「クズ同士の仲間割れ」架空請求詐欺仲間割れ事件とは
架空請求詐欺仲間割れ事件
架空請求詐欺仲間割れ事件(かくうせいきゅうさぎなかまわれさつじんじけん)とは、2004年(平成16年)10月に東京都で発生した架空請求詐欺グループの仲間割れによる殺人事件である。
平成16年10月13日、コンサルタント会社社長の清水大志(たいし/当時26歳)は、仲間の渡辺純一(当時28歳)、伊藤玲雄(れお/当時31歳)、阿多真也と共謀し、同じ架空請求詐欺グループの船橋市在住の店員A(当時25歳)、杉並区在住の元会社員B(当時31歳)ら4人を新宿区にある事務所に呼び出して、金属バットで殴り、熱湯をかけたり覚せい剤を注射するなどして殺害した。その後、遺体の始末に困った清水らは、知り合いの暴力団幹部に1億円で死体遺棄を依頼した。4人の遺体は茨城県小川町(現小美玉市)の山林に埋められた。清水らはその後も架空請求詐欺を働いていたが、阿多が詐欺容疑で逮捕されると事件の全容が明らかになり、清水らは逮捕された。翌年の平成17年6月18日に遺体が発見され清水らは殺人、遺体遺棄容疑で再逮捕された。
クズ同士の仲間割れ
求刑死刑の被告の裁判経過
【2006】11/13
被告A、被告D、他1被告の第一審論告求刑公判
検察側は、「犯行は執拗で残忍」「まれに見る凶悪、重大な犯行。被害者に対する暴行はこの世の地獄を思わせるもので、人間の所業ではない」として、被告A、被告Dに対して死刑を求刑
【2007】
01/11
被告A、被告D、他1被告の第一審最終弁論
弁護側は、殺人罪で起訴された1人ついて、「殺意はなかった」と傷害致死罪の適用を主張
02/26
被告C、被告Bの第一審論告求刑公判
検察側は、「まれに見る凶悪重大事件。反省の態度もなく矯正は不可能」として、被告C、被告Bに対して死刑を求刑
04/27
被告C、被告Bの第一審最終弁論
被告C、被告Bとも殺人と傷害致死の起訴事実を否認
05/21
玲雄被告(A)、阿多真也被告(D)、他1被告の第一審判決公判 判決文(PDF)
千葉地裁(彦坂孝孔裁判長)は、伊藤被告に求刑通り死刑を、阿多被告には無期懲役(求刑死刑)を言い渡し
08/07
渡辺純一被告(C)、清水大志被告(B)の第一審判決公判 判決文(PDF)
千葉地裁(彦坂孝孔裁判長)は、清水被告に求刑通り死刑を、渡辺被告には無期懲役(求刑死刑)を言い渡し
【2008】
03/13
伊藤玲雄被告(A)、阿多真也被告(D)他1被告の控訴審初公判
06/19
渡辺純一被告(C)、清水大志被告(B)の控訴審初公判
【2009】
03/19
殺人、傷害致死などの罪に問われた渡辺純一被告(C・32)の控訴審判決公判
東京高裁(長岡哲次裁判長)は、無期懲役とした一審判決を破棄し、死刑を言い渡し
渡辺純一被告(C)の弁護側は判決を不服として即日上告
05/12殺人、傷害致死などの罪に問われた清水大志被告(B・29)の控訴審判決公判
東京高裁(長岡哲次裁判長)は、死刑とした一審判決を支持し、弁護側、検察側双方の控訴を棄却
裁判長は「人命を無視した冷酷かつ残忍な犯行で中心的役割を果たした。反省の念に乏しく、更生は困難」と述べる
清水大志被告(B)の弁護側は判決を不服として上告
08/18
殺人や傷害致死などの罪に問われた阿多真也被告(D・31)の控訴審判決公判
東京高裁(長岡哲次裁判長)は、無期懲役とした一審判決を支持し、弁護側、検察側双方の控訴を棄却
裁判長は被告の自首が共犯者の摘発や被害者の遺体発見につながったとして「死刑がやむを得ないとまでは言い難い」と判断
阿多真也被告(D)の弁護側は判決を不服として上告
08/28
殺人、傷害致死などの罪に問われた無職の伊藤玲雄被告(A・35)の控訴審判決公判
東京高裁(長岡哲次裁判長)は、死刑とした一審判決を支持し、弁護側、検察側双方の控訴を棄却
裁判長は「結果の重大性や被告の果たした役割の大きさを考えれば死刑を選択するほかなく、回避するべき事情もない。刑事責任は極めて重大」と指摘
