【洒落怖】貧困の国(名作・長編)
『貧困の国』
918 :1/5:03/02/12 18:36私が今から話すことは、所謂『オカルト』といった性質のものではない。
しかし、私にとっては本当に洒落にならない経験だった。
だから、かなりの長文ではあるが、ここに書き込むことにする。
霊の類の話を期待している向きには申し訳ないが、
しばらくの間、我慢して欲しい。
私は昨年まで外資系の企業に勤めていた。
ある時、私に「C国へ出向しないか」という打診があった。
会社はC国に工場を所有しており、
そこの技術者に日本国内の工場で採用されているシステムを
修得させるのが目的の、長期出向だった。
長期とは言っても、現地スタッフによる運用が可能となるまでの、
期間限定の出向だったし、
現地での待遇も、帰ってきてからのポストも、非常に良い条件だった。
私は少し考えた上で承諾した。
C国の工場で引継を終えた夜、私は前任者と食事を共にした。
前任者(仮にT氏としておく)は赴任してから半年後に、
健康上の理由から日本への帰国を希望していた。
目の前のT氏は確かに頬がこけていて顔色が悪く、
心身共に疲れ切っているような印象だった。
T氏は、現地での生活について様々なアドバイスをしてくれたのだが、
中でも「倉庫の裏にある丘には決して近づくな」というようなことを、
ことさら強調した。
私がその理由を尋ねても、T氏は口を噤んだままだった。
やがてT氏は帰国し、私のC国での生活が始まった。
919 :2/5:03/02/12 18:37
C国は最近まで激しい内戦が続き、
それが国民の生活に大きな影を落としていた。
工場の周辺は農村地帯だったので、
破壊行為の跡などはあまり見られなかったが、
ゲリラによる虐殺や略奪は、
このあたりの集落にも及んでいるようだった。
働き手や財産を内戦で失った家庭などは、
日々の生活すらも全く困窮している有様だった。
そんな家の子供は工場へと続く道端で、
半ば物乞いのような事をさせられていた。
また、工場に雇われている労働者には、
夫を亡くした女が優先的に採用されており、
彼女らの子供は、母親が仕事を終えるまで工場の近くで遊んでいる。
工場の周辺には、そんな訳ありの子供が大勢集まっていた。
私はいつの頃からか、そんな子供達と仲良くなり、
昼休みや仕事がヒマな時などは、
彼らの遊び相手になることもしばしばだった。
ある昼休みのことだった。
いつも工場の周りで遊んでいるKという子供が、
「面白い所があるから一緒に行ってみよう」と私を誘った。
「すぐ近くだから」と言うK君の言葉を信じて、
私はK君と彼の妹のSちゃんと一緒に、
工場の脇の林に向かって歩きだした。
しばらく木立の中を歩いていくと急に視界が開けて、
広い空き地のような所に出た。
K君とSちゃんは、そこでサッカーのようなことをして遊び始めた。
私も混ざってみたけれど、K君のボール捌きはなかなかのもので、
本気にならなければK君のボールを奪うことは出来なかった。
そうこうするうちに昼休みも終わり、私は職場へ戻った。
何日かして、K君とSちゃんと私はやはりあの空き地へやって来た。
その日は、私は木陰でぼんやりとK君とSちゃんの遊ぶ姿を眺めていた。
ふと視線を工場の方に向けると、少し離れたところに倉庫が見えた。
そこで、以前T氏が言っていたことを思い出した。
『倉庫の裏にある丘には決して近づくな』
そういえば、ここの地形は少し盛り上がっていて、
丘のような感じがする・・・
921 :3/5:03/02/12 18:38
私は近くにいたK君を呼びかけ、もう帰ろうと誘った。
Sちゃんを探すと、反対側の木立の辺りに立って、
何かをジッと見つめているようだった。
見ると、黄色いオモチャのようなモノが落ちている。
それを拾おうとして、Sちゃんはしゃがみ込んだ。
私はSちゃんの方へ足を踏み出し、『帰るよ』と呼びかけようとした。
すると、K君が袖を掴んで軽く引っ張った。
私は思わずK君の方を向いた。
ドンッ!
