【洒落怖】アパート(家・中編)

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『アパート』

18 :「アパート」 1 :2000/09/17(日) 02:43

出典:Asahi Radio Webio「電脳百物語」

大阪市住之江区 安原浩志さん


友人Mが大学生だったころのお話です。


名古屋の大学に合格したMは、

一人住まいをしようと市内で下宿を探していました。

ところが、条件がよい物件はことごとく契約済みで、

大学よりかなり離れたところに、ようやく一件見つけることができました。

とても古い木造アパートで、台所やトイレなどすべて共同なのですが、

家賃がとても安いため、Mは二つ返事で契約を交わしました。

引っ越しを済ませ、実際住み始めてみるととても静かで、

なかなか居心地のよい部屋での生活に、

Mは次第に満足するようになったそうです。


そんなある晩のこと、Mの部屋に彼女が遊びに来ました。

2人で楽しくお酒を飲んでいると、急に彼女が「帰る」と言い出しました。

部屋を出ると、彼女は


「気を悪くしないで聞いてほしいんだけど、

 この部屋、なにか気味が悪いわ」とMに告げました。


彼女によると、お酒を飲んでいる間、

部屋の中に嫌な気配が漂っているのをずっと感じていて、

一向に酔うことができなかったというのです。

「気を付けたほうがいいよ」

と言う心配そうな彼女の言葉を、Mは一笑に付しました。

もともとその手の話を全く信用しないMは、

「そっちこそ気を付けて帰れよ」と、彼女を見送ってあげたそうです。


19 :「アパート」 2 :2000/09/17(日) 02:45

しかし、結果的にこのときの彼女の言葉は取り越し苦労でも何でもなく、

その部屋はやはりおかしかったのです。

このころからMは、体にとてつもない疲れを覚えるようになりました。

別段アルバイトがきついというわけでもないのに、

部屋に帰ると立ち上がれないぐらいに力が抜けてしまいます。

また、夜中寝ている間に、誰かが首を絞めているような感覚に襲われ、

突然飛び起きたりしたこともありました。

そのせいでMは食欲も落ち、げっそりと痩せてしまいました。

きっと病気だろうと医者に診てもらいましたが、原因は分からずじまいでした。

心配した彼女は、「やはりあの部屋に原因がある」

とMに引っ越しを勧めましたが、

あいにくそのような費用もなく、Mは取り合おうともしませんでした。


そして、そのまま2週間ほど経ったある晩のことです。

その日、Mはバイトで大失敗をしてしまい、

いつにも増してぐったりとしながら夜遅く部屋に帰り、

そのまま眠ってしまいました。


真夜中、ものすごい圧迫感を感じて急に目を覚ましましたが、

体は金縛りのため身動き一つとれません。

ふと頭上の押入れの襖に目をやりました。

すると、閉まっている襖がひとりでにするする…と数センチほど

開いたかと思うと、次の瞬間ぬーっと真っ白い手が伸びてきて、

Mの方へ伸びてきたそうです。

Mは心の中で『助けて』と叫ぶと、

その手はするするとまた隙間へと戻っていきました。

しかし、ほっとしたのもつかの間。

今度は襖の隙間から、真っ白い女の人の顔がMをじっと見つめているのを

見てしまったそうです。

Mは一睡もできないまま朝を迎えました。


やがて体が動くようになり、Mは部屋を飛び出しました。

そして、彼女をアパート近くのファミレスに呼び出し、

「どうしようか」と2人で途方に暮れていたそうです。

ちょうどそのとき、少し離れた席に一人のお坊さんが座っていました。

そのお坊さんは、先ほどより2人のことをじっと見ていたのですが、

いきなり近づいてきたかと思うと、

Mに向かって「あんた、そんなものどこで拾ってきた!」

と一喝したそうです。

Mが驚きながらも尋ねると、Mの背中に強い念が憑いており、

このままでは大変なことになると言うのです。

Mは今までの出来事をすべて話しました。

するとお坊さんは、自分をすぐにその部屋に連れて行くようにと

言ったそうです。


部屋に入ると、お坊さんはすぐに押入れの前に立ち止まり、

しばらくの間その前から動こうとしません。

そして突然印を切ると、いきなり襖を外し始め、

その一枚を裏返して2人の方へ向けました。


21 :「アパート」 3 :2000/09/17(日) 02:58

その瞬間、Mは腰を抜かしそうになったと言います。

そこにはなんとも色鮮やかな花魁(おいらん)の絵が描かれていました。

舞を舞っているその姿はまるで生きているようで、

心なしかMの方をじっと見つめているように感じたそうです。

お坊さんによれば、

「どんないきさつがあったかは私には分からないが、

 この絵にはとても強い怨念が込められていて、

 君の生気を吸って次第に実体化しつつあり、

 もう少しで本当に取り殺されるところだった…」

と告げたそうです。

お坊さんは襖の花魁の絵の周りに結界を張ると、

「すぐ家主に了解を得て、明日、自分の寺にこの襖絵を持ってきなさい」

と言い残し、立ち去りました。


次の日、彼女とともにお寺に赴きました。

そして、その襖絵は護摩とともに焼かれ、供養されたということです。

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