【洒落怖】階上の子どもたち(名作・中編)
『階上の子どもたち』
474 :ヒバリー・ヒル:2000/11/11(土) 04:34自動車事故にあって鞭打ち症になったAさんは、
仕事もできなさそうなので、会社を一週間ほど休むことにした。
Aさんは結婚しているが、奥さんは働いてて昼間は一人だった。
最初の数日は気楽だったが、
さすがに3日目くらいになると暇をもてあましてきた。
それでもどこかへ出かけるには体がつらいので、
家でじっとしていなければならなかった。
そんなある日、お昼も過ぎた頃、ぼんやりとテレビを見ていると、
上の階の部屋からドスンドスンと音がして、
子どものはしゃぐ声が聞こえてきた。
学校が休みなのかといぶかしく思ったけれど、気にもとめなかった。
そして翌日も、昼頃から子どもの声が聞こえてきた。
どうやら上の家には子どもが2人いるようだ。
Aさんが住んでいるのは大規模なマンション住宅地だが、
昼間は意外とひっそりとしており、
子どもたちの声は階下のAさんのところにもよく聞こえた。
しかし、うるさく感じることもなく、
むしろ退屈さと団地の気味の悪い静けさを紛らしてくれるので、
ありがたかった。
そして翌日、暇をもてあまし、
昼食を作る気もうせたAさんはピザを注文した。
30分ほどでやってきたピザは思ったより量が多く、
Aさんは結局まる一枚残してしまった。
普通なら奥さんのためにとっておくのだが、
ふと階上の子どもたちのことを思い出し、
親切心も手伝ってAさんは、上でに持って行ってやることにした。
Aさんは自分の真上の部屋に誰が住んでいるのか知らなかったが、
呼び鈴を押した。
気配を感じたが応答がない。
もう一度呼び鈴を押した。
のぞき窓から見られているような気がした。
かすかに「どなたですか・・・」という声がドアのむこうからした。
Aさんは、階下の者であること、
ピザが余ったのでもらってほしいことを話すと、ドアがかすかに開いた。
475 :ヒバリー・ヒル:2000/11/11(土) 04:35
家の中はやけに暗かった。
5センチほどの隙間から、女性が顔を半分のぞかせた。
女性はひややかに言った。
「ありがとうございます。でもいりません」
うす暗くて顔の表情がよく見えない。
Aさんは急に自分が場違いなところにいるような気がしてきたが、
もう一度わけを話し、子どもたちにあげてくれるよう頼んだ。
ドアの隙間から生暖かい空気が流れてきた。嫌な臭いがする。
ふと、女性の顔の下に子どもの顔がふたつ並んだ。
ドアはほんのわずかに開いたまま。
2人の子どものうつろな目が、こっちをじっと見ている。
三人の顔が縦一列に並んでいる。
「じゃあ・・・そう・・・いただくわ」
Aさんはドアの隙間にピザの箱を入れると、
すっと真横から手がのびてきてうけとった。
3つの顔はドアの隙間からAさんを見つめている。
「ありがとう・・・」
かすかな声が聞こえた。
Aさんはそそくさと退散した。
気味が悪かった。何かが違和感が頭の片隅にあった。
子どもの顔が脳裏に焼き付いている。
顔・・・
背中がぞくぞく震えだした。
・・・顔、並んだ・・・
足早になる。一刻も早くあの家から遠ざかりたかった。
エレベーターがこない。
・・・並んだ・・・縦に・・・
ボタンを何度も押すがいっこうに来る気配にない。
非常階段にむかう。
ひどく頭痛がした。吐き気もする。
非常階段の重い扉を開けるとき、Aさんは背中に視線を感じた。
振り向くと、10メートルほどむこうの廊下の角に、3人の顔があった。
ドアの隙間から見たときと同じように、
顔を半分だけ出して、うつろな目でこちらを見つめている。
冷え冷えした真昼のマンションの廊下にさしこむ光は、
3人の顔をきれいに照らし出した。
Aさんは首周りのギブスもかまわず階段を駆け下りだした。
普段は健康のためエレベーターを使わず、
いっきに4階まで階段を駆け上がることもあるAさんだが、
上までが途方もなく長く感じられた。
・・・・縦に並んだ顔・・・・ありえない・・・・・・
・・体が・・・ない・・・
そして、顔のうしろにあった奇妙なものは・・・
頭を・・・支える・・・手・・・
そのあとAさんは、近くのコンビ二で警察を呼んでもらった。
警察の捜査によれば、Aさんの階上の家では、
その家の母親と子どもの死体が風呂桶の中から見つかった。
死体には首がなかった。首はのこぎりで切断されており、
死後3日ほどたっていた。
その日のうちに夫が指名手配され、
やがて同じ建物内で隠れているところを逮捕された。
母親と子どもの首もその男が一緒に持っていた。
男が発見されたのは彼の家ではなかった。
警官が血痕をたどっていったところ、
彼が隠れているのを見つけたのだった。
警察によると、彼はAさんの家の押入れの中に潜んでいたそうだ。
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