イラク日本人青年殺害事件の「香田証生さん」とは
イラク日本人青年殺害事件
イラク日本人青年殺害事件(イラクにほんじんせいねんさつがいじけん)とは2004年10月に発生した、国際的テロ集団であるアルカーイダの有力者であるヨルダン人幹部アブー=ムスアブ・アッ=ザルカーウィーが率いているとされるイラクの聖戦アルカーイダ組織を名乗るグループによって日本人青年(当時24歳)が殺された事件である。
出典:Proxyとか
拉致された香田証生さん
事件の概要
2003年5月1日、イラク戦争終結宣言が行われた。その後のイラク国内では、旧政権の残存勢力やイスラム過激派によるテロが多発していた。2004年4月には、イラク日本人人質事件を含む一般人を人質とするテロも発生していた。そうした最中の同年10月27日午前2時、「イラクの聖戦アルカイダ組織」を名乗るグループが、インターネットで日本人青年を人質にしたと犯行声明を出し、日本政府が48時間以内に、イラクからの自衛隊撤退に応じなければ殺害すると脅迫してきた。それに対し日本政府は、青年の解放を求めたが、要求についてはテロリストとは交渉しないとの立場から、犯行声明から約5時間後の同日午前7時に小泉純一郎首相が細田官房長官に「自衛隊は撤退しない」と電話で指示、拒否した。その後、青年はグループにナイフによって首を切断され殺害された。遺体は2004年10月31日未明にバグダード市内で発見された。10月31日 小泉首相は「解放のためあらゆる努力を尽くしたにもかかわらず、青年がテロの犠牲となり、痛恨の極みだ。引き続き自衛隊による人道復興支援を行う」と声明を発表した。11月2日には犯行グループが犯行声明とともに、青年を星条旗の上で殺害する場面をネット上で動画配信した。
2006年2月、別の殺人事件で取り調べを受けていた元イラク陸軍兵のザルカーウィー派テロリスト・フセイン・ファハミ・バドル容疑者(26)が、バグダードにあるスンニ派のモスクの付属施設に監禁されていたこの日本人青年を殺害したと自供した。この元兵士には無差別爆弾テロ等の余罪があり、日本人青年殺害と併せて起訴された。11月22日バグダードの中央刑事裁判所は、イラク人男性1人の殺害について有罪と認定し、元兵士に死刑の判決を下した。供述によると、青年の拉致、殺害にかかわったのは計6人。イラク内務省はこのうち4人を逮捕。2006年6月8日、アメリカ軍がF-16戦闘機の爆撃でアブー・ムスアブ・アッ=ザルカーウィーを殺害した。
首謀者とされるザルカウィ容疑者
事件のおおまかな流れ
10月27日02:07 「イラク・アルカイダ機構」がウェブサイトで、日本人男性1人を人質にしたとするビデオ映像を配信する
06:09 カタールの衛星テレビ「アルジャジーラ」が同映像を放映
06:10 人質事件の情報を受けて、首相官邸に連絡室を設置
07:00 在ヨルダン大使館に現地対策本部を設置
07:25 小泉首相が台風23号の被害視察に向かう自衛隊機から細田官房長官に「自衛隊は撤退しない」と電話で指示
08:45 外務省の竹内行夫事務次官がべーカー駐日米大使に電話。べーカー氏は「自衛隊を撤退する考えはないとの日本政府の決定を支持し、敬意を表する」