伊藤玲雄被告(A)の弁護側は判決を不服として上告
【2012】
12/04渡辺純一被告(C)、清水大志被告(B)の上告審(最高裁第3小法廷)口頭弁論 被告側は死刑回避、検察側は上告棄却を求めて結審。両被告の弁護人とも2件の殺人について「実行役へ殺害を指示したことはない」と共謀を否定
【2013】
01/28
伊藤玲雄被告(A)の上告審(最高裁第1小法廷)口頭弁論 弁護人は弁論で「主犯格の支配で正常な判断能力を欠いていた。従属的役割に過ぎず、死刑は重すぎる」と主張。検察側は上告棄却を求める
01/29
渡辺純一被告(C・36)の上告審(最高裁第3小法廷)判決
最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は、被告側の上告を棄却
裁判長は「4人の命が失われた結果は重大。被告は犯行の中核メンバーで、殺害の実行を指示するなど重要な役割を果たしており、死刑はやむを得ない」と述べる
清水大志被告(B・33)の上告審(最高裁第3小法廷)判決
最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は、被告側の上告を棄却
裁判長は「粘着テープで縛られ身動きが取れない被害者の鼻と口をふさいで殺害するなど、冷酷で非情。主導的かつ中心的立場で、殺人への関与を否認するなど反省の態度もうかがえない」と述べる
02/28
伊藤玲雄被告(A・38)の上告審(最高裁第1小法廷)判決
最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)は、被告側の上告を棄却
裁判長は「被告は犯行の中核部分を自ら進んで実行しており、死刑を認めざるを得ない」と述べる
渡辺純一被告 裁判焦点
公判前整理手続きを採用。2006年9月4日の初公判で、渡辺純一被告は罪状認否で、死体遺棄罪などの起訴事実は認めたが、「殺害の指示も共謀もしていない」などと述べ、殺人と傷害致死罪については否認した。
その後の公判では、清水大志被告とともに審理された。
検察側は清水被告を詐欺グループを取りまとめた「頂点」と位置づけ、渡辺被告を暴力団構成員としての経歴を生かして犯行に加担したなどとした上で、「2人のグループ内での影響力は絶対的だった」と指摘。両被告を、殺害を指示した「主犯格」と位置付けた。
両被告は「暴行は指示したが、殺せとは言っていない」「検察の主張するエピソードは間違えている。やってもいない殺人に対して、反省を求められても困る」と繰り返し、殺人と傷害致死罪に当たるのは実行犯の3被告だと主張。弁護団も「共犯者同士で『殺害を指示された』と口裏を合わせている」との見方を示していた。
2007年2月26日の論告求刑で、検察側は「まれに見る凶悪重大事件。反省の態度もなく矯正は不可能」と指摘した。
4月27日の最終弁論で、渡辺被告、清水被告とも殺人と傷害致死の起訴事実を否認。弁護側は最終弁論で「一連の犯罪は計画性がなく、被告はまだ若く更生の可能性もある」と情状酌量を求めた。
最後に裁判長から「何か言っておくことはないですか」と問われた際、清水被告は「逮捕されてから(仲間が)どんどん敵味方に分かれ、(実行犯の)3人と争う形になってしまった」と言葉少なに、また渡辺被告は「自分はグループのトップではない」と、それぞれ述べた。
8月7日の判決で彦坂裁判長は、伊藤被告らの「清水、渡辺両被告から殺害指示を受けた」とする供述は認めなかったが、「殺害が最も有力な解決手段との認識をもって伊藤被告らに解決を任せた」と、清水、渡辺両被告と伊藤被告らとの共謀があったと認定した。その上で清水被告について「首謀者として殺害の謀議をまとめ上げ、終始殺害に向けて積極的に行動して共犯者をけん引。殺害実行を唯一止めうる立場にありながら、伊藤玲雄被告に責任を押し付けた渡辺被告の行動を最終的に容認し、次善策を講じようとしなかった」と指摘。その上で「直接的な殺害指示があったとまでは認められないが、首謀者としての罪責はあまりに重大で極刑をもって臨むほかない」「人命を全く軽視し、強固な殺害意思に基づいた極めて冷酷かつ非道な犯行」と断罪した。渡辺被告については「被害者の処遇を自ら決定するような首謀者でなく、当初は清水被告に事の成り行きを任せていた」と述べ、「死刑の選択にはちゅうちょを禁じ得ない」とした。
