【洒落怖】よくないもの(名作・長編)

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『よくないもの』

502 :本当にあった怖い名無し:2009/07/10(金) 19:04:58 ID:h1B9YgXf0


自分、霊感0。霊体験も0。

だから怖い怖いといいながら、洒落怖を見てしまうのさね。


何年か前、当時大学生の親友のAから、奇妙な頼まれごとがあった。

そう…ちょうど、こんな蒸す季節のこと。

「俺の母方の実家に一緒に行ってくれ」

「ボク…男の子だよ…本当にいいの?」

なんでも、前年20歳になるときに母親に連れて行かれた実家に、

どうしても今年も行きたいとのこと。

ところが、母親は用事があって外せず、かといって一人もイヤだというので、

高校生の頃からの付き合いだった自分にお鉢が回ってきたのだ。

「お前も変わってるよな。母方の実家に友達連れて行くかね」

「まぁ他にいないっつーか…全員断られたから」

そりゃそうだ。

Aの母方の実家ってのは、とある山間のちっさい村で、ドがつく田舎だった。

でも、電気水道にネットまで通ってるんだけどさ。


列車に揺られて10時間とかそういうレベル(大半が待ち時間だけど)

だったので、手持ち無沙汰ということもあって、

ぽつぽつと、去年あったという話をしてくれた。


去年、Aは20歳になるときに必ずその村に来るようにと、

かたくかたくかた~~~く母親に言われていて、

心底イヤイヤついていったんだそうだ。


503 :502:2009/07/10(金) 19:07:51 ID:h1B9YgXf0


自分も見てきたけど、本当にド田舎。娯楽施設なんてありゃしない。

まぁそれでも結構な家柄の母親の手前、

成人した息子をお披露目に…とかそういう話なんだろなと、

連れられて村に来たんだそうだ。


案の定、実家についてもすることなんかない。漫画なんてあるわけない。

ゲーセンもなければPS2もおいてない。

コンビニも山2つ越えたところにあるとかないとか、そういう世界。

その割に来客もないし(祖父母に挨拶したくらい)、

俺何しに来たんだ?っていう感想だったそうな。


さすがにゴロゴロし飽きたのか、

家を出てお店のある辺りまで散歩していったんだと。

そこで、それは起きた。

駄菓子屋みたいなところに入って、声をかけたら、

「もうウチは閉めるよ!帰って!」と追い出され、

自販機もないし、何か飲むものをと思っても売ってくれなかった。

ヨソモノ嫌いにしたって程があるだろと、さすがにカチンときたA。

店先にジュース出してたオバチャンに食ってかかったそうだ。

「なんなんすかここ!なんで売ってくれないんです?

 俺なんかしたっつーんですか!」

と怒鳴りつけると、

そのオバチャンは目を合わせないどころか、顔をこっちに向けようともしない。

「ちょっと!」と声を荒げたところ、いきなり、

「ぎゃぁあああ~~!!助けて~~~~!!!○△やぁ~~~!!

 おとうさ~~~ん!!!」

と、ものすごい声で叫び出したという。

504 :502:2009/07/10(金) 19:09:58 ID:h1B9YgXf0


すると、店の奥から木の棒(枝じゃなくて棍棒みたいな奴だったらしい)

