ホームレスが次々襲われた「横浜浮浪者襲撃殺人事件」とは
横浜浮浪者襲撃殺人事件(よこはまふろうしゃしゅうげきさつじんじけん)とは、1982年12月半ばから1983年2月10日にかけて、横浜市内の地下街や公園などでホームレス(浮浪者)が次々襲われ殺傷された事件。いずれも集団で執拗な暴行を加えられた結果である。逮捕された犯人は横浜市内に住む中学生を含む少年のグループで、少年たちによる人権軽視の“浮浪者狩り”は社会に大きな衝撃を与えた。
標的は公園に
横浜・寿町は、大阪・釜ヶ崎、東京・山谷とともに日本の三大ドヤ街として知られる。港町である横浜は、船舶貨物の陸上げや積みこみなどの労働力が必要で、それらは主に日雇い労働者が請け負ってきた。自然とそうした労働者がこの街に集まり出したが、日雇いという不安定さで、仕事にありつけないと安宿にも泊まれず、公園のベンチや地下街の入り口で寝る以外になくなる。そうしたホームレスがこの街に急増したのはオイルショック以降のことである。1982年末から翌2月にかけて、横浜市内の公園などで、少年がホームレスを襲撃するという事件が続いた。
2月12日、市内の中学生を含む少年10人が傷害致死の容疑で逮捕された。内訳は中学生が5人、高校生が1人、無職が4人。
少年らは2月5日、少年達は横浜スタジアム周辺で、9人のホームレスをを次々に襲って怪我をさせた。少年の1人が「もう少しやらねえと、もの足りねえ」と言い出し、中区山下町の山下公園で無職Sさん(60歳)が売店の軒先で寝ていたところを襲い集団で暴行、公園の掃除用のカゴに入れ引きずりまわした。Sさんは30分後、植え込みで苦しんでいるところを発見され、7日に死亡した。
少年らの犯行の内訳は関内駅で2件、大通り公園石の広場で1件、横浜スタジアム付近で9件。被害者はわかっているだけで死者2名、重傷13名。日によっては女性が関わっていたこともあったようで、その後さらに10人の少年が逮捕された。
少年らの大半は2つの市立中学を母体とした「恐舞連合」のメンバーだったが、ホームレス襲撃は対立する中区元町の「中華連合」との対決前の喧嘩の訓練として行なっていたらしい。また学校をサボってゲームセンターで知り合った少年もいるようである。
「今夜、タコろうや!」
これが少年達の合言葉だった。
出典:横浜・ホームレス襲撃事件
「町を綺麗にしてやったんだ!」
少年たちの供述は驚くものだった。「横浜の地下街が汚いのは浮浪者がいるせいだ。俺たちは始末し、町の美化運動に協力してやったんだ。清掃してやったんだ」
「乞食なんて生きてたって汚いだけで、しょうがないでしょ」
「乞食の味方をされるなんて、考えもしなかった」
「なぜこんなに騒ぐんです。乞食が減って喜んでるくせに」
※「乞食」は差別用語ですが、あえて供述通りに使用しました。同様に「浮浪者」も。
4月23日朝、寿日雇労働者組合の9人が、市内の中学校の正門前で、副校長に断ったうえでビラの配付を始めた。襲撃事件の真相を知ってもらうためのものである。だが教師たちがすぐにやって来て、生徒からビラをとりあげて破いたりした。
出典:横浜・ホームレス襲撃事件
動機
ゴミ掃除しただけ」と自供、対立グループとの喧嘩の練習のため、また「浮浪者が逃げ惑う姿が面白かった」、「退屈しのぎに浮浪者狩りを始めた」とも自供している。なお、作家の澁澤龍彦は時事問題について日頃ほとんど発言しない姿勢で知られていたが、この事件については加害者に対する激しい怒りのコメントを発表した。
裁判
犯人グループは1983年3月4日に少年10名を家裁に送致。検察官の処分意見は、保護観察処分が1名、救護院が2名、残りの7名が少年院に送致する保護処分が相当と判断した。横浜家庭裁判所は同年の3月30日、横浜地方検察庁から傷害致死、傷害、暴行容疑で送致されて審判中だった14~16歳の少年10名に対し、9人を少年院に送致し、1人を救護院に送致する保護処分を決定した。
関連事件簿
昭和58年(1983)★京都府で河川敷の野宿者に中学生グループ投石、ケガさせる。
