【洒落怖】祖父の死因(山・中編)

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『祖父の死因』

407 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/03/12 17:56

親父に聞いた話。


30年くらい前、親父はまだ自分で炭を焼いていた。

山の中に作った炭窯で、クヌギやスギの炭を焼く。

焼きにかかると、足かけ4日くらいの作業の間、

釜の側の小屋で寝泊まりする。


その日は夕方から火を入れたのだが、

前回焼いた時からあまり日が経っていないのに、

どうしたわけか、なかなか釜の中まで火が回らない。

ここで焦っては元も子もないので、親父は辛抱強く柴や薪をくべ、

フイゴを踏んで火の番をしていた。


夜もとっぷり暮れ、辺りを静寂が支配し、

薪の爆ぜる音ばかりが聞こえる。

パチ・・・パチ・・パチ・・・

ザ・・・ザザザ・・・

背後の藪で物音がした。

獣か?と思い、振り返るが姿はない。

パチ・・・パチン・・パチ・・パチ・・・

ザザッ・・・・

ザザ ザ ザ ザ ザ ァ ァ ァ ァ ―――――――――――

音が藪の中を凄いスピードで移動しはじめた。

この時親父は、これはこの世のモノではないな、

と直感し、振り向かなかった。

ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  

ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  ザ  

音が炭釜の周囲を回りだした。いよいよ尋常ではない。

親父はジッと耐えて火を見つめていた。

ザ・・・

「よお・・何してるんだ」

音が止んだと思うと、親父の肩越しに誰かが話しかけてきた。

親しげな口調だが、その声に聞き覚えはない。

親父が黙っていると、声は勝手に言葉を継いだ。

「お前、独りか?」

「なぜ火の側にいる?」

「炭を焼いているのだな?」

声は真後ろから聞こえてくる。息が掛かりそうな程の距離だ。

親父は、必死の思いで振り向こうとする衝動と戦った。


408 :407:03/03/12 17:58

声が続けて聞いてきた。

「ここには、電話があるか?」

なに?電話?

奇妙な問いかけに、親父はとまどった。

携帯電話など無い時代のこと、

こんな山中に電話などあるはずがない。

間の抜けたその言葉に、親父は少し気を緩めた。

「そんなもの、あるはずないだろう」

「そうか」

不意に背後から気配が消えた。

時間をおいて怖々振り向いてみると、やはり誰も居ない。

鬱蒼とした林が静まりかえっているばかりだった。


親父は、さっきの出来事を振り返ると同時に、

改めて恐怖がぶり返して来るのを感じた。

恐ろしくて仕方が無かったが、火の側を離れる訳にはいかない。

念仏を唱えながら火の番を続けるうちに、

ようやく東の空が白んできた。


あたりの様子が判るくらいに明るくなった頃、

祖父(親父の父親)が、二人分の弁当を持って山に上がってきた。

「どうだ?」

「いや、昨日の夕方から焼いてるんだが、

 釜の中へ火が入らないんだ」

親父は昨夜の怪異については口にしなかった。

「どれ、俺が見てやる」

祖父は釜の裏に回って、煙突の煙に手をかざして言った。

「そろそろ温くなっとる」

そのまま温度を見ようと、 釜の上に手をついた。

「ここはまだ冷たいな・・・」

そう言いながら、炭釜の天井部分に乗り上がった・・・

ボゴッ

鈍い音がして釜の天井が崩れ、祖父が炭釜の中に転落した。

親父は慌てて祖父を助けようとしたが、

足場の悪さと、立ちこめる煙と灰が邪魔をする。

親父は火傷を負いながらも、祖父を救うべく釜の上に足をかけた。

釜の中は地獄の業火のように真っ赤だった。

火はとっくに釜の中まで回っていたのだ。

悪戦苦闘の末、ようやく祖父の体を引きずり出した頃には、

顔や胸のあたりまでがグチャグチャに焼けただれて、

すでに息は無かった。


409 :407:03/03/12 18:00

目の前で起きた惨劇が信じられず、親父はしばし惚けていた。

が、すぐに気を取り直し、下山することにした。

しかし、祖父の死体を背負って、

急な山道を下るのは不可能に思えた。

親父は一人、小一時間ほどかけて、

祖父の軽トラックが止めてある道端まで山を下った。


村の知り合いを連れて、炭小屋の所まで戻ってみると、

祖父の死体に異変が起きていた。

焼けただれた上半身だけが白骨化していたのだ。

まるでしゃぶり尽くしたかのように、白い骨だけが残されている。

対照的に下半身は手つかずで、臓器もそっくり残っていた。

通常、熊や野犬などの獣は、獲物の臓物から食らう。

それにこのあたりには、そんな大型の肉食獣などいないはずだった。


その場に居合わせた全員が、

死体の様子が異常だということに気付いていた。

にも拘わらす、誰もそのことには触れない。

黙々と祖父の死体を運び始めた。

親父が何か言おうとすると、皆が静かに首を横に振る。

親父はそこで気付いた。これはタブーに類することなのだ、と。


昨夜、親父のところへやってきた訪問者が何者なのか?

祖父の死体を荒らしたのは何なのか?

その問いには、誰も答えられない。誰も口に出来ない。

「そういうことになっているんだ」

村の年寄りは、親父にそう言ったそうだ。


今でも祖父の死因は、野犬に襲われたことになっている。

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