突然、腹に響くような大きな音がして、私はSちゃんの方を振り向いた。
Sちゃんは地面に倒れていた。
私は急いで駆け寄ったがダメだった。
足や手があり得ない方向に曲がっていて、体の下から血が溢れている。
しばらく呆然と立ち竦んでいた。
が、不意に、Sちゃんの拾おうとしていた黄色いモノが、
地雷であったことに気付いた。
もちろん、対人地雷のことはC国に来る前から聞いていた。
子供が興味を持つような色や形の地雷があることも、
世界各国で、それらの犠牲となり、
手足を失った子供の写真も見たことがある。
しかし、私には実感がなかった。
情けない話だが、Sちゃんの無惨な遺体を見るまでは、
私の目の前で幼い子供が犠牲になるなど、考えてもみなかった。
振り返ると、K君が顔をクシャクシャにして泣いていた。
922 :4/5:03/02/12 18:39
Sちゃんが死んだ丘は、法的には工場の敷地だった。
実際には、地雷の危険性があったということで、立ち入り禁止となってた。
しかし、そこを囲っていた有刺鉄線はとっくに盗まれていた、
ということだった。
私はSちゃんの家族に会って謝ろうと思ったが、
工場長をはじめ現地のスタッフは皆反対した。
「あれは事故だ。断じてあなたのせいではない」
皆がそう言って私を慰めてくれた。
後に工場長から、Sちゃんの家族には会社から見舞金が渡された、
と聞かされた。
私はしばらくの間、自宅で休養した。
工場に戻っても、以前のように子供と遊ぶ気にはならなかった。
K君と会うことも二度となかった。
923 :5/5:03/02/12 18:40
やがて月日がたち、当初の目的を果たした私は、
日本へ帰ることになった。
帰国した私は、真っ先にT氏に連絡を取り、
会う約束を取り付けた。
T氏は私を見るなり何かに気付いたようで、深いため息をついて言った。
「ご愁傷様だな」
私は少し間をおいてT氏に尋ねた。
「あなたも、あそこで同じような体験をしたんですね」
「ああ、私の時は男の子だったよ。赤い地雷だった」
「・・・その後は?」
「たぶん君と同じだ。一月もすると別の子供が誘いに来た。
行ってみると、有刺鉄線などどこにもなかった」
T氏はひどく悲しそうな目をしていた。
「それからは、ひっきりなしだ。兄弟連れで、何人も何人も・・・」
Sちゃんの家族の手に渡った見舞金。
我々にとってははした金程度のものでも、
C国では家族を数年養えるだけの価値がある。
おまけに養う口は一つ減るのだ。
しばらくの間T氏と私は、子供達の運命を呪うように黙って俯いていた。
926 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/02/12 18:46
もしかして口減らしのために地雷に・・・?
927 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/02/12 18:49
>>918-923
T氏が何故その事を伝えなかったのか・・・
それも怖い。
929 :918:03/02/12 18:50
>>926
多分そうだと思う。
考えたくはないけれど。
地雷も持ち込んだんじゃないか、と。
932 :918:03/02/12 18:52
>>927
T氏には確信がなかったそうだ。
でも、私の話を聞いて後悔していたのを憶えてる。
939 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/02/12 19:55
なぜ地雷があるってはっきり言えないんだよ、Tのバカ!
943 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/02/12 20:08
>>939
同意。
確信が無かったって、
「地雷があるよ」って言って実際は無かったって、
殺されるわけじゃなかろーに!!!!
Tのアホ、Tのバカ、Tの人殺し!!
もし一言教えてくれてれば、
少なくともSちゃんは死なずに済んだかも知れない!!
946 :魔界一号:03/02/12 20:12
>>943
そう、感情的になるなよ。
例えSちゃんは死なずに済んだかもしれないが、
海の水をたらいで汲み出すみたいなもんだよ。
根本的な解決にはならない。
969 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:03/02/12 22:06
>>918
大変面白く読めました。
しかし、輸入商社の私から見ると、
「日本の企業(特に工場をもつメーカー)が、
そんな危険な地域に進出するだろうか?」
とつっこんで見るテスト。
商社は危険地帯でもガンガン行く事あるけどなー。
作り話なら、なおさら上手いなぁ、と思います。
でも、本当だとしたら…書き込んだ本人が
地雷の犠牲者になる可能性を考えると、
Tがこの事を伝えなかったのは…ハッ!!もしや!!
976 :918:03/02/12 22:37
>>943
T氏によると、事故の後に丘を調べたところ、地雷は無かったそうです。
私の時は会社の人間で調べたのですが、
地雷の捜索は素人には非常に難しい。
現地のNGOに地雷の除去を頼んだらどうか、という意見も出ましたが、
結局実現しませんでした。
>>946
私見ですが、あの時会社からの見舞金がなければ、
K君の家族は全滅していたかもしれません。
その場合、死ぬ順番はやっぱりSちゃんのほうが早かったでしょうね。
本当に、やり切れない思いです。
>>969
そうですか。国内メーカーは、何と言うか腰が引けていますね。
ヨーロッパ系の会社は、そのへんがシビアというか、
政治に介入してでも、橋頭堡は確保しようとする傾向がありますね。
今思えば、「過去に地雷で事故があった」という一言ぐらいは、
あってもよかったような気がします。<T氏
これを見てレスをくれるという可能性は・・・まあ無いでしょうね。
板違いの長文レス、すみませんでした。
あ、口調が変わってますね。
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