10:00 小泉首相が兵庫県豊岡市で記者団に「テロに屈することはできない。自衛隊は撤退しない」
11:25 細田官房長官が記者会見で「人質は香田証生さんとみられる」と発表
11:30 町村外相がアルジャジーラのインタビューを受ける。「香田さんは純粋な民間人。日本はイラクの友人だ」
18:30 香田さんの両親と兄が福岡県直方市の自宅前で記者団に「彼は同情心や正義感でイラクの人々の苦しみに目を向けようとした。解放を心よりお願いします」
28日
07:55 現地対策本部の指揮をとるため派遣された谷川秀善外務副大臣がヨルダンに到着
15:00 民主党の対策会議。駐イラク大使がイラク暫定政府に電話で働きかけている、との外務省側の説明に、「バグダッドは大使が外出できないほど危険なのか」との質問が出る。外務省側は「そうです」
16:00 自民党の亀井静香元政調会長が小泉首相に会い、「イラク政府が救出できないなら、サマワに駐留する自衛隊が捜索、救助活動をするべきだ」と提案
29日
02:07 ウェブサイトでビデオ映像が流れてから、犯行グループが自衛隊撤退の期限とした48時間が経過
10:00 香田さんの母節子さんらが東京の外国人特派員協会で記者会見。「政府に自衛隊撤退を求めるか」との質問に、「一民間人として国に何をしろとは言えません」
11:30 「アジア的な特徴がある外国人の遺体がイラク北部のティクリートで見つかった」とドイツ通信が報道したことが、首相官邸で開かれた対策本部の会合で取り上げられる
18:50 町村外相が「駐イラク大使が入手した情報によると、(ティクリートで)発見された遺体が香田さんである可能性は非常に低い」と記者団に
30日
未明 イラク駐留米軍から在イラク日本大使館に「バグダッドとティクリートの中間にあるバラドで日本人らしい遺体が発見された。香田さんの特徴と一致する部分がある」との連絡
01:15 在イラク大使館からアンマンの現地対策本部に連絡
02:30 香田さんの家族に外務省から連絡
03:12 細田長官が官邸に。記者団から「香田さんらしい人が見つかったということか」と問われ、「まあ、それに近い」と答える
04:00 外務省で高島肇久外務報道官が記者会見。「バラドで日本人らしい遺体が発見された。遺体は、香田さんの体の特徴と一致する部分がある」と語る
05:00 自民党本部で与党対策会議。細田長官が経緯を説明
12:00 遺体を載せた米軍の輸送機がクウェートの空港に到着。在クウェート日本大使館の医務官が遺体を確認
15:35 細田長官が記者団に「遺体を医務官が確認したところ、総合的に判断して、香田さんではない、と確認した」
31日
03:30 イラク保健省から大使館に遺体発見の一報
10:19 町村外相が記者会見。「今朝バグダッド市内で遺体が発見され、指紋が一致したため、香田さんの遺体と確認した」
11:00 民主党の岡田代表が会見。「改めて12月14日に期限を迎える自衛隊の撤退を強く求める」との声明を発表
12:45 小泉首相が声明を発表。「解放のためあらゆる努力を尽くしたにもかかわらず、香田さんがテロの犠牲となり、痛恨の極みだ。引き続き自衛隊による人道復興支援を行う」
人質になった香田さんとは?