を手にした、

白髪のおっさんが飛び出してきた。

それも、威嚇とかじゃなくて、思いっきり振り下ろしてくる。

「○△!いねや!きなや!」とかそんな感じの方言で、

Aを追い払う…というか、それこそ命も狙わんばかりだったそうで、

騒ぎを聞きつけた周囲の住人も、遠巻きにAを囲もうとしていたらしい。


あとはもう必死で山道を駆け上り、

なんで?なんかしたんか俺?と自問を繰り返しながら、家に逃げ込んだそうだ。


「母さん!なんなんここ!マジヤバイって!マジで!」


と、来客中にもかかわらず母親に詰め寄ったA。

ところが、Aのお母さんは何も言わずに下を向いてしまったらしい。


「おー。大きなったなあ、お寺さんおぼえとるか?」


と、母親の向かいに座っていた住職が声をかけてきた。

たぶん自分が小さい頃に挨拶した人なんだろうなと、

記憶にないので、ああ、はい、とかそんな返事をして、

Aは改めて母親に今あったことを説明し出した。


すると住職は、

「覚えとらんか。覚えとらんのか。そうか…。

 覚えとらんそうや、どうするや」

と、Aの母親に尋ねた。

母親は困りきった表情で、返事が出来なかったそうだ。


少しの間、沈黙があったあと、住職が口を開いて言った。

「わしが(話を)しよし」


505 :502:2009/07/10(金) 19:11:29 ID:h1B9YgXf0


話はさかのぼって、Aが生まれてすぐの頃。

母親の産後の休養もかねて実家でのんびりしつつ、

Aを自然の中で育てたいという両親の希望で、

Aと母親は村に戻ってきたという。父親は単身赴任。

その周辺ではいいとこの家だったそうで、

毎日ひっきりなしにAを見に来る人で、ちっとものんびりできなかったとか。

それでも、Aの母方の祖父母は娘自慢に孫自慢で、

近隣にふれて回るような喜びようだったそうな。


そうしたある日、高名なお坊さん

(前述の住職のお師匠さんです。便宜上お師匠さんとします)が、

Aの祖父母と付き合いがあったので、孫の顔を拝みに来たという。

母親がAをだっこしたまま、お師匠さんに顔を見せてやろうとしたとき、

「○△××□○□!」と、誰かがお師匠さんを口汚く罵ったんだそうだ。

Aの母親は、まさか両腕の中にいる赤ちゃんが言ったとは

思わなかったんだろう。

なおも罵声は止まない。

とたんにお師匠さんが仁王様のような形相に変わっていき、

この辺で罵声の主が赤ちゃんだと、周囲の人も気がついたという。

Aの母親は事態が飲み込めず、凍りついたように立ち尽くし、

お師匠さんはダラダラと滝のような汗を流していたそうだ。


「○△や!」


誰かがそう叫ぶと、あっという間に家は大狂乱。

訪問客は履物もそのままに、逃げ出してしまったらしい。

506 :502:2009/07/10(金) 19:12:59 ID:h1B9YgXf0


その日の夜、祖父母と母親、

お師匠さんが真っ青な顔で相談していたところに、

すこしはなれた村にいた住職が呼び出されて来た。

そのときは、Aの家(家っつーかお屋敷級でしたが)

を松明をもった住民が取り囲んで、

それこそ今にも焼き討ちをせんばかりだったそうな。

恐ろしいことに、

どうやら祖父母と母親はAを…Aの命を奪う方法について話をしていたらしい。

それをお師匠さんが「絶対にさせん!」と、頑として折れなかったという。


「やってみよしな」(やるだけやってみようよ、みたいな意味らしい)


そう言ってお師匠さんはAを預かって、お寺で育て始めたそうだ。

詳しい話は聞きそびれたんだけど、

3つか4つのお寺で持ち回りみたいな感じで、

預けられては次に、っていう仕組みだったらしい。


何年かはそう大きなことは起きなかったらしく、

Aが12歳くらいまではお寺にずっといたそうなんだけど、

もう結構なお歳だったお師匠さんは、亡くなってしまったんだそうだ。

お師匠さんのおかげでなんとかやっていたお寺の協力も、

いなくなったとたんに、

お互い厄介ものの押し付け合いで、どうにもならなくなってしまったらしく、

かといって住職もどうしようもなく、結局親元に帰すことになったという。

「そのときはえらく無責任だった」と詫びてくれたそうだけど、

同時に「自分ではどうもできんかった」とも言っていたそうだ。


508 :502:2009/07/10(金) 19:15:29 ID:h1B9YgXf0


○△とかっていうのは、

この地方に伝わる『よくないもの』の呼び名らしくて、

定まった名前があるわけじゃないんだけど、

『そういうもの』に対してつかうものらしい。

○△は口に出してはいけない。

(Aは『アレ』とか、『そういうの』とかで表現してた)

