回公判(被告人質問) 被告は伊藤被告から「例の件で来てくれ」と電話があり、金さん方に出向いたが「殺害するつもりとは思わなかった」と事前の共謀を否定。検察側は「伊藤被告は『事前に殺害計画を伝えた』と言っている」と指摘
11/22
第6回公判(被告人質問) 女性の絞殺について、被告は「抱き上げるなどして、家を飛び出せた。何とかできたのではないかと思う」と後悔
11/24
第7回公判(検察側:論告求刑、弁護側:最終弁論、被告の最終意見陳述)
検察側は「3人の命が失われた重大な結果で、動機に酌量の余地はない」と、死刑を求刑。弁護側は「偶発的、突発的な犯行で計画性はなかった」と主張。被告は、「今後償っていくとしか言えない。この場を借りてご遺族の方に謝罪させていただきたい」と述べる
11/25~12/05
裁判官・裁判員評議
12/06
第8回公判(判決) 「同一の機会に3人の命が奪われた結果は重大。死刑をもって臨まざるを得ない」と述べ、求刑通り死刑を言い渡し
長野3人強殺、二審は無期=裁判員の死刑、3度目破棄-東京高裁
2010年に長野市の会社経営者一家3人を殺害し現金を奪ったなどとして、強盗殺人と死体遺棄の罪に問われ、一審長野地裁の裁判員裁判で死刑とされた元従業員池田薫被告(38)の控訴審判決が27日、東京高裁であった。村瀬均裁判長は一審判決を破棄し、無期懲役を言い渡した。
最高裁によると、控訴審が裁判員裁判の死刑判決を破棄したのは3例目。いずれも村瀬裁判長が担当した。
村瀬裁判長は事件を主導した元従業員伊藤和史被告(35)=上告中=について、20日の判決で一審の死刑を支持していた。同松原智浩被告(43)も一、二審で死刑とされ、上告中。
村瀬裁判長は、池田被告が犯行当日に急きょ呼び出され、伊藤被告が殺害を始めたため、巻き込まれる形で加わったと認定。「池田被告自身の主体的な動機で犯行に参画したとする一審の判断は誤っている」と述べた。
さらに「殺害時点では現金を奪う認識は強くなく、金銭目的で加担したと言えない」と指摘。伊藤、松原両被告とは役割に違いがあるとし、「行為責任は限定的に考えなければならず、死刑は誠にやむを得ないとは言えない」と述べた。
なぜ「死刑」が「無期懲役」に?
2審が先例に言及した背景には、執行すれば取り返しのつかない死刑は、特に公平性を踏まえて慎重に検討すべきだとの意識がある。最高裁司法研修所も24年7月、過去の量刑判断を尊重する
よう求める研究報告を示した。プロの裁判官が長年検討を積み重ね、定着している「死刑適用基準」
を重視する考えだ。
一方で「先例主義ならロボットが判断すればいい」(全国犯罪被害者の会の松村恒夫代表幹事)
との批判の声が上がる。機械的な尺度で死刑を破棄すれば、国民の健全な社会常識や生活感覚
を反映させるのが狙いの裁判員裁判の意義を損ないかねないのだ。
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