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ネイマール選手の脳内でわかった 身体を操る、運動上達の鍵

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ネイマール選手の脳内でわかった 身体を操る、運動上達の鍵

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ネイマール選手の脳内でわかった 身体を操る、運動上達の鍵

 脳の中にはもう一つの「カラダ」がある。私たちが実際に運動するときに思い描く、身体の形や動きのイメージのことだ。カラダは、生身の身体を操る人形師のようなもの。二つの間に「いい関係」が築ければ、運動が早く上達したり、効果的なリハビリができたりする可能性がある。

 サッカーのスペインリーグで活躍するブラジル代表のエースストライカー、ネイマール選手は多彩な技の持ち主で知られる。その秘密を探ろうと、情報通信研究機構脳情報通信融合研究センターの内藤栄一研究マネージャーは昨年、スペインに飛び、直接面会して、次のような実験をした。

脳内の「カラダ」

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脳内の「カラダ」の姿

 相手のディフェンダーが迫ってくる映像を見せ、相手をかわしてシュートに持ち込む自分の動きをイメージしてもらい、その時の脳の活動を、脳血流を見るfMRI(機能的磁気共鳴断層撮影)で測定。

 すると、脳内の「カラダ」の姿が浮かび上がった。正体は三つのネットワークだ。

三つのネットワーク

 身体が感じた相手の動き(この場合は映像の視覚情報)が、一つ目のネットワークに送られる。ここで、過去に覚えた運動のパターンから必要なものが取り出され、別のネットワークでは、選んだ運動を切り替えながら状況に応じた運動プログラムが作られる。これらが三つ目の「高次運動領野」ネットワークで具体的なイメージとなり、運動の指令が身体に伝えられる。

ネイマール選手「具体的にイメージできた。簡単だよ」

 実験を8回繰り返し、毎回異なる動きをイメージしてもらった。スペイン2部リーグの選手でも同じ実験をしたが、脳活動の差は歴然としていた。実験後、ネイマール選手は使った技の名前を8種類すらすらと挙げ「具体的にイメージできた。簡単だよ」と答えたという。

上達の秘密を発見

 ネイマール選手の鍛えられた「身体」と、創造性豊かな脳内の「カラダ」。洗練された関係は1日で成ったわけではない。幼いころ、大小さまざまなボールで遊び、家では机やイスを相手に見立ててドリブルでかわす練習をしていたそうだ。

 では、われわれ凡人が天才の域に達する方法はないのか。かぎは、身体の感覚にある。

 カラダは、身体から受け取る感覚信号をもとに運動指令を出す。視覚や聴覚、筋肉が緊張する感じ、足裏でつかむ地面の状態、風を切るスピード感など、様々な情報が指令のよりどころとなる。

 内藤さんは、感覚入力を人為的に変えると運動にどう影響するかを実験した。参加者に、ゴルフボール大の二つの球を片方の手のひらの中でぐるぐる回す運動を練習してもらう。初めはすぐ上達するが、やがていくら練習しても、回転速度は頭打ちになる。このとき、手に微弱な電気を流して練習すると、簡単に壁を乗り越えられる。観測すると、脳内のネットワークが活発化するという。

 「壁にぶつかったら電気刺激を与えると、ムダのない動きができるようになり、どんどん上達する。一度壁を越えたら元の状態には戻りにくい。スポーツのほか、ピアノなど音楽の分野でも達人を生み出せるのではないか」と内藤さんは期待する。

後遺症の治療に

 けがや病気の後遺症による身体の障害の問題を解く鍵も、「カラダ」にあるらしい。

 例えば脳卒中で半身が動かなくなった後、脳の神経がある程度残っているのに、リハビリしても回復しない人がいる。カラダが「動きを忘れてしまった状態」と考えると理解できるという。文部科学省の研究プロジェクト「新学術領域 身体性システム」は、こうした患者に対し、カラダに働きかけることで効果的なリハビリにつなげる試みだ。

 プロジェクトの出江紳一・東北大大学院医工学研究科教授らは、バーチャル映像を活用した「幻肢痛(げんしつう)」のリハビリを試みている。失われた腕や足に痛みや違和感が残る症状で、事故などで腕や足を切断した人の5~8割が経験する。身体は手や足を失ったのにカラダが事実を受け入れられない。その認識の差が痛みの原因の可能性がある。

 患者に仮想の足が上がる映像を見せ、失われた足も一緒に上げるようイメージしてもらう。カラダは視覚情報にだまされ、失った足が「健在」であることを確認し、認識の差が埋まって痛みが消える可能性がある。鏡を使った同様の手法で、治療に成功した先例がある。

 プロジェクト代表の太田順・東京大人工物工学研究センター教授によると、このほかにリハビリの対象になりうるのはロコモティブシンドロームなどで、国内に400万人。「脳と身体の関係を数理的に表すモデルを確立し、経験による部分があったリハビリを、根拠に基づき、効果が予測できるようにしたい」と話す。(嘉幡久敬)

 〈ロコモティブシンドローム〉 骨や筋肉、関節などの運動器がうまく動かせない状態で、「要介護」のリスクが高まる。「ロコモ」とも言われ、日本整形外科学会が提唱した。加齢に伴う筋力の衰えや関節症、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、リウマチ、まひなどが起きると、運動のバランスが崩れ、身体のほかの部分も連動して悪化する。

 〈幻肢痛〉 失われた手や足の「幻肢」に痛みを感じる。その部位から感覚を受け取る脳の領域の働きに関係があるとされるが、詳しい原因は不明。重機で押しつぶされるような激しい痛みを感じる例もある。米国の専門家ラマチャンドラン博士らの著書「脳のなかの幽霊」(角川書店、1999年)で、様々な症例や治療例が紹介されている。

出典:脳の中の「カラダ」 身体を操る、運動上達の鍵

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著者プロフィール
マツオカソウヤ

プログラマー。Sharetube作ってる人。サーバ周り、サービス設計、システム、デザイン、執筆を手掛ける。SNSのJoinchrome、ソーシャルRSSのBazzfeed、TwitterアプリのPicleの失敗を経て、今に至る。今日もまた東京の何処かでコードと記事を書いています。