【洒落怖】お葬式(名作・中編)

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『お葬式』

942 :1/5:04/01/26 20:49

数年前、夜の12時頃に、

そのころ付き合ってたSから電話が掛かってきた。

せっぱ詰まったような声と口調で、

話の内容がイマイチ理解出来ない。

外にいるみたいなんで、取りあえずウチまで来いと言った。

Sはタクシーでやって来た。普段は滅多に使わないのに。

部屋に入ってもなかなか座らないで落ち着かない様子。

「ゆっくり話してみ」

と促すと、Sは自分で煎れた茶を飲みながらこんなことを語った。


943 :2/5 Sの話:04/01/26 20:51

仕事を終え、飯を食べて、

自分の部屋に帰り着いたのが11時30分頃だった。

焼き肉を食べたので、一刻も早く風呂に入りたかった。

玄関に荷物を置くと、電気も点けずに風呂のドアを開ける。

途端にモワッと煙りのようなものが顔に。

スイッチを探る手が止まった。

湯船が黒い布で覆われている。

その上に──白い花束、火の点いたロウソクが数本。

線香の煙と匂いが充満する中央に、額に入ったモノクロ写真。

ロウソクの灯りに浮かび上がる白い笑顔。

その目が背景と同じ黒に塗り潰されている。

数瞬の思考停止。

やがて足が震えだし、次々と頭をよぎる疑問。

葬式?誰がこんなことを?いつのまに?何のために?どうやって?

鍵は掛かっていたし、窓は…閉まってる。

となると、これをやった人は今どこに─

その時、押入の方から微かに聞こえてきた。

暗闇の中、サラ…サラ…と、紙を一枚ずつ落とすような音。

反射的に体が動き、気が付くとバッグを引っ掴んで外へ。

国道まで無我夢中で走って、そこから電話をした。


944 :3/5:04/01/26 20:52

途切れがちで断片的な印象ったが、

Sの話を纏めると大体こんな感じだった。

「泥棒だったらどうしよう…。そう言えば、火事も心配だなぁ」

そこで、二人して彼女の部屋に行ってみることにした。

用心のために鉛管を持って。


2階建てのアパートの2階。階段を上がって部屋の前に立つ。

音は聞こえないし何の気配もない。ドアを開く。

鼻をつく線香の匂い。電気を点け風呂へ。

風呂場は聞いた通りの光景だった。

ただロウソクと線香の火は消えている。

遺影の目は墨のようなもので塗りつぶされていた。

粗雑で子供の塗り絵のようだった。

「わああああああああ!!」

背後で悲鳴が聞こえた。

風呂場を出ると、Sが開いた押入の前で口に手を当てて固まっている。

押入の上段から大量の髪の毛が床にこぼれ落ちていた。

半端な量ではない。

床に落ちた髪だけで大人一人分どころではなかったと思う。

Sは惚けたように立ち尽くしていた。なぜか片足が円を描いている。


ちょっと洒落にならないということで、俺の携帯で110番した。

「あれ、髪の毛が落ちる音だったんだ…」

後ろでSが呟いていた。警察が来るまで何度も何度も。


945 :4/5:04/01/26 20:56

部屋から無くなっていたものは何もなかった。

風呂場と押入以外の場所が荒らされた形跡もない。

そのせいか、警察は聴き取りしただけであっさり帰ってしまった。

指紋とかを調べるのかと思ったが、そんな事はしなかった。

ただ、風呂場に置かれていたもの一式と、大量の髪の毛は、

Sのものではない事をしつこいくらい確認してから、全部持っていった。


翌日からSは俺の部屋に泊まるようになり、

それから半月ほどで俺たちは別れた。

一緒にいる時間が増え互いの嫌な所が見えてきた、

というのもあったかもしれない。

けれど、あの日以来、Sは明らかに変わってしまった。

不機嫌でふさぎ込みがちになり、

一日に一度は突然泣き出してしまう。

仕事も休みがちになった。

何を食べても味がしないと言って食事を抜く。

夜中に目が醒めると、

Sはテーブルの前に座って鏡を見つめていることもあった。


別れてからのSのことは、同僚だった弟を通じて耳に入ってきた。

日に日におかしくなるSを、家族は病院へ連れて行ったらしい。

検査の結果、癌が見つかった。

発見時にはすでに手遅れで、一月と経たずSはこの世を去ってしまった。


946 :5/5:04/01/26 20:57

一応、葬儀には出席した。

段の上の方には、ニッコリと笑うSの遺影があった。

鮮やかなカラー写真は、風呂場で見た遺影の陰鬱とは似ても似つかない。

遺体の顔も拝んだ。思いの外ふくよかで肌も綺麗だった。

ただ、それは『葬儀屋の修復テク』のせいだと後で聞かされた。

「姉ちゃんゲッソリ痩せてたのに、

 綿詰めて化粧したら、元気そうに見えるんだもんな」

説明しながら、弟はちょっと涙声になった。

「カツラも着けてもらってさ、薬の副作用で、

 髪の毛ごっそりと抜けちまってたのに…」


警察が来るまで呟いていたSの言葉が耳に蘇って、少し震えた。


948 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/26 20:59

いいね。

で、結局警察はどう対処したの?


949 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/26 21:02

そこまで細工したんなら、誰かが不法侵入してるとしか思えない。

そこら辺は解明されなかったの?


950 :942:04/01/26 21:07

>>948

警察は、あの晩家に来たっきりだったと思います。

Sが鍵を閉め忘れて、その間に誰かが入り込んだんだろうって言ってました。

「戸締まりには気をつけて」とか、

「できればちょっと部屋を離れていたほうがイイですよ」

なんていうアドバイスはくれましたけど。

「何かあったら連絡してくれ」とも。

でもまさか、

Sがおかしくなったのを連絡するわけにもいきませんでしたし…


ちょと辛くなってきました。Sごめんな。


952 :942:04/01/26 21:10

>>949

いろいろ仮説は考えたんですが…解明されたんですかねぇ。

少なくとも、警察から俺のところには連絡はなかったです。

Sは何かを聞いてたのかなぁ


953 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/01/26 22:13

Sの自作自演か、Sが無意識の内にやったんじゃあないの?

理由なんて考えれば考えられるし、

髪の毛はカツラから取ればいいし、

他人にモノクロ写真なんて用意できんの?

モノクロ写真がSのモノだったのか、

紙に印刷された様なモノだったかは、

書いてないんで分かんないけど。


958 :942:04/01/26 22:55

>>953

そう。

結局ね、意識的にせよ無意識にせよ、

Sが自分で全てをやったというのが、

一番筋が通る仮説だと思うんですよ。

自分が癌であることを知っていて、

全ての意匠をそれに見立てて演出した。

ただ、それを行うことによって、誰に何を伝えようとしたのか?

それを考ようとすると、

感情が昂って冷静に考えられないんですよ、俺には。

自分で自分の思考にストップをかけているんでしょうね、きっと。

もう落ちます。スマソ


960 :942:04/01/26 22:58

追記

白黒写真は、写真かフォトプリントでした。

額縁の前面にガラスはなかったんで、

目を消した跡なんかも確認できたんです。

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