憑かれるらしい。


住職に事情を聞いて、Aはいくらか混乱しながらも落ち着いたらしく、

「なんで20歳になったらここに連れて来いなわけ?」と、質問をしてみた。

すると、それは亡くなったお師匠さんの遺言だったらしい。

「もし20歳までAが○△でなかったら、もう大丈夫だ」と。

(その判断はどうやるのかは分からないけど)

「その代わり、○△だったら、石で頭を割って命を奪え」

とも遺していたんだそうだ。

それほど恐ろしいものだったらしい。


住職はそこまで話してから、Aにニッコリと微笑むと、

「もう大丈夫やし」と言ったという。

509 :502=桑原和男:2009/07/10(金) 19:16:45 ID:h1B9YgXf0


自分とAは村に着くと、実家ではなく、まずお寺に向かった。

ハッキリいってボロいお寺だったけど、

なぜか塀に沿って石の玉がゴロゴロ並んでる。

それも1個2個じゃなくて、何十個っていう数。

なのに、どれも砕けてたり、真っ二つだったり。

ちょうど自分らは、愛車のカブに乗って住職が帰ってきたところに居合わせ、

住職はニコニコ笑ってヘルメットを脱ぐと、

手招きで来い来いとやってみせた。

「あの、ご住職。この玉ってなんなんですか?」

門をくぐって敷地内に入っても、砕けた玉はそこらじゅうに置いてあり、

気になってたずねてみた。

「ああ、それは『ぼん』や。(ぼん=坊ずの意。つまりAのことね)

 ○△がぼんを殺そうとしとったんやし。お代わりやな」

縁側に腰掛けて、住職が続けた。

「●●さん(お師匠さんのこと)は、ぼんのお代わりさんが足りんで、

 何から何までお代わりさんにしたんやし。

 わしのベンツ(愛車カブのことらしい)

 もお代わりさんにされそうやったし」

カラカラと笑ったが、ふと真顔になって、

「●●さんはな…そうやな…」

そこまで言うと、スタスタと奥に入って行き、

程なくしてなにやら包みを持って戻ってきた。


510 :502:2009/07/10(金) 19:18:34 ID:h1B9YgXf0


「●●さんや」

包みを解くと、真っ二つに割れた漆塗りの位牌が出てきた。

「…なんで俺にそこまでしてくれたんすかねぇ…」

無理やり力で割ったような、不自然な割れ方をした位牌を見ながら、

Aがつぶやいた。


しばらく誰も口を開かなかったけど、日が傾き始めた頃に、

Aが持ってきたお酒とお土産を置いて、お寺を出る事を告げた。

「大事にしよし」

住職はそう言って見送ってくれて、自分らはAの実家へ向かった。

「なぁ、○△ってなにがダメなん?」

帰り道でAに聞いてみた。

「○△はな、人が不幸になるだけなんよ。

 ○△本人が周りを巻き込んで、どんどん不幸にしていくんだ。

 なんなのかはよくわからん。昔は結構あったらしい。

 ○△がいるだけで不幸になる。

 何しても人が病気になる、命を落とす、家が没落する、

 作物が取れない、家畜が死ぬ。

 だから殺さないといけなかったらしい」

しかも、殺すときは、聞いてるだけで晩飯が食べられなく

なるほどの内容で殺されるらしい。

「この時代にそんなアナクロな、なぁ?」

そう言ってAは笑った。


後々聞いた話によると、

Aが○△でなくなったという理由はいろいろあったらしい。

お師匠さんの遺言で、『お代わりさん』だけは欠かさなかったのが、

ある日突然『お代わりさん』が壊れなくなったんだそうだ。

それで大丈夫、ってなったらしい。

『オススメの怖い話(名作・長編)』









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Sharetube