★東京都で公園の野宿者、少年7人に襲われる。
★大阪府で中高生グループ、角材で野宿者襲う、2人ケガ。
★東京都で少年2人、寝ていた野宿者に火をつける。
昭和60年(1985)
★東京都板橋区の荒川河川敷で、無職少年(15〜19)4人と無職(20)の5人グループが、ホームレス(42)を金属バットやバールで袋だたきにして6ヶ月の重傷を負わせて橋の下に放置。
昭和61年(1986)
★野宿の日雇い作業員が、中・高校生とみられるグループに大型爆竹と、こぶし大の石で集団襲撃され、2人が失明。
昭和61年(1986)
★東京都新宿区の西戸山公園で、少年(19〜17)3人と見張り役の中学3年生女子2人、無職(22〜20)の12人が花火を至近距離から発射、投石、木刀で殴打、1人を失明させ逮捕。
★大阪市四天王寺境内で、中・高生3人組が、就寝中のホームレス5人をエアガンで襲い、傷害を負わせた。
★大阪府でサバイバルゲームとしてホームレスを襲撃、高校生を逮捕。
★大阪府で、中学3年生4人が他の襲撃事件をまねて、ホームレスを「早く死ね」と竹ぼうきなどで殴打。
昭和62年(1987)
★中学3年生5人、公園に野宿していたホームレスをからかい棒等で暴行、脳挫傷等の重傷を負わせる。
★兵庫県でホームレスに投石・放火した中学生5人補導。
★大阪府で釜ヶ崎の野宿労働者、中高校生らにエアガンなどで襲われる。
昭和63年(1988)
★東京都台東区山谷地区の路上で中学3年生2人高校1年生2人無職少年(16)2人の6人組、日雇い人夫をナイフで刺し2週間の傷害を負わせる。続いて公園で寝ていたホームレスを看板で殴って2週間の傷害を負わせ逮捕。「スカッとするため」と自供。
★神戸市大倉山公園で、中学生5人が野宿者2人に消火器の泡をかけて暴行し逮捕。「逃げ回るのが面白くてやった」
平成1年(1989)
★大阪府で戦争ゲームの中学生2人ホームレス襲撃し補導。
平成7年(1995年)
★道頓堀で複数の少年ホームレスを道頓堀川(水深3.1m)に投げこみ死亡。
★京都鴨川で未成年の作業員2人、住居不定の男性に言いがかりを付け、殴る蹴るの暴行。
★無職少年等3人公園のベンチに寝ていた被害者に「向こうに行け」「無視するとは何事だ」などと言いがかりを付け、頭部、顔面、腹部等を足蹴りするなどの暴行、膵臓破裂による出血性ショックにより死亡。
平成9年(1997)
★有職少年、無職少年2人、高校1年生の4人は公園で野宿していたホームレスに対し「ケラチョ狩り」と称して集団で殴る、蹴るの暴行、外傷性くも膜下出血により死亡。
平成12年(2000)
★大学生(18)、アルバイト店員(19)は、会社員(20)の3人、墨田区亀沢のJR総武線ガード下で就寝中のホームレスの男性を金属バットで殴打し1人死亡、4人が傷害。
「日々の生活にいらいらしていた。ホームレスを殴ったり蹴ったりすると気分がスカッとする」。
★高校1年生(15歳)、高校2年生2人(16歳、17歳)、成人男性(20歳)4人、歩道上で寝ていた路上生活者2名に対して、殴る蹴るの暴行を加え1名死亡、1名負傷。
平成14年(2002年)
★東村山で中2四人による注意されたホームレスに逆恨みで傷害致死事件
★熊谷・中2の三人によるホームレス暴行死事件
平成15年(2003年)
★長崎市で中学1年の男子生徒(当時12歳)が大型電器店から幼稚園児(4歳)を連れ出し、そこから4キロ離れた立体駐車場の屋上から全裸にして20メートル下に突き落として殺害。
平成16年(2004年)
★姫路で少年が放火、足の不自由なホームレス焼死事件
★長崎県佐世保市で小学6年の女子児童(当時11歳)が自分が通う小学校内で同級生の女子児童(12歳)をカッターナイフで殺害。
平成17年(2005年)
★姫路市内に住む少年4人のうち高校3年・A(当時18歳)、中学3年・B(当時15歳)火炎瓶を投げて路上生活者を殺害。
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