【洒落怖】握手(名作・長編)

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『握手』

389 :生肉を揉む揉む:04/05/02 11:29 ID:np+sJ80l


ごく親しい友人数人にしか話してない事なんだけどさ、ちと書いてみる。

友人らにも一笑にふされたけどね。


オレってば結構、?っていう経験が多いのね。

霊感がどうのとか分かんないけども。

そりゃ、真夜中の自室で後ろ向いたら首の無い人が佇んでました・・・

なんてあからさまな経験は無いけどね。

変だなぁ・・・って思うような事はそこそこ体験してきた。

その内の一つ、今までで一番生きた心地がしなかった時の話。


415 :生肉を揉む揉む:04/05/02 23:03 ID:np+sJ80l


当時・・・と言っても、もう8年も前の話。

オレと言えば、昼は仕事、夜は夜間の大学と、我ながら中々に苦学生してた。

そんなもんだから、学校終わったらもう深夜。

いつもは翌日の仕事に備えてサッと帰って、そのまま床に着くのだが、

その日は土曜日。

翌日は休日なものだから、

えっちらおっちらマイペースで自転車漕いでたのよね。

帰り道、道と言っても超が付くほどの田舎だから、

田んぼの畦道の延長みたいな道だけどね、

結構、というかかなり不気味なんだよね。

想像してもらったら解るかもしれないけど、草木も眠る丑三つ時に、

一人だだっ広い田舎道。

しかも周りには、マネキンの首などを使ったリアルなカカシが

こちらを凝視してる。

まぁ、その頃にはとっくに慣れきっていたんだけどね。


416 :生肉を揉む揉む:04/05/02 23:05 ID:np+sJ80l


帰路の途中、いつもなら見向きもしない自販機に目が止まったのは、

珍しく金銭的にも余裕があったからなのかな。別段喉も渇いてないのに。

田舎の人なら解るだろうけどさ、メジャーなメーカーの自販機じゃなくてね。

今で言うと、コーヒーの細長いロング缶あるでしょ?

全部がそのサイズの自販機。

かなりアナクロナイズなやつだね。当たったらもう一本、

なんていうおみくじ付き。

切れかかった電灯が発してたジジジ・・・という音がやけに耳に響いてた。

417 :生肉を揉む揉む:04/05/02 23:07 ID:np+sJ80l


田舎の深夜なんて車通りもないから、信じられないくらい静かでさ、

やけに小銭を投入する音が響いてた。

お金を入れてボタンを押したら、

おみくじのランプが「ぴぴぴぴぴぴ・・」って鳴り始める。

シーンとした辺りに、そのチープな電子音がやけに不釣り合いで。

当たっても二本も飲めないしな・・・なんて苦笑しながら、

ジュースを取ろうとしたんだけどさ、

自販機の切れかかった電灯の薄暗い明かりくらいしかないから、

取り出し口なんてほとんど真っ暗で見えない。

ジュースはどこだ?と手探りで取り出し口内をまさぐってたらさ、

握られたんだよね。手を。


418 :生肉を揉む揉む:04/05/02 23:09 ID:np+sJ80l


意味解んないと思うけど。取りだし口の中で手を掴まれたの。

ちょうど握手をするような形で。

一瞬頭が真っ白になった。

間違いなく人の手の感触だった。

しかもね、段々握る力が強くなってくるのよ。痛いくらいに。

そこで我に帰って、うわぁっと必死に手を振りほどいた。

相当強く握られてたのにあっさり手は抜けて、

オレは半狂乱で自転車にかけ乗って、全力でその場を離れた。

混乱してたからハッキリとした記憶は無いんだけど、

その手の感触と、背中ごしに聞いた「ぴぴぴぴぴぴ・・・」

という音だけは鮮明に覚えてる。

そういえば、おみくじなんてボタン押して5秒くらいで止まるのに、

何故かずっと「ぴぴぴぴぴぴ・・」って言ってたな・・・今考えると。


419 :生肉を揉む揉む:04/05/02 23:11 ID:np+sJ80l


一人暮しの家に帰るなんてゾっとしたからさ、

そのまま友人の家に転がりこんだよ。

で、その判断は大正解だった。一人だったら気が狂ってたかもしれない。

何故かって言うとさ、直んないのよ。手が。

握手の形のまま、そこだけ金縛りにあったかのように硬直してるんだよ。

友人もただ事ではないと思ったらしく、

二人で朝まで頭の中で念仏を唱えてたら、

夜がふける頃に、急に何かから解き放たれるように硬直が解けたよ。


それからというもの、オレはどんな物にせよ、

『口』になってる物に手を突っ込めなくなってしまった。

自販機はもちろん、郵便受けやポストなんかでさえ。

だってさぁ・・・『握手』・・・されるでしょ、また。多分・・・

420 :生肉を揉む揉む:04/05/02 23:32 ID:np+sJ80l


この話には後日談があってね。今から二年前、握手から六年後だね。


法事のために田舎に帰省した時ね、あの時から一度も通った事なかったあの道。

(近道に使ってた裏道だったから、幸いにも卒業まで一度も通らずにすんだ)

