女性は「産む機械」でも「奴隷」でもない 戦前から続く都合のいい女性活用
日本の非正規雇用は労働者にとって不利なものであり、そしてなぜ非正規雇用の多くが女性なのでしょうか?
第二次世界大戦中に「軍隊化」された企業が、戦後もその性質を引き継いできたことを指摘しました。その上で、日本の労働組合が、労働者同士で結束し待遇改善のために雇用者と対立・協議するようなものではなく、会社内での待遇を改善することを目的とした企業内従業員組織となってしまい、社会全体を巻き込んだ運動を生み出せなかったことを説明しました。それが故に、日本の非正規雇用問題は改善されないままだったのです。問題は「なぜ非正規雇用の多くが女性なのか」です。今回は、企業と政府が戦前から現在に至るまでいかに「女性を母として、そして生産力として都合よく利用してきたか」を紹介したいと思います。
アメムチで固定化された女性の役割
話は戦前に戻ります。この頃に、女性の母・妻という役割を固定化するため「アメとムチ」を使った政策が実施されました。
1931年の満州事変、そして1937年から始まった日中戦争など一連の侵略戦争により、大日本帝国政府は膨大な軍事費を確保する必要に迫られていました。そこで、所得税を国税体系の中心とするための税制大改革が行われます。この改革によって負担が激増する低所得者層のために、負担軽減措置として新たに扶養控除対象者に配偶者が含まれることになりました。つまり扶養控除という税法上の「アメ」が振る舞われたわけです。
一方で「国防力及び生産力拡充」のための「産めよ殖やせよ運動」が国策として打ち出されます。これは、国の体力とも言える人口を増やすために(つまり戦争に勝つために)、大正デモクラシーなどを通じて高まっていた女性の社会進出を抑えこみ、女性の家庭での母・妻という強調する「ムチ」を振るう政策です。
これら「アメとムチ」によって女性の母・妻という役割が固定化されてしまいました。
戦後、家庭に戻された女性たち
戦況が悪化していくに従い、男性が大量に徴兵され戦地に送られるようになります。必然的に労働力不足となり、女性は国内での生産活動を担う重要な労働力として期待され、工場、農場などあらゆる場所で働くようになります。しかし、終戦後、男性が戦場から職場へと戻ると、彼らの働き口を維持するために、そして「家庭の母・妻としての女性」が叩き込まれていたために、女性たちもまた家庭へと戻っていきました。
なかには工場の技能職などブルーカラー労働者として働き続けた女性、新たにホワイトカラー職に就く女性もいましたが、女性労働者は賃金や職能アップ、昇進につながる仕事をなかなかさせてもらえませんでした。戦前の「女性労働者は男性労働者より劣っている」「女性は男性の補助的な仕事をするから低賃金」「女性は本来家庭で母・妻としての役割を負うべき」という因習は戦後もいまだ根強かったのです。また、戦後の労働運動の高まりの中では、労働力の主力である男性労働者の問題が優先され、あくまでも「補助」であり主力とはみなされていなかった女性労働者の問題は後回しにされていました。
ところが、朝鮮戦争特需を皮切りに、50年代に入ると日本は深刻な労働力不足に直面します。そこで企業・政府は再び女性労働力を活用しようとしました。しかし、正社員男性ブルーカラー労働者が中心の職場に女性労働者を増やせば、「女よりも待遇が悪い」など、男性労働者の不満が高まりかねないので、女性労働者を男性労働者と同じ扱いにするわけにはいきませんでした。またこれ以上労働運動が高まることを好ましくないと考えていた企業・政府は、正社員労働者が増えて労働運動がますます力を持たないよう、正社員ではなく、より首切がしやすく、発言権も小さい臨時工という形で女性労働力を取り込むことを望んでいました。こうして、女性を臨時工として活用するために政府・企業が動きはじめます。
都合よく扱われ続けている女性たち
朝鮮戦争休戦後もその流れは止まりません。まず1961年に前述の扶養控除から独立して配偶者控除が作られました。主たる扶養控除対象者が配偶者=妻であり、妻とは「単なる扶養親族ではなく、家事、子女の養育等家庭の中心となって夫が心おきなく勤労にいそしめるための働きをしており、その意味で夫の所得の稼得に大きな貢献をしている。このような家庭における「妻の座」を税法上も認めるため」に設けられた制度です。世帯主である男性が外で働き、女性は家事育児を無償で行うスタイルを前提とすることで、女性を家庭に縛り付けながら、必要に応じて臨時工としてその労働力を利用する仕組み、つまり「パート専業主婦」を政府主導で確立したのです。1987年には、「所得を稼得するものに対する配偶者の貢献を評価」つまり内助の功を評価しながら、「パート問題」(パート主婦の所得が一定額を超えると、世帯全体の税引き後手取り所得が減少する逆転現象)を解消するために、配偶者特別控除が創設されました。これは 2 年後の 1989 年の消費税の導入により低額所得者の負担が高額所得者よりも大きくなる逆進性に備えた「主婦よ、家計が苦しければもっとパートに行け」という目くらましの減税政策でもありました。
配偶者控除があると、労働者側は非課税限度額以上働くインセンティブを持ちません。雇用主にしても、臨時工を非課税限度以内で長時間働かせるためには、低賃金の方がよいので、パートタイマーの時給を上げるインセンティブを持ちません。結果として賃金が低いところで需給が一致し、賃金が決まってしまいます。
女性労働者の低賃金構造の固定化を決定的にしたのは1975年の雇用保険法でした。これは、妊娠、出産、育児などを機会に退職する女性労働者への失業給付を強制的に減らすことで、正社員での働き口や条件の良い仕事を探す余裕を与えず、パートタイム低賃金労働者として再就職させる、M字型雇用(「専業主婦という生き方を選ぶのはなぜか? 結婚・出産・育児で仕事をやめる女性たち」参照)を促進する政策でした。それまで家庭に入ったら外に働きに出られなくなっていた主婦たちを半ば強制的に外に出すことで、パートタイム労動者として利用する仕組みが作られたのです。
この法律のもう一つの狙いは、雇用調整給付金制度による「一時帰休」の制度化でした。この制度は労働組合の承認のもとで企業内に失業の予定者を作りだすもので、政府と企業が結託したリストラのようなものでした。この雇用調整給付金をきっかけに、大量のパートタイム女性労働者が帰休、希望退職、解雇されました。合理化の名の下に人員整理をしやすい環境が作り上げられ、解雇しやすいパート労動者の「首切り」などが「当然だ」という雰囲気が蔓延します。こうして、女性の多い不安定就業階層は低賃金かつ簡単に「首切り」してもよいという経済的暴力構造は完成しました。
女性は産む機械でも奴隷でもない
戦中・戦後を通して、日本は一貫して政府・企業さらには男性正規労働者を中心とする労働組合までもが結託して、首切りしやすく低賃金で働く女性非正規労働者を作り出してきました。
大企業経営者や政治家が「歴史に学べ」などと、軽々しく口にしているのを見かけると、私は腸が煮えくり返るような怒りを覚えます。戦国時代の武将のインチキ歴史小説なんか読んでいないで、この現状を作り出した自分たちの悪事をこそ振り返れ、と言って張り飛ばしてやりたい気分になります。
女性は産む機械でもなければ、戦争や経済成長のために都合よく安い労働力を提供する奴隷でもありません。国や企業に知らぬ間に騙され、都合よく利用されないためにも、私たち女性こそ歴史をしっかりと学び、この不当な扱いと戦っていかなければいけません。
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