また伊藤被告らの判決と同様、検察側が殺人罪を主張した3人のうち1人について、傷害致死罪が相当と認定した。
清水大志被告 裁判焦点
公判前整理手続きを採用。2006年9月1日の初公判で、清水被告は「殺人の実行行為も共謀もしていない」と主張し、殺人と傷害致死の起訴事実を否認、逮捕監禁と死体遺棄は認めた。清水被告側は「監禁、暴行が続いた2日間に、清水被告が常に現場にいたわけではなく、4人が死亡した時にも不在だった」とし、「ほかのメンバーに監禁や暴行は指示したが、殺せとは言っていない」と主張。殺人罪と傷害致死罪に当たるのは、あくまでも実行犯のメンバーで、清水被告は共謀関係にないとした。
検察側は冒頭陳述で、残酷なリンチの様子を詳細に再現。「一連の犯行は、グループのリーダーだった清水被告が主導した」と断定した。
なお清水被告は、徳島地検が追起訴した組織犯罪処罰法違反罪(組織的詐欺)の容疑についても「私はその事実に関与していない」と全面否認している。
2006年9月5日の初公判で、渡辺純一被告は罪状認否で、死体遺棄罪などの起訴事実は認めたが、「殺害の指示も共謀もしていない」などと述べ、殺人と傷害致死罪については否認した。
2007年2月26日の論告求刑で、検察側は「まれに見る凶悪重大事件。反省の態度もなく矯正は不可能」と指摘した。
4月27日の最終弁論で、両被告とも殺人と傷害致死の起訴事実を否認。弁護側は最終弁論で「一連の犯罪は計画性がなく、被告はまだ若く更生の可能性もある」と情状酌量を求めた。
8月7日の判決で彦坂裁判長は、伊藤被告らの「清水、渡辺両被告から殺害指示を受けた」とする供述は認めなかったが、「殺害が最も有力な解決手段との認識をもって伊藤被告らに解決を任せた」と、清水、渡辺両被告と伊藤被告らとの共謀があったと認定した。その上で清水被告について「首謀者として殺害の謀議をまとめ上げ、終始殺害に向けて積極的に行動して共犯者をけん引。殺害実行を唯一止めうる立場にありながら、伊藤玲雄被告に責任を押し付けた渡辺被告の行動を最終的に容認し、次善策を講じようとしなかった」と指摘。その上で「直接的な殺害指示があったとまでは認められないが、首謀者としての罪責はあまりに重大で極刑をもって臨むほかない」「人命を全く軽視し、強固な殺害意思に基づいた極めて冷酷かつ非道な犯行」と断罪した。渡辺被告については「被害者の処遇を自ら決定するような首謀者でなく、当初は清水被告に事の成り行きを任せていた」と述べ、「死刑の選択にはちゅうちょを禁じ得ない」とした。
また伊藤被告らの判決と同様、検察側が殺人罪を主張した3人のうち1人について、傷害致死罪が相当と認定した。
被告側は即日控訴した。検察側は「殺人罪を主張した被害者3人のうち1人を傷害致死と認定したのは事実誤認だ」として控訴した。
長岡哲次裁判長は判決で「清水被告に殺害を指示された」とする共犯者の供述は信用性があると認定。殺害の共謀関係はなかったとする被告側の主張を退けた。検察側は被害者1人について殺人罪が相当だと訴えたが、判決は一審同様、傷害致死罪を適用した。
そして長岡裁判長は「人命を無視した冷酷かつ残忍な犯行で中心的役割を果たした。反省の念に乏しく、更生は困難」と述べた。
2012年12月4日の最高裁弁論は、渡辺被告とともに行われた。弁論では両被告の弁護人とも2件の殺人について「実行役へ殺害を指示したことはない」と共謀を否定した。そして被告側は死刑回避、検察側は上告棄却を求めて結審した。