なんでだろね。あれほど忘れようと思ってたトラウマのあの場所に、

ちょっと行ってみようか、という気持ちになった。

理由は解んないけどさ、

導かれるように・・・なんて言ったら安っぽくなっちゃうけど。


何かあったら嫌だな・・・と内心ビクビクしながら車を走らせてたらね、

あっけない結末だった。

無かったんだよね、その自販機。

そりゃそうだよね。あの時ですらかなり古かったのに、

あれから八年も経ってるんだから。

当然と言っちゃ当然なんだけど、何かさ、

数年間に渡る呪縛から解き放たれたみたいで、心底ホっとした。

これで完全に忘れられるな、と思ってね。


せっかくの帰省なんだから、昔馴染みの連中と飲みに行ったよ。楽しかった。

ほんと、ここで話が終われば良かったんだけどね。


421 :生肉を揉む揉む:04/05/02 23:48 ID:np+sJ80l


気分も良く、ほろ酔い加減になったオレは、

みんなにこの話を聞いてもらおうと思った。

八年前は、思い出すのも言葉にするのも嫌だったから話せなかったんだけど。

多分ね、なんだそりゃって、皆に笑って欲しかったんだろうと思う。

それでオレも笑って、この忌まわしい記憶はおしまい。

そうなってほしかった。そうなるはずだった。


つらつらと話してる途中でさ、友人の一人が「ちょっと待った」と、

話の腰を折った。

「何?」とオレが聞いて返ってきた言葉は、オレの酔いを完全に覚めさせた。

聞かなきゃよかった。話さなけりゃよかった。何で話してしまったんだろう。何で。

そいつが言うに、


「あの道にそんな自販機なんか見た事ない」


他の四人も同様に口を合わせる。

おかしいぞ、おい、K。

お前はあの時、朝まで念仏を唱えてくれたじゃないか。

オレは卒倒しそうになった。あの時泊めてくれた友人のKまで、

そんな自販機知らないと言う。

あの夜の事も覚えていなかった。

422 :生肉を揉む揉む:04/05/03 00:07 ID:lqVhufkH


どう言ったらいいか分からないんだけどね。

オレ、段々とこの時の記憶が無くなっていってる事に気付いたんだよね。

なんていうかさ、夢って目が覚めた瞬間は覚えてるけど、

その記憶を持続させようとしても、ウソのように消えていっちゃうでしょ?

夢の記憶。

ちょうどそんな感じでさ、オレほんとは、

あの時の自販機で何を買ったかとか、あの時の学校の授業は何だったとか、

ハッキリ覚えてた。

でもほんと、ウソみたいに記憶から抜けていった。

忘れたくても忘れられるような事じゃないのに。

今ではもう、先に書いた事くらいしか記憶に残ってない。

何かの意思というか、そういう物を感じるんだよね、これ。


オレさ、変な予感があるんだけどさ、

完全にオレの中からこの記憶が無くなった時、

普通にまた何かの『口』に手を入れて、またされるんじゃないかと思う。

『握手』を。


以上です。長文失礼しました。

もっと細部まで書こうとしたのに、驚くほど記憶が消えてて恐いです。

ちなみに健忘性などではございませんので。

この事だけなんです。こんなのは。


436 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/05/03 05:04 ID:v9UwnHwX


ふと「怖い話が読みたくなったな」と思い立って、

久々にオカ板に来てこのスレを見つけて、>>1からしばらく読んでいました。

それまでは普通にガクブルだったんですが、>>422を読み終わった瞬間、

泣いてしまったんです。なぜか。

話はとても怖かったけど、泣いたのは怖かったからではなく、

ただただ悲しかったのが伝わってきて、泣いてしまったのを覚えています。


しかし、別に読むだけなら特に悲しい話では無いし、

自分でも意味がわかりません。

当方男。深夜なので声は殺しましたが、気を抜くと号泣しそうでした。

涙腺がゆるいわけでも霊感があるわけでもないのに…なぜ?

何かのメッセージなんでしょうか、あるいは。

437 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/05/03 05:20 ID:lcnnCu/C


>>436

あなたも体験してるけど、記憶を消されてるんじゃない?


441 :生肉を揉む揉む:04/05/03 07:58 ID:lqVhufkH


感想ありがとうございます。


一つ、とても大事な事を書き忘れたので、書いておきます。

ていうか、忘れてたというのが恐いです。

絶対にこれだけは忘れちゃいけないのに。


あの時、恐ろしく強く手を握られていたのに、あっさり抜けたのは、

私が持ってるお守りのおかげだと、今では思っているんです。

お守りと言っても、その方面に強かった祖母(故人ですが)の力と

髪の毛が一本入ってるお手製の物なんですが。


「田舎には物の怪が多いから」


と、祖母が生前に親戚筋へ配ったとか。

それはわが家にももちろんあり、私は交通安全くらいにはなるかなと、

常備携帯してたのです。

祖母が守ってくれたんだなと、今では確信してます。

多分これがなかったら、放してもらえなかったと思う・・・手を。


このレスを書こうとした時に、ふと恐ろしい想像をしてしまったのですが、

そんな事ないと、誰が笑い飛ばしてほしい。


記憶が消えてってるのは、

このお守りの存在を忘れさせようとしてるのではないか。

あの日から常に肌身離さず携帯してるお守り。

絶対この事を書こうとしてたのに、なぜか忘れてた。

このお守りの事まで忘れてしまったら、多分おしまいだと思う。

次は放してくれないと思う。

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Sharetube