香田証生(こうだ・しょうせい)24歳
直方市にある実家。父真澄さん、母節子さん、祖父、妹の五人が暮らし。高校二年の終わりまで東海大第五高校(福岡県宗像市田久、松岡哲校長に通学。当時の担任平田恒敏教諭(54)。生活態度や成績もよく、学校行事にもクラスメートと協調性を持って取り組んでいた。
一九九七年三月末付で同校を転出し、通信制高校の「NHK学園」に転入。中学は福岡県直方市にある植木中学校。高卒の資格を取得した後はフリーターとして働いていたという。福祉施設で介護の仕事などもしていた。熱心なキリスト教信仰者の家に生まれ腕に十字架のタトゥーをしていたという。7、8カ月前にニュージーランドで語学を勉強後、2、3カ月前にイスラエルに入国。ヨルダン経由でのイラク行きを決めてクリフホテルに宿泊していた。
イラク行きを止めた四ノ宮浩さん
NHKの放送よりイラクの隣国ヨルダンのアンマン地区にあるホテルに滞在していた映画監督の日本人(四ノ宮浩さん)に 香田さんが「イラクに旅行に行きたいのでホテルを紹介して欲しい」と依頼したので 四ノ宮さんは危険なので香田さんを引きとめようとしたが、香田さんは忠告を振り切りイラク入りした模様。
アンマンのホテルにて
香田さん 「イラクに旅行したいので現地のホテルを紹介してくれ」
四ノ宮氏 「イラクは危ないから行かない方が良いよ?」
香田さん 「大丈夫ですよ」
バグダット行きのバスに乗り込む直前にも
四ノ宮氏 「だから行くのは辞めたほうが…」
香田さん 「なんとかなる」
そのままバグダットへ行き人質になる。
香田さん 「ごめんなさい、日本に帰りたい…」
アンマンで最後に会った四ノ宮氏の証言
・「とりあえず見てみたい」と言っていた。
・やめておいた方がいいと止めたが行ってしまった。
・携帯電話のような装備も全く持っておらず、危険と認識していないようだった。
・バス停で止めようと思い、一緒に行ったが「何とかなりますよ」という感じだった。
監督 四ノ宮浩(しのみや ひろし)
1958年、宮城県仙台市生まれ。大学在学中に寺山修司率いる「天井桟敷」に入団し、大学を中退。その後、様々な職業をへて1986年に監督デビュー。
イラク日本人青年殺害事件
イスラム過激派組織の声明要旨
日本の軍隊に付き従う部隊の一人が「イラクの聖戦アルカイダ組織」の人質となった。彼はイスラエル、ヨルダン、その後、イラクを訪れた。彼に関する(旅券などの)書類は、後に公開する。われわれは日本政府が四十八時間以内にイラクから軍隊を撤退させるよう要求する。さもなければ(米国人)バーグ氏、(英国人)ビグリー氏と同様に、この人質の首を切る。
イラク聖戦アルカイダ組織
人質になった香田証生さん
事件に対する反応
■小泉純一郎首相が即座に要求を拒絶したことについて、町村信孝外務大臣は問題無いとしたが、それに対し賛否両方の意見があった(即答する必要はなかったのではないかといった意見)。■一部の勢力では「被害者の死の責任は自衛隊を派遣した小泉首相にある」という意見があった。
■青年は制止を振り切って隣国ヨルダンよりバスでイラク国内に入っており、外務省など関係機関が把握しきれるものではないとする擁護論があった。
■動物園職員が勤務中に見ていたところを通りがかりの親子が目撃してストレス障害になったり、中学校で生徒が授業中にパソコンで動画をダウンロードしたり、殺害画像が携帯電話のメールに添付されるとともに、複数の第三者にメール転送するよう強要するメッセージが入ったチェーンメールの手法で出回ったりするなどした。
■ヴィジュアル系バンドが5000人あまりの観客を前に「イラク日本人青年殺害事件」でイラクの武装組織、アルカイーダに拉致された日本人男性が首を切られる一部始終の映像を流した。
追悼
■2004年10月31日、福岡県を訪問中の皇太子徳仁親王は、イラクで同県出身の青年が殺害されたことについて、麻生渡知事に対し「大変残念な結果でありました。ご家族にお悔やみを言ってください」と伝えている。■陸上自衛隊が駐留するイラク南部サマワで、2004年11月5日、イスラム教の金曜礼拝が行われた。シーア派の有力聖職者マード・アルワイリ師は日本人青年が武装グループに拉致され、殺害されたことについて「日本政府と青年のご家族に哀悼の意を表したい」と述べた。さらに自衛隊について「日本人はイスラム教徒ではないのにイラクの復興に協力しており、感謝しなければならない」と集まった信徒に説諭した。
■青年の死を追悼しようと、福岡市民がろうそくを手に平和を祈りながら街を練り歩くキャンドルウオークが2004年11月6日夜、福岡市内で行われた。
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