第三小法廷は「粘着テープで縛られ身動きが取れない被害者の鼻と口をふさいで殺害するなど、冷酷で非情。主導的かつ中心的立場で、殺人への関与を否認するなど反省の態度もうかがえない」と述べた。判決は渡辺被告と別に開かれた。
伊藤玲雄被告 裁判焦点
2006年3月29日の初公判、起訴事実の認否で3被告(伊藤玲雄被告、阿多真也被告、鷺谷輝行被告)は、YOさん(当時34)殺害については否認したが、他の3人の殺人、傷害致死についてはほぼ認めた。2006年11月13日の論告求刑公判で検察側は「犯行は執拗で残忍」「まれに見る凶悪、重大な犯行。被害者に対する暴行はこの世の地獄を思わせるもので、人間の所業ではない」と指摘した。
2007年1月11日の最終弁論で弁護側は、口や鼻を粘着テープでふさがれるなどして殺害されたYOさんの事件について、「殺意はなかった」と傷害致死罪の適用を主張。また、清水大志被告らリーダー格による殺害の指示を拒めなかった、と情状面の理解を求めた。阿多被告側は、起訴されたすべての罪で自首が成立すると主張した。
3被告は最終陳述で涙ながらに謝罪し、このうち伊藤被告は「裏切ったら家族ごと殺すと脅された。生きて罪を償う道を与えてほしい」と訴えた。
彦坂孝孔裁判長は「人命を全く軽視した非道な犯行で、主導的に殺害行為をした責任は極めて重大だ」と述べた。検察側は男性3人に対する殺人罪が成立すると主張したが、彦坂裁判長は、テープで縛られて死亡した1人の死亡について「殺意までは認められない」と傷害致死罪を適用した。また、殺害の指示を否認しているグループの主犯格メンバー清水大志被告らの指示を認めた。弁護側は「殺害は(グループ内の首謀者とされる)渡辺被告への恐怖心に支配された結果」などと主張したが、彦坂裁判長は「行為に直接関与しており、認められない」と退けた。一方、阿多被告は捜査段階で供述した殺人以外の罪について自首の成立を認め、「伊藤被告らの言動に影響された面があった」として死刑を適用しなかった。鷺谷被告は「伊藤被告に同調した従属的な犯行」とした。
被告側は量刑不当を理由に控訴した。千葉地検は地裁判決に事実誤認があったとして、東京高裁に控訴した。判決で、地検が殺人罪を主張した3人のうち1人について傷害致死罪が相当と認定した点を事実誤認とした。地検は控訴に踏み切った理由を、犯行グループのリーダーで無職の清水大志被告らの量刑に影響があるためとしている。
2008年3月13日の控訴審初公判で、検察側は、一審判決が傷害致死罪に当たると認定した1人について、「事実誤認で殺人罪に当たる」と主張。死刑求刑に対し、無期懲役とされた阿多被告については量刑不当を訴えた。
伊藤被告の弁護側は「リーダーらのマインドコントロール下での犯行だった」と主張、死刑回避を求めた。
判決理由で長岡哲次裁判長は「被告は反省しているが、執拗で残忍な態様、結果の重大性などを考えれば死刑を回避すべきとはいえない」と結論付け、無期懲役を求めた弁護側の訴えを退けた。被害者4人について、は被害者が死亡した状況は被告の供述から「殺意があったと認定することはできない」として、殺害3人、傷害致死1人との検察側主張を認めず、殺害2人、傷害致死2人と認定した一審判決を踏襲した。
2013年1月28日の最高裁弁論で、弁護人は「主犯格の男に脅され、さらに支配されて正常な判断能力を欠いていた。従属的役割に過ぎず、死刑は重すぎる」と主張。検察側は上告棄却を求めた。
判決で桜井龍子裁判長は伊藤被告について「被害者の鼻と口をふさぐなど、殺害行為の中核部分を進んで実行しており、犯行で果たした役割は大きい」と指摘。リーダーの清水大志死刑囚らと比べて「従属的立場にあった」としつつも、「殺害行為の態様は冷酷、残忍で、4人の命が奪われた結果は重大で、死刑を認めざるを得ない」とした